学生ラウンジ
私には霊が見える。子どもの時から、ずっと。
心ない人や、ただ単に興味がある人は、私のこの体質に憧れるみたいだが、ただ不便で困るだけだ。
大学1年のある日、私は学生ラウンジで新しくできた友達2人と話をしていた。もちろん、この2人には私が霊が見えるだなんで言えない。言えやしない。ましてや出会ってばっかで直ぐにこんな変な話をする方がおかしいだろう。
絵里と美希は同じ学部の学生らしく、時たまに見かける私に声をかけたらしい。絵里はとてもおしゃべりで、なかなか私が会話に入る隙を与えてくれないほどだ。美希は少しおとなしく、絵里の言ったことにうん、うん、とうなずくぐらいだ。
私はこの2人との会話が楽しかった。特に緑あふれるキャンパスを眺められるこの学生ラウンジで、日の光をあびながら2人と話すのが好きだった。何人か、こっちを笑いながら見ている。きっと絵里の会話が耳にはいってしまったのだろう。
しかし、そんななか私は気がついたのだ。何か、強い視線を。
ずっと誰かに見つめられている気がする。私はいけないとは思いつつも、その視線のもとを見た。そこには私のこと見ている女性がいた。服装は黒系のブラウスに黒のスカートとそれほど変ではなかったが、目を大きく見開いて、何も言わずにずっとこっちを見ている姿は異常だった。
まただ。霊はこうやっていつも私の気を引かせるのだ。そして私の心に住み着き、その存在を忘れなくなったら最後、霊は一生私に取り憑くのだ。私が忘れるまで。でも私は昔から何度も同じことを経験してきた。そう、いつものことだ。忘れよう。忘れよう。
「どうかしたの?」
絵里が心配そうな顔で私を見る。霊を見てしまった、とはいえず、「何でもない」と返す。絵里と美希が安心した表情で肩をなで下ろす。そうだ、この2人とずっと話していれば忘れられる。2人に集中すればいいのだ。結局あの女性を忘れることが出来なかった。
夜、私は、してはいけないと思いつつも、今日ずっと私を見ていた女性の事を思い返していた。どうしても忘れられないのだ。霊はあらゆる手を使って、私にその存在を忘れないようにさせる。私たちに想像をさせるのだ。その存在を。
もしも彼女が窓の外にいたら・・・
もしも彼女が私のベットの下に潜り込んでいたら・・・
りりりり・・・りりりり・・・
私の携帯が鳴った。恐る恐る出てみると、絵里だった。絵里曰く、今日の私が変だったから、電話して来たのだと言う。ありがとう、と絵里に言うと、電話を切って寝た。絵里のおかげでゆっくり寝ることが出来た。
次の日も、そのつぎの日も、ラウンジにいると黒い服の女性はこっちを見ている。もう彼女の方に目線を向けない方が難しくなってきたぐらいだ。もうだめだ、と思うと、絵里と美希が声をかけてくれる。周りの学生の笑い声とは反対に、私の気分は沈んでいった。
そしてそのつぎの日。霊の女性に気にしながら絵里と美希と会話をする。すると、黒い服の女性が立ち上がった。
コツ・・・コツ・・・コツ・・・
一歩一歩、確実にこちらに近づいている。私の全身が恐怖に染まって行った。もはや絵里と美希の会話なんて耳に入らない。恐怖だけが私を支配していた。
そして女性は私の前で止まった。そしてこういった。
「あなた、誰と話しているの?」
言葉がどもる。何と言っていいか分からない。
「あ・・・えっと・・・同じ学部の絵里と美希です・・・」
そうすると、女性は不気味な笑顔を見せながら言った。
「・・・あなた、私と同じね。霊が見えるのね。」
その言葉で私は悟った。全てを。あぁ、やっぱり霊が見えるのは困ったものだ。
読んでいただきありがとうございました。
前々からなにか書いてみたいと思っていたのですが、なんとなく昨日の夜思いついた、なんとなく怖い話を、なんとなく書いてみました。でも、やっぱベタですよね、なんとなく。
ホラーじゃないんですが、やっぱり現実だと信じていた事が実は現実じゃなかった恐怖ってありますよね。そんな事思いながら書きました。ハイ。