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旧作1-2  作者: 智枝 理子
Ⅳ.夜を終わらせる炎
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73

 エルと一緒に旅した道を思い出す。

 王都の東大門から馬車に乗って、街道の街へ。

 街道の街から、港へ。

 港で一泊して、午前に出発するグラシアル行きの船に乗る。

 ティルフィグン、ディラッシュを経由して、グラシアルへ。

 航海は常に順調。

 エルの薬のおかげで、船酔いになることもなかった。

 グラシアルの港には夜に到着。

 次の日に、ポルトペスタを目指す馬車に乗る。馬車は、立ち寄ったことのある街で一泊した後、ポルトペスタまで連れてきてくれた。

「休みだから賑やかねー」

「そっか…」

 だから、前よりももっと賑やかな感じがするんだ。

 今日は、立夏の二日。

「で?エルと一緒に泊まった宿ってどこよ?」

「ええと…」

『案内しますよ』

 なんとなく、覚えているのだけど。

 やっぱり、完璧に覚えてはいられない。

 道を遡れって言われたから、エルと一緒に歩いた道を、なるべく馬車を使って遡りつつ、エルと一緒に泊まった宿にも泊まって歩いているのだ。

 今のところ、エルは全部同じ場所に泊まってるから、その足跡を追うことが出来る。

 一つ前の街では、トーロの二十七日に泊まっていた。

 とても、追いつけそうな感じがしない。

「いらっしゃい。…おや、久しぶりだね。今日はあの男の子は一緒じゃないのかい」

「覚えててくれたんですか?」

「知らないのかい?ポルトペスタでも有名人だよ。良くわからないカップルだって」

「えっ?」

「あの男の子、黄昏の魔法使いを退治したんだろ?あんたはあんたで、どこかの貴族の娘だって話しだし」

「えっと…」

「リリー、ここで何やってたの?」

 そんなに目立ってたのかな。

「エル、ここに来ましたか?」

「彼氏?うちには来ていないよ?」

「え?」

 あれ…?

 ここに寄ってない?

「変ね。ここに来てないなんて」

 ポルトペスタは大きな街だから、別の宿をとったのかな。

「とりあえず、部屋を取って、探してみましょうか」

「え?探すの?」

「当たり前じゃない。ここに居るかもしれないのに」

 その可能性は低いと思うんだけど…。

 宿帳に記入して、二人で外へ出る。

「エルが寄りそうなところ、思いつかないの?」

「んー…」

「一緒に行ったところは?」

「えっと…。ポリーズ、ドクトル商会、ブリックス酒屋で買い物をして…。夜船に乗って…」

 そうだ。その後、エルがソニアと戦ってたんだ。

「あの、ね。リリー」

「え?」

「それって、私とニヨルド港で会う前の話しよね?」

「うん」

「夜船に誘われたのよね?」

「うん」

「告白されなかったの、その時」

「えっ?なんで?」

「だって、そうとしか考えられないじゃない。普通、好きな相手じゃなきゃ、二人っきりで、そんなところに行こうと思わないわよ」

「他にもお客さん居たよ?」

「…なんだかエルがかわいそうだわ」

「え?」

「鈍感過ぎるって言ってるの!リリーはそういうのに憧れていたんじゃなかったの?」

「えっ」

 どういうこと?

「信じられないわ。…で?次は何処に行ったの」

「えっと…。エルが黄昏の魔法使い退治をすることになったから…」

「あぁ、偽物が出たって話し、私も聞いたわ」

「うん。それを手伝ったの」

「手伝った?一緒に戦ったの?」

「えっと…。私、何故か貴族の娘って勘違いされてたから。だからエルは、私にドレスを着せて囮になれって言ったんだ。私、ドレスのせいで全然動けなかったから、戦ったのは全部エルだよ」

「それがさっきの女将の話しってわけね。ドレスかぁ。リリーのドレス、見てみたかったわね」

「えっ。だめだよ。もう二度と着たくない」

 あんなの恥ずかしい。

「だから、エルも着せたかったのかしらね」

「え?」

「で?ドレスを着て行ったところはないの?」

「えっと…。グラン・リューのところ。あ、エル、もしかしたら会いに行ってるかも」

「グラン・リュー?どこかで聞いた名前ね」

「ほら、私の宝石学の先生」

「リリーが手紙をやり取りしてた人?」

「うん。…あの、エイダ。場所、解る?」

『えぇ。まかせて』

「本当に優秀ね、貴女」

『ありがとう』


 なんとなく、覚えてる。

 富裕区の雰囲気。

『ここよ』

「ありがとう」

 見覚えのあるお店。

 中に入ると、以前と同じ場所に、グラン・リューがいる。

「こんにちは」

「いらっしゃいませ、リリーシア様、ポリシア様」

「どうして私の名前、知っているの?」

「ポルトペスタのことでしたら、たいていのことは存じておりますよ」

「あの、エル、ここに来ましたか?」

「もちろんでございます。トーロの二十八日にお越しになられて、立夏の朔日にご出発されましたよ」

「え?」

 そんなに長い間、ここに居たの?

「ずっとここに泊まってたの?」

「はい」

「何やってたのよ、こんなところで」

「それはお答えしかねます」

 でも、エルがここに長くいたおかげで、確実にエルに追いついてる。

「他に、御用はございますか?」

「…あ」

 そうだ。

 荷物の中から、真珠を取り出す。

「あの、これ。マーメイドの涙というの」

「…お借りしてもよろしいでしょうか?」

「うん」

 真珠をグラン・リューに渡す。

「おぉ。…間違いございません。これは、マーメイドの涙の、片割れ。これを、どこで手に入れられたのですか?」

「え?…砂漠のキャラバンで、もらったの。片割れを探してあげてって」

「砂漠ですか。そんなところに…」

「あの…。知っているの?片割れ」

「私が若い頃に、この片割れを預かっている時期がありました。私も一つにそろえようとしていたのですが、叶わなかったのです」

「今、どこにあるかわからないの?」

「存じております」

「本当?それじゃあ、これを預けても良い?一つにしてあげたいんだ」

「どうか、お持ちください。この真珠は、旅する真珠なのです。一つの所に留まっておいては不憫です」

「でも…」

「リリーシア様の目的は、エルロック様にお会いになることですね?」

「うん」

「明日の朝、ポルトペスタ西の入口に馬車を待たせておきましょう。バンクスの街まで走らせます」

 バンクス。

 そうだ。エルを追いかけるなら、次は北を目指すんだ。

「ありがとう。いつも、お世話になりっぱなしだ」

「良いのですよ。ご結婚おめでとうございます」

「え?」

「エルロック様から、伺っておりますよ」

「あ…、ありがとう」

「ねぇ。もしかして、エルがここに居たのって…」

「ポリシア様、どうか御内密に」

「大丈夫よ、リリー、死ぬほど鈍感だもの」

「え?」

 どういう意味?

「さ、エルがのんびりしてくれたおかげで、追いつけそうになって来たじゃない。行きましょう」

「うん」

 追いつけるかな。

 …追いつかなきゃ。



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