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ピエロ  作者: 二本狐
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手がかりを追って1 - 部室にきた -

「お前ら仲いいよなー」

「……こんにちは」

 部室にいる人達からは『お疲れ様です』という定番の言葉をかけられているというのに、弘樹(ひろき)先輩だけニヤニヤとしながらそう言ってきた。

「『お前ら仲いいよな』って、どういう意味ですか?」

「いや、何でもねえぞ。……お前ら仲いいよなー」

 愛理さんを見ながら弘樹先輩はまたそう言った。弘樹先輩は絶対に僕の想いに気付いている。だから大きくため息を吐いた。

 確かに僕もそうなりたいとは思うけれど、実状僕と愛理さんは友達でありサークル仲間。それ以上でもそれ以下でもない。

 ……うわ、なんか泣きたくなってくる。

「とりあえず熱気が入ってくるし早く入れや」

「はーい。お疲れさまですー」

 僕が入ると、愛理さんがサークル内での挨拶になっている言葉を吐いて部室に入る。四コマが終わった時間帯だけど、今日は意外と人が少なかった。弘樹先輩以外にも何人かいるぐらいだ。

 ……なんで皆、こっちをニヤニヤとしているのか。

 その視線を振り切るように一番奥に行って端の方に鞄を置いてから、先に事を終わらせるために近くにいた先輩に声を掛ける。

「あの、名島(なじま)先輩」

「ん? なに? なにか訊きたいことでも? 残念だけど燿君の彼女にはなれないなー!」

「いや、違いますけど?」

 告白していないのに振られるってどういう状況なのか。

「そもそも名島先輩、貴女彼氏いますよね」

 まあねーと返す名島先輩に冷えた視線を向けながら座ると、名島先輩の隣にいた水方(みなかた)先輩が少し意地悪な笑みを浮かべながら口を開いた。

「なに、名島先輩。今度は後輩に手をだすつもり? 面倒だからやめてよ」

「え? そ、そんなことないわよ。ちょっと冗談を――」

「そんな何人も攻略しようとして、ゲームじゃないんだからさ」

「私は彼氏一筋ですー!」

「確かに束にすれば一本だな」

 弘樹先輩が聞いていたのか、そう投げ放った言葉が綺麗に名島先輩の胸を抉ったみたい。綺麗に土下座する感じで床に没した。

 これでひと通りの流れが済んだというか、一旦名島先輩がいじられる流れが止まったのを見計らって本題に入った。

「えっと、名島先輩って一応四年生ですよね?」

 そう質問すると、物凄い勢いで復活した。

「そうよ。知っての通り純粋培養じゃないけど」

 確か二回留年したんだっけ。

「つまり、六年生――」

「そういうのは言わないの! もう」

 別に言っても言わなくても、その事実は変わらないのに、なんで怒るのだろうか。

「え? 名島先輩は純粋培養だよ?」

「愛理さん、今はそこじゃないんだ。というか、名島先輩のどこが純粋培養なの?」

 そう質問すると、弘樹先輩が横から会話に入ってきた。

「名島先輩は純粋培養じゃねえぞ? てかどう考えても不純物が混ざりすぎてるだろうが」

「どういうことなのよ!」

「愛理さん、こういうことだよ」

「燿君、どういうこと!?」

「なるほど……」

「あ、あいりちゃーん?」

 僕と弘樹先輩と愛理さん。この三コンボで名島先輩は泣き始めた。

「それで名島先輩、訊きたいことがあるんですけど」

「え、なに?」

 嘘泣きだと思ったけど、あまりの切り替えの速さに僕も弘樹先輩も呆れてため息を吐いた。弘樹先輩はそのままスマホを弄り始める。

 水方先輩は水方先輩で、もう僕らの会話に興味をなくしたのか、他の人と仲睦まじく会話をしていた。

 その二人から視線を外すと、少し訊き方に慎重になりながら口を開く。けど、先に愛理さんが質問を口にした。

「えっと、この部室に昔からある不思議な物って何かありますか?」

「不思議な物……不思議な物?」

「はい。僕らは知らないけど、名島先輩がこの部活に入ってからこの部室にあって、なおかつよく分からないものとか」

「うーん……ちょっと待ってね。いっぱいあるから……」

 いっぱいあるんだ。

 この部室が一つのビックリ箱みたいだと思いながら、名島先輩が思考の渦から戻ってくるのを待っていると、服の端を軽く引っ張られた。

「お菓子食べる?」

「あ、うん。いただきます」

「あ、愛梨ちゃん。私も食べてもいい?」

 さっきまでの一連の流れの間、ずっとスマホを弄っていた雪歌(ゆきか)先輩が愛梨さんにすでに一つ抜き取ったあとに聞いた。

「いいですよー」

「ありがとー。……ねえ、燿、燿ってまた変なことやってるの?」

「変なことって、僕は別に変なことするような人間じゃありませんよ。このサークルでは至って普通の人間じゃないですか」

「そう言っている時点で燿ってふつうじゃないんだよ? わかる? ね、わかる?」

「いや、そんなことは……」

 雪歌先輩はマイペースな口調で、多分僕がふつうじゃないって言っているのは雪歌先輩のマイペース調査結果のせいなんだと思う。

「どう思う愛梨ちゃん?」

 そこで愛理さんに話を振る!?

