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バンクスにたどり着いたのは、日暮れ。
そういえば、雨だったな。
エルと歩いた道を思い出しながら、歩く。
『ここでしたね』
「うん」
エルと泊まった場所。
初めて一緒にお酒を飲んだのもここだったっけ。
「いらっしゃいませ。…あら、まぁ」
前に会ったことがある人だ。
「あの、もしかして、エル…」
「えぇ。昨日いらっしゃって、今朝ご出発されましたよ」
「やった!」
思わず、ポリーと抱き合う。
「追いついた、追いついたよ、ポリー。あと一日!」
「そんなにはしゃがないでよ、リリー。ここから一日詰めるのは不可能って、わかってるでしょ?」
あぁ。そうだった。
ここからキルナにどんなに早く着いたとしても。
キルナからアユノトへは丸一日つぶす距離なのだ。キルナを出発するのは朝一以外考えられない。
「…うん」
「ごめん。そんなに落ち込まないでよ…」
あぁ。これ以上、縮めることはできないんだ。
アユノトから馬車で移動だって無理。
エル、グラシアルで待っててくれないかな。
「彼は、あなたが追いかけているなんて知らないみたいですよ」
「うん…」
「大丈夫よ。アユノトにはカミーユが居るんだし。足止めしてくれてるかもしれないわ」
「そうなの?」
「シャルロから聞いてるんじゃなかったの?」
「えっと…。アリシアとカミーユさんが先に行ったって言うのは聞いたけど…」
「やだ。あの二人もあなたたちの知り合いなの?」
「え?アリシア、ここに来たの?」
「えぇ。銀髪の女性と、金髪の男性よね?お酒をたくさん飲んでくれたから覚えているわ。アリシアさんが酔いつぶれちゃって、彼が介抱してたの」
「アリシアが酔いつぶれたの?…それって意外ね」
エルに飲み比べで勝ったのだから、相当強いんだろうな。
あれ?でも、王都でみんなで飲んだ時は、一番酔っぱらっていた気がする…?
「彼、途中からグレープエードを飲んでいたから」
「え?」
「アリシア、気づかなかったの?」
「えぇ。私が入れ替えてお渡ししていましたから」
それって…。
まさか、エルと飲み比べした時も?
でも、シャルロさんが立ち会ってるはずだから…。
違う。シャルロさんとカミーユさんで、エルを負かせたんだ。
エル、きっと気づいてないんだろうな…。
「ねぇ、リリー。私たちもお酒でも飲む?」
「だめ。私、飲酒禁止って言われてるの」
「エルから?」
「うん」
「何かしたの?」
「…覚えてないの」
「そういえば、リリー、アリシアのお酒、全部飲んだんだっけ?」
「えっ?」
何?その話し。
「だって、アリシアがこっそり集めてたロマーノ。六本全部開けたんでしょ?」
「えっ」
「…覚えてないの?」
「えっと…」
そんなにたくさん飲んだ覚えがないんだけど…。
「エルとどれぐらい飲んだの?」
「そんなに飲んでないと思う」
「何飲んだの?」
「えっと…。カルヴァドスとシュバリエと、チョコレートのと…」
そうだ。その後、エルが作ってくれたんだ。
「内緒と、桜と、甘いの…?」
最後の、なんだったんだろう?
「リリー、全然覚えてないでしょ」
「そんなことないよ」
「わかったわ。お酒はやめておきましょうか」
全然覚えてないってことはないはず。
だって、エルに眼鏡かけさせたのも覚えてる。
どうやって帰ったのかは覚えてないけれど…。




