僕という少年の話
夜になると僕の部屋は誰にも侵されない書斎になる。僕はそこで何度も読み返した「僕」の本を手に取り、椅子に腰掛け、夜風を肌に感じながら
1人の世界に籠る。
「僕」は自分を好いていた。
それは顔に自信があって、髪を整えたりおしゃれな服を着たりして自己開示欲を満たすものとは違い、
単純に人気者だったからだ。
僕は人気者の僕が好きだった。
小学生の頃は誰しもが青春の1ページとして、
心の奥底深くに輝かしい栄光を宿しているものと思うが、僕もその類の人間らしい。
給食の時間、休み時間、放課後、授業中、
5時の鐘が鳴って家に帰る頃、
その全ての時間において、僕は主人公だった。
人気者の僕はよくボケをした。
運動は好きではなかったが、放課後のサッカーは大好きだった。後に、「奇跡のキーパー」というあだ名がついた。
絵が得意だった。
友達につたない絵と文をぐちゃぐちゃにしたような漫画もどきを見せると、褒められる。
それで僕は満足だったのだ。
やがて、卒業文集に将来の夢として漫画家と書いた。
だが時が経つにつれ僕は「僕」をだんだん好きでなくなっていった。
人前でボケるのが嫌になった。
漫画はいつしか描く気も起きなくなった。
人前で声を上げるのが好きだった僕は
人の目がひどく恐ろしいものに変わった。
勉強は相変わらず嫌いなままだったが、
目に見える点数のあれこれは滝が流れていくかの如く失速の一途を辿り、自己嫌悪の吹き溜まりと化した。
誰かのことを嫌いになりそうになった時、
いいところを思い浮かべて仲直りしていたあの頃はなく、嫌いな人とは付き合いたくないという気持ちが強くなって、そのとおりにした。
結果的に僕は人気者から
変な馬鹿と見られるようになったと思う。
おそらく1度の転校がある種の
負の連鎖の引き金となったのだと今になり思う。
新しい友達を作るのと、ほどけた関係を結び直すのは僕は上手くない。
僕は「僕」自身が好きなわけではなかった。
人気者の僕を狂おしいほど好いていた。
人気の無い僕など好きな要素などないのだ。
これは本心であると同時に戯言か、あるいは
リアリティのある嘘だ。
だがこんな僕にも希望がないわけでもない。
気の合う友達は今も少なからずいる。
夢を語っても笑わないようないいヤツらなんだ。
これからの僕はきっと、もっと「僕」を嫌いになるだろうな。
でもその僕が少しでも誰かに好かれるならば、
僕を認めてもらうために、貪欲に、這いつくばってでも、なんとなく生きようか。
この本は未だ完成せず、
秋の空気を受けてめくれてゆくページは
ほぼ白紙の束で、
何色にも、どんな愚痴や興奮を書いてもまだまだ書き足りることはないのだから。
そんなことを考え、満足になったら
とりあえず寝るとするよ。




