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旧作1-2  作者: 智枝 理子
Ⅲ.砂漠編
38/46

61

 トーロの十六日の、朝に砂漠の街に到着。そのまま関所で昼まで休んで、眠たい目をこすりながら隣町まで歩く。

 深夜に到着した街で熟睡して、起きた時間に次の街へ。

 なんとか、日常のリズムが戻ってきた、トーロの二十日。

 ようやく。

 久しぶりに、王都の東大門に到着した。

 ここって、エルとラングリオンに来た時にくぐった門と同じだ。

「あ!マリアンヌ様、リリーシア様」

「ただいま」

「どうぞ」

「えっ?」

 急に渡されたのは、ドライフラワー?

「あら。素敵ね」

「どうぞ」

「お祝いです」

「受け取ってください」

 何故か、みんな私に渡してくる。

「えっ?」

「リリー。全部貰わなきゃだめよ」

「え?」

「そういう風習なのよ。とりあえず、シャルロのところに寄って行きましょう」

「あ、あの、」

 道行く人に花をもらいながら歩く。

 何かの、お祭り?

「どうして、みんな私に?」

「リリーじゃなきゃダメだからよ」

「え?」

「エル、帰ってるのかしら」

「えっ」

 待って。心の準備が。

 何て言って謝ろう。

 あぁ、どうしよう。

 でも、楽しみ。

 エルに会うの、すごく久しぶりだ。

「いらっしゃいませ。マリアンヌ様、リリーシア様」

「ただいま、カーリー」

「リリー!」

「えっ、ポリー?」

『久しぶりだな』

 ネモネ。

「久しぶり。…ポリーがいるってことは、エル、」

 やっぱり、帰ってるんだ。

「えぇ。帰ってるわよ。一昨日着いたの。あなたがマリアンヌ?」

「こんにちは。あなたは?」

「ポリシア・ネモネよ。リリーの姉なの」

「姉?姉なのに、ファミリーネームが違うの?」

「え?言ってないの?リリー。シャルロもカミーユも全部知ってたわよ?」

「えっと…」

 そういえば。

 すっかり忘れてた。

「おい。玄関先で何やってる」

「あ。シャルロ、シャワー借りるわよ」

「カーリー、準備してやれ。…リリーシアもか?」

「そうよ。もう、くたくた。リリー、早く行くわよ」

「えっ、と…」

 シャワー借りに来ただけなの?

「真っ直ぐエルのところに帰れば良いじゃない」

「いいのよ。あ、シャルロ、お土産渡しておくわね」

 マリーがシャルロさんに何か渡す。

 あ。私もあったんだ。

「どうぞ」

「お前ら、何しに行ってきたんだ?観光に行ってきたわけじゃないだろ?」

「半分は観光よ。楽しかったわね、リリー」

「うん」

「ところで、さっきから居るあなたは何て名前なの?」

 あ。

「困ったわねぇ。私、シャルロにもカーリーにも、本当のこと、話してないのだけど」

 エイダが顕現する。

「サンドリヨン?」

「サンドリヨン様?」

 きっと、ポリーには、顕現してるかどうかもわからなかったんだよね。エイダが普通に立ってるから。

「ね、見なかったことにしてくれる?」

「…あぁ、大体の事情は察したよ。お前がエルに協力してるっていうのは、そういうわけか」

 流石、シャルロさんだな。

「では、マリアンヌ様、リリーシア様、こちらへ」


 シャワーというか。お風呂の準備をしてもらって、のんびりマリーと入る。

「帰りたくないわぁ」

「え?」

「きっと、叱られるわ。さんざん」

 そういえば、出発する時にも…。

「ごめんね、つき合わせちゃって」

「謝らないで。私、すごく楽しかったわ。リリーと旅ができて。王都を出る時は必ず馬車で移動なんだもの。あんな風に歩いたの、初めてよ。私、また、あの星空を見たいわ。キャラバンのラクダから一緒に見た星空」

「うん。綺麗だったね」

 本当に。

 星が降ってきそうなほどの満天の輝き。

「で?さっきの話し、教えてよ」

 ファミリーネームが違うって話し…。

「私、グラシアルの、女王の娘なの」

「女王の娘?」

「うん。女王と血が繋がってるわけじゃないんだけど。女王の娘って五人いるんだ。みんな一緒に生活してる姉妹だったの。今は、修行の為に外に出てるだけで、本当は、三年たったら帰らなきゃいけない」

「グラシアルに?…帰らないんでしょ?」

「うん。帰らないと…。その、帰らないわけにはいかないんだけど。帰らなくても良い方法があるかもしれなくて、エルが探してくれてるの。エルがセルメアに行ったのも、その方法を探すためだったんだ」

