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旧作1-2  作者: 智枝 理子
Ⅳ.夜を終わらせる炎
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 洞窟を歩くのは久しぶり。

 そうだ、光の球。

 ポケットに…。

「待って。私が出すわ」

 そう言って、ポリーが自分の荷物から光の球を出して、短剣に当てる。

 光の球は、ポリーの持つ短剣を周回し始めた。

「ポリーも持ってたんだ」

「えぇ。ラングリオンって、道具屋にも薬屋にも売ってるんだもの。便利よね」

「そうなんだ」

 そういえば、エルのお店にも置いてあったっけ。

「この前、私の足に当てちゃったのよ、これ」

「足?」

「おかげで蛍みたいになっちゃったわ」

「短剣で持つより楽じゃない?」

「ありがとう。そう言ってくれるの、リリーだけよ」

 そう言ってポリーが笑う。

「あ~あ。ラングリオンで、リリーにお菓子作ってもらうはずだったのよ。だから、エルについて行ったのに」

「そうだったの?」

「そうよ。ラングリオンの関所でカミーユとアリシアと別れて、そこからエルと旅してきたの。…もう、最悪だったわ」

「…何があったの?」

「聞かないで。一応、感謝もしてるのだし」

 きっと、エルのことだから。

 何か親切をしてあげたんだろうけど、ポリーはそれが気に食わなくて。

 でも、それが親切だってわかってるから感謝してるのかな。

「エルはいい人でしょ?」

「惚気なら聞き飽きたわよ。そういえば、エル、イーシャとキスしたのよ」

「イーシャと?」

 また、何か取引でもしたのかな。

「怒らないの?」

「する必要があったんだよね?」

「えぇ。イーシャを目覚めさせるには、エルの魔力が必要だったの」

 そっか。

 イーシャ。生きてたんだ。

 キスで目覚めるなんて、なんだか眠り姫みたいで、ちょっと羨ましいかも。

「リリーはエルを信頼してるのね」

「うん」

「じゃあ、エルの懺悔を先に話しておくわ」

「懺悔?」

「リリー、ごめん。これで最後だから。…って。エル、嫌がってたのよ。イーシャにキスするの。カミーユが説得したみたいだけど」

「嫌がってた?」

「リリー以外としたくなかったのよ」

「えっと…」

 それ、本当?

「イーシャが目覚めたおかげで、色々わかって、エルは、すべてを終わらせに、リリスを倒しに行くことになったの」

「すべてを終わらせに?」

「えぇ。私たち、みんな救われるのよ。エルが全部解き明かして、解決の方法がはっきりしたの」

「エル、全部見つけたんだね」

 本当に、すべて見つけたんだ。

 そして…。グラシアルへ戻って来たんだ。

「天才よね」

「うん。エルは、強くて、優しくて、頭も良くて、迷わなくて、とてもかっこいい人だよ」

「一つも否定できないのが悔しいところね。何かダメなところ、無いの」

「え?…甘い物が苦手なところ?」

「そうなの?なら、リリーのお菓子が食べられないじゃない」

「えっと、」

 あぁ、思い出しても、申し訳ないの。

 コーヒーのお菓子は必ず作るから、許して。

「そう。…やっぱり、ダメなところないわね」


 洞窟を抜けて、近くを飛んでいる精霊にアユノト村まで案内してもらう。

 まだ日があるうちに、アユノトに到着できた。

「あれ?…リリーシアちゃんにポリシアちゃん」

「カミーユさん」

「カミーユ」

「まさか。本当に、来るとはね…」

「エルは?」

「今朝、王都に飛んで行ったよ」

「飛んで行った?」

「ほら、転移の魔法陣。ソニアがエルを魔法陣で連れて行ったんだ」

「ソニア?ソニアが来ていたの?」

「あぁ」

「あの…」

 ソニアとエルは、戦ったことがあったんだけど…。

「大丈夫。誤解は解けたようだぜ」

 良かった。

「ねぇ、魔法使いは他に来てないの?私も転移の魔法陣で飛べる?」

「いや。魔法使いは全員城に居るはずだ。転移の魔法陣があるのは山の麓だぜ。しかも、あれは氷の精霊が居ないと、転移先の情報がつかめないらしい」

「アリシアがそんなことを言ってたわね」

「知ってるの?ポリー」

「えぇ。理論なら聞いたことがあるわ。実際に使ってみたことはないけれど」

「ポリー使える?」

「人の話し聞いてた?使ったことないのよ」

「使おうと思えば使えるんだよね?」

「だから!」

「まぁまぁ。二人とも、とりあえずトールのところに行こうぜ。俺も厄介になってるし。リリーシアちゃんは会ったことがあるんだろ?」

「うん」

 懐かしいな。

 今からもう、二か月以上前なんだ。


 ※


 見覚えのある広間で。

 エルが倒れてる。

 うつぶせに倒れたエルに刺さっている剣。

 あれは…。

 その剣を持っている人物。

 あれは…。

 あれは、私?


「!」

 今の、夢?

『リリー?どうしたの?』

「…エイダ」

『大丈夫?まだ、日が昇ってないわ』

「うん…。大丈夫。嫌な夢を見たの」

『嫌な夢?』

「エルが…」

 嘘だ。

 あんなの。

 怖い。

 すごく、怖い。

 エルを救いに来たのに。

 私がエルを殺す?

