終章
ラングリオン王都、サウスストリート沿い住む占い師。
ラングリオンの王族をはじめ、国外からも熱心に通う人間が居るほど人気のその店は、平日の午前しか開店しない。
しかし、その占い師が占いたいと願う者には、裏口の扉が開かれているという。
「いらっしゃい、リリーシア」
裏口の扉を開いたのは、黒髪と黒い瞳の少女。
「待っていたよ」
浮かない顔で、少女は占い師の前に座る。
「ねぇ、ポラリス。私がエイダに教えた愛って、正しかったのかな」
「本当に。悩める少女だね、お前は」
「精霊同士が愛し合うことはできないの?」
「どう思うんだい。お前は、精霊と人間の愛を知り、精霊同士の愛を知り、果ては悪魔と人間の愛も知ったじゃないか」
「どれも、幸せな結末に思えない。レイリスは家族で暮らすことができなかったし、エイダとパスカルは一緒になれば魂が消滅してしまうんだ。それに、リリスは…」
「それが不幸だと言うのかい」
「私は、エルとずっと一緒に居たいし、エルに触れたいし、抱きしめたい。エルの子供を産んで、家族として暮らしたい。それを全て、叶えたいと思う」
「それは人間同士にしかできないだろうね」
「精霊には、不可能なのかな」
「人間の一生は短い。精霊が子供を産んでも、子供が成長するのなんてあっという間さ。一緒に居る期間なんてわずかだ。精霊同士が一緒に居たって、悠久の時間を一緒に過ごすなんて飽きてしまう。相手を知り尽くしたら興味なんてわかないものさ」
「そうかな」
「そうだ、と言ったらどうする」
「えっと…。違うと思う。私、エルとどれだけ長く一緒に居ても飽きないよ」
「ふふふ。面白いね。ねぇ、リリーシア。人間は、どうして愛し合うのだろうね?」
「え?」
リリーシアは、難しい顔で黙る。
そして、しばらくの沈黙の後、口を開く。
「わからない」
「精霊にも、神にも存在しなかったもの。それを人間が作り出し、それが、世界を変えたんだ」
「人間が、神を超えると言うの」
「超えたじゃないか。お前は死ぬはずだったエルロックの宿命を救った」
「だって、エルも私も、一度死んだんだ」
「そう。一度死んだ人間は運命から解放される。エルロックを縛るものも、お前を縛るものも何一つなくなった」
「それは、良い事なの?」
「未来が無限になったと言うことさ」
「きっと、良い事だよね」
「どうかな」
「…からかってるの?」
「お前の運命はね。彷徨だ。永遠に迷い続ける運命。そしてその迷宮に誰も彼も誘う」
「え?」
「エルロックはお前の運命に巻き込まれ、道を踏み外したんだよ。お前に関わった者はみんなそうだ」
「…あの」
「でも、誰も彼もが、幸福そうに笑っている。さて。運命に縛られるのと、運命から解放されること。どちらが人間にとって幸が多かったのかな?」
「エイダも、道を踏み外したの…?」
「運命は人間が生まれる瞬間に与えられるんだよ。精霊には無関係だ。精霊が人間の運命に巻き込まれることもないよ」
「私…」
「お前の迷子は、しばらく治らなそうだね」
「エイダは幸せだったかな」
「さぁ。最後、どんな顔をしていたんだい?」
リリーシアは目を閉じる。
そして、目を開いて、微笑む。
「ありがとう。ポラリス」
「礼を言うのは私だよ。ありがとう、セッタルシュ」
「造語?七つの…。弧?」
占い師は笑う。
「エイダも言っていただろう。お前は虹の御使いだって」
「虹…」
「おめでとう、リリーシア。エルロックと幸せにおなり」
「うん。ありがとう」
これで、すべて終わり。
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