「うーん。あ、燿君はお好み焼きひっくり返すのが下手だったり、私がぷんぷんって怒っても笑顔だったりしてるから、個性があって良いと思うよ!」

 ……ほとんどフォローじゃなくてトドメだよ……。

 項垂れながら雪歌先輩の爆笑を尻目にため息を吐くと、愛理さんがポケットからいくつかお菓子を取り出したから貰い受ける。

 僕は食べるより愛理さんがポリポリと少しずつ食べている姿を見ている方が幸せなんだけどね。

「あ、燿ー、最近あのゲームにあんまりログインしていないようだから、たまにはしておいてね」

「了解です」

 そこが引き際だと思ったのか、雪歌先輩は自分の世界――音ゲーへと入っていった。

「あ、そうだ。さっきのメール、僕のところにも転送しておいてくれない?」

「んー、いいよ」

 愛理さんに二つ返事で了承をもらうと、早速メールをもらった。

 メールにもう一度目を通す。

 一つ、タイムカプセルの発掘。

 二つ、期限は二日後。

 三つ、物は屋内にある。

 四つ、文芸部らしい物。

 最後にそっと脳内につけ加えてスマホのメモ帳アプリにメモをする。

 すると、名島先輩が笑顔で声を上げた。

「思い出したわ!」

 立ち上がって棚の奥の方を漁って、『捨てるな危険!』と書かれたかなり危ない香りがするものを取り出してきた。

「これじゃない?」

「えっと、箱、ですね」

 それほど大きくはない、こじんまりとした箱。大体B5ぐらいだろうか。とても丁寧に扱われたような感じで、書かれた字体はかなり新しさを強調しているかのようにとても綺麗だ。

「この中に何が入っているんですか?」

「えっと……なんだったかな。私もよく覚えていなんだけど……」

「開ければわかるよ!」

 そう言って愛理さんがカパリと蓋を開け放った。

「普通さ、そんなあっさり開けないと思うよ……」

「うーん……燿君が書いた、『開けたらびっくり箱! しかしその下にはラブレターが!?』だなんていう展開とか絶対そんな展開にはならないだろうし」

「なんでそんなこと覚えているのさ……」

 しかもそれ、最後無理心中するやつで、僕的にはあまりできが良くないと思ったやつだ。

「燿君、それより中だよ中。外見より中」

 そう言って覗き込んだから、僕と名島先輩も揃って覗く。

「ん、と?」

 そこには、二つの箱があった。

「えっと、こっちは甲で……」

「こっちは乙ね」

 愛理さんと名島先輩が箱を取り出した。何の変哲もない箱。

 ふと、元々の大きな箱の下に紙があることに気付いた。

 その紙を手に持つと、字が書いてあった。

「えっと、『甲には救済措置が、乙には非常食があります。非常時にどうぞ』だって」

「どういうこと?」

「開けばわかるよ。甲を開いて、愛理さん」

「はーい」

 適当に名島先輩に返事して開いてもらうと、一枚だけ小さな紙があった。

 その紙を取ろうとしたら、一瞬早く愛理さんが先に紙を取った。

「えっと、ああ、なるほど」

「ん? どういうこと?」

 僕の位置からは全く見えないからわからないんだけれど。

「あ、名島先輩ありがとうございます。もういいですよ、ぐーたらしてて」

「先輩の扱いが酷い!? あ、ぐーたらついでに今度一緒に旅行に行かない?」

「卒論書けよ」

「うー……燿君が酷いー……」

 思わず敬語が無くなった。けど、僕の反応は当然だと思うんだ。卒論も書かずに旅行とかこの人卒業する気あるのかな? 絶対にこうはなりたくない。

 泣いたふりをし始めた名島先輩を無視して愛理さんから紙を貸してもらうと、目を通しつつ読み上げた。

「『救済措置:2F/和書 290.93/C 44/12』……どういうことですか、名島先輩?」

「ふふ、分からないの?」

 口をニヤつかせながらそう言ってきた。

「なんですか、めんどくさい」

「ふふ、燿君本当にわからないんだー?」

「わかりませんよ。だから早く言ってください」

 そう返すと、名島先輩が立ち上がって僕から奪い返した。僕が一度読み上げた文をもう一度読み上げた。

「『2F/和書 290.93/C 44/12』ここまで言ってるんだからわかっても良いじゃない!」

 なかなか答えを言ってくれない。というか、焦らすというより、

「……名島先輩? 実はわかっていないんじゃないですか」

「ギクッ」

「そんなあからさまに言わないでくださいよ、はぁ……」

 なんか無駄に気力を使った気がする……。

「ほら、愛理さん……愛理さん?」

「む?」

「……どんだけ口に入れてるの……?」

「……そこまで食べてないよ?」

 だったらなんでそんなに頬が膨らんでるのか。それに、さっき開けなかった非常食の袋が開いているんだけど……。

 中身も結構出てるし、ポリポリとお菓子を食べているものだから、口の中にためているのかと思うのは仕方ない。

 愛理さんが口の中にあったものを全部飲み込んでから口を開いた。

「多分それ、私達がいつも使ってる図書館の照会コードじゃない?」

「図書館の照会コード? ……ああ! そっか。それだ」

 鞄から図書館で借りた本を取り出して背表紙をみる。

 この本にはなるほど、上から確かに『386』『246』『Y87』って書いてある。

「じゃあその照会コードに書かれた本を探せば良いのか」

「そうと決まればワトソン君、図書館にいこうか」

「少しお待ちください、ホームズ先生。今日はもう日が西へ沈もうとしております。であるからには今日は一時撤退し、明日の午後にもう一度参られたほうがよろしいと思われます」

「そ、そうだね。え、えっと……ワトソン君、ではそろそろ帰ろうぞ?」

「はいはい……」

 大仰な芝居をとって鞄を手に取ると、「お疲れ様でした」と言って外へでる。

 すると、弘樹先輩がニヤニヤと一言、ぽつりと呟いたのが耳に入った。

「お前ら仲いいよなー」

 ……ご冗談を。


お読みいただきありがとうございます。


おさらい:救済が必要なのは六年生の先輩なのかも。

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