「少し、散歩してくる」

 上にマントを羽織って、部屋を出る。

 外へ出ようと、暖炉の部屋に差し掛かったところで、明かりが見えて足を止める。

「カミーユさん?」

「ん…?リリーシアちゃんかい」

「まだ起きてるの?」

「いや、さっき起きたところ。眠れないのかい」

「…はい」

「少し話をしよう」

「はい」

 カミーユさんの隣に座る。

「話しというか。懺悔だな」

「懺悔?」

「殴られる覚悟してるから。聞いてくれ。俺はエルにキスしたんだ」

「…え?」

 カミーユさんが、エルに?

「殴ってもいいんだぜ」

「あの…、どうして?」

「あいつ、無防備すぎるんだよ。こうやってさ」

 カミーユさんが私の両肩をつかむ。

「君も、大概無防備だな。押し倒されても文句言えないぜ?」

「絶対そんなことしないと思う」

「どうして」

「カミーユさんだから」

「…舐められたもんだな」

 カミーユさんは私から手を放すと、背中をソファーにつけて、上を見上げる。

「イーシャにキスするの嫌がってたから、エルにキスしたんだよ。一回も二回も同じなんだから、とっととイーシャを目覚めさせて来いって。あの時、イーシャを目覚めさせて情報を得るには、それしか方法がなかった。だから、あいつを恨んだりするなよ。エルがイーシャにキスしたのはリリーシアちゃんの為だ」

「聞いたよ、ポリーから」

「そうか。でも、俺がエルにしたのは、殴られても仕方ない」

「殴らないよ。だって、私もマリーにされたから」

「え?」

「だから、私、エルのことを怒れないし、カミーユさんも怒れない」

「…なんだよ、それは」

「だって、カミーユさんは、私の為に…」

 違う。

 あれ?

 違うよね。

 私を救う方法を聞き出すために、そんなことしたわけじゃない。

 だって、カミーユさんはいつも…。

「エルの為に…?」

 エルに必要なことだったから。

 あれ…?

「あの、カミーユさん、その…」

「言わないでくれ」

「ごめんなさい…」

「だから、懺悔だって言っただろう。殴ってくれた方がまだましだ」

「殴らないよ。殴っても、私、カミーユさんに勝てないのに」

「…は?」

「エルは、私のこと全部カミーユさんに話せるぐらい、カミーユさんのことを信頼してるのに。私、エルにそこまで信用してもらってないんだ。エルは今でも私を守ろうとしてる。私は、守られたくないの。エルと並びたいの。エルにもっと信頼して欲しい。…だから、カミーユさんは私のライバルだよ」

「ライバルって」

「どうしたら、そんなに信頼されるかな」

「…それ、本気で言ってるのか」

「もちろん」

「本当に。君は、すごいよ」

 カミーユさんが笑う。

 あれ。

 この顔、初めて見るかも。

「あぁ。勝てないな。エルが惚れるのが解る」

「え?」

「リリーシアちゃん。あいつはさ。何も欲しがらないんだよ。何も望まない。俺たちに言うのは全部命令だ。断らないこと。可能だってわかってることしか頼まない。でも、リリーシアちゃんだけは別だ。何よりも求めてる。君だけが、エルの望みだ」

「私…?」

「君はエルの為に死んじゃいけない。エルは君を失えば生きていけない。それぐらい、君に依存してる」

「そんなこと…」

「俺の言葉が信じられないか?」

「信じる」

「良い返事だ。それを忘れないでくれ」

 そんなの、初めから決めていたことだ。

 私はエルの為に死なないって。

 エルが大切な人を失うのが、自分のせいだって思わなくても良いように。

 その為に、私はエルと離れたんだ。

「カミーユさん。私、出発するよ」

「え?」

『え?』

「支度してくる」

 部屋に戻って、着替える。

 鎧とガントレット、ブーツ。

 マントを羽織って、リュヌリアンを背負う。

 ポリー。ごめんね。

 じっとしていられない。

 部屋を出て、暖炉の部屋を通る。

「俺も行く。山の麓までしか行けないけれど」

「いいの?」

「どちらにしろ、行かなきゃいけないんだ。俺の役目は、山の麓でアリシアたちを待つことだから」

「アリシアたちが来るの?」

「道中で話そう」

 カミーユさんと外に出る。

 まだ、日が昇るまでは時間がありそうだ。

 砂漠を旅していた時もこんな感じだったな。

「アリシアは、ある計画を立てていたんだよ」

「計画?」

「城の中の人間を、外に出す方法」

「…可能なの?」

「あぁ。可能だ。街ごと、転移の魔法陣で外に移動させるんだ」

「えっ」

「幸い、この山の麓には、転移の魔法陣の出口がある。その出口にでっかい転移の魔法陣を描いて街が安全に転移してこれる受け皿を作ったんだよ」

「カミーユさんが、アリシアと作った魔法陣?」

「そうだ。俺は出口で、魔法陣の監視をする為に、ここに残ってるんだ。入り口側の魔法陣は、城の魔法使いたちが作ってるらしい。街中に」

「大丈夫なの?そんなことして」

「大丈夫らしいな。逆らう行為ではないから。ただ、転移の瞬間に妨害に合うかもしれない。…だから、エルがリリスをひきつけている間に、転移の魔法陣を起動させるんだ」

「それは、いつ始まるの?」

「エルのタイミング次第だ。あいつが城の中に入ったら、始めるって話しだから」

「エルは、どうやって城に入るの?」

「リリーシアちゃんの精霊が、中に入れるらしいぜ」

「え?」

「ほら、試練の扉っていうのを開いて、エルを通すんだ」

「試練の扉…?私以外の人間が通れるの?」

「通せるって言ってたぜ」

「イリスが言うなら、通せるのかな…」

 試練の扉は、イリスの力に反応するはずだから。

 イリスが魔法を使えば開くはずだけど…。

 本当に?

 女王の娘以外を通せるような仕組みになってるの…?



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