「そう…。そうよね。リリーの為じゃなきゃ、わざわざセルメアに行ったりしないわね」

 セルメアは、黄昏の魔法使いと因縁のある国だから。

「でも、エルらしいわ。なんかこう、目的を決めたら真っ直ぐなところ」

「うん」

「何か見つけられたのかしらね。エルに頑張ってもらわないと、私だってリリーと一緒に居られなくなっちゃうじゃない。来年、一緒に桜を見る約束だってしてるのに」

「大丈夫だよ。だって、エルだから」

「ふふふ。そうね」

 ようやく。

 エルのことを、マリーと共有できるぐらいに知ることが出来たんだ。

 エル、元気にしてるかな。

 会いたい。

 ずっと、会いたかった。

 勝手に砂漠に行ったこと、怒ってるかもしれないけど。

 話したいことがたくさんあるよ。

 エル。


 ※


 シャルロさんとカーリーさんにお礼を言って、マリーと別れて、ポリーと一緒に歩く。

「あ、隊長さんの所に寄っても良い?」

「隊長?」

「ガラハドさん」

「あぁ、三番隊の。いいわよ。リリー、本当に王都で有名人よね」

「え?」

「何かやらかしたの?リリーの名前、ほとんどの人が知ってたわ」

「えっと…」

 それって、あれしかない。

 迷子じゃなかったんだけど…。

『ふふふ。リリーは愛されてるのよ』

「どうぞ」

「はいっ」

「お姉ちゃん、あげる!」

「あ、ありがとう」

 断ってはいけないらしい。

 もう、ブーケが作れるぐらいのドライフラワーだ。

「ねぇ、どうしてみんな私に渡すのかな」

「え?…そうねぇ。エルに聞いてみれば良いんじゃない?」

『教えてやらないのかよ』

「だって。面白いじゃない。エルだって、最初はこれが何なのかわかってなかったみたいよ」

『そうだけどさ』

「ねぇ、イリスにも会ったんだよね?」

「会ったわよ。もう、びっくりしたんだから。あんな強い精霊になってるなんて。本当、エルの魔力って信じられないわね」

「ん…」

 エルの魔力に色がついて見えるのは、エルがレイリスからもらった月の精霊の力を持っているから。

 エルが、精霊と同じように魔法を使えるのは、エルが半分精霊だから。そして、人間だから魔力を回復できる。

「着いたわよ」

 三番隊の宿舎の扉を開く。

 隊長さん、居るかな?

「リリーシアさん。これ、どうぞ」

「おかえりなさい」

「どうぞ」

「はい」

 ばたばたと走り去る間に、三番隊の人たちが私の腕に花を置いて行く。

「いってらっしゃい」

 また、イーストで何かあったんだろうな。

 相変わらず、三番隊って忙しい。

「リリーシア。帰ったのか」

 今出て行った人たちと、入れ違いに隊長さんが戻ってくる。

「隊長さん」

「おかえり。ほら、俺からもプレゼントだ」

 隊長さんが私にドライフラワーをくれる。

「…あの、どうして皆、私にくれるんですか?」

「そりゃ…」

 隊長さんの視線の先、ポリーを見ると、ポリーが口に人差し指を当てている。

「もう」

「すぐにわかるから良いのよ。それより、ガラハドに用事あったんでしょ?」

「あ、うん」

 荷物の中から、タイピンを出して、渡す。

「これ、お土産です」

「土産?」

「はい。いつもお世話になってるから。隊長さんに似合いそうだと思って」

「そうだな。正装の時にはつけさせてもらうよ。…まだエルに会ってないんだろ?早く行ってやりな」

「はい」

「また来るわ」

 頭を下げて、宿舎を後にする。

 それから…。

「あ。ポラリスに会わなきゃ」

「リリー。早くエルに会いたいんじゃないの?」

「えっと…」

 その。

「会いたい、んだけど…。どんな顔して合えば良いのか、わからなくて…」

「何言ってるのよ。いいから行くわよ。もう、どこにも寄り道なんてさせないわ」

 ポリーが私の腕をつかんで、サウスストリートを歩く。

「待って、ポリー、」

 速足で歩くポリーについて行きながら。

 道行く人からドライフラワーをもらいながら。

 待って。

 えっと。

 どうしよう。

 会いたいのはもちろんなんだけど。

 だって、久しぶりすぎて。

 だって。

「エル!リリーを連れて来たわよ!」

 ポリーが、エルの薬屋さんの扉を開く。

「え…?」

 天井から香ってくる、花の匂いに顔を上げると、たくさんのドライフラワーが天井からつりさげられている。

 薬の匂いなんて全然しないぐらいに。

「おかえり、リリーシア」

「ただいま、ルイス」

「…本当に。どうして、一日待てなかったのかな」

「え?」

「リリーシア。エルは居ないよ。旅に出た」

「え…?」

「どういうことよ。昨日は居たじゃない」

「昨日の夜に出発したんだよ」

「グラシアルに?」

「え?グラシアル?」

 どうして、グラシアルに?

「リリーを待つんじゃなかったの?」

「僕に言わないでくれる?エルにも何か事情があったみたいだよ」

「事情って何よ。リリーを連れて行くためにわざわざ遠回りして来たのに」

「遠回り?…ねぇ、ポリー、何の話し?どうして、グラシアルに行かなきゃいけないの?」

『ポリー、口には気をつけろよ。情報を開示して良い人間と、そうじゃない人間ぐらい見極めろ』

「わかったわよ。話しをしたいならシャルロのところに行くわよ」

「待って、ポリー。私…。あの、ルイス、エルは、何か言ってた?」

「会いたかったって言ってたよ」

 エル…。

「エルの部屋に行ってみたら?リリーシアが来るまで開けるなって言ってたから。何かしてるんじゃないかな」

「え?」

「ポリシアさん。今日一日ぐらい、旅の疲れを休ませてあげようよ。僕たちだってリリーシアの話しを聞きたいし」

「わかったわよ。リリー、明日、迎えに来るわ」

「うん…」

 ポリーがお店を出ていく。

「エル、怒っていた?」

「怒ってないよ」

「でも、私…」

「結婚おめでとう。リリーシア」

「え?」

「え、って…。誰も教えてくれなかったの?」

 何の、話し?

「あぁ、うん。そうだね、本当は、エルに言わせたかったんだろうね、みんな」

「ルイス?」

「エルは婚姻届に署名してきたんだよ。だから、リリーシアとエルは正式に結婚したんだ」

 署名?

「ど、どうして?」

「何を驚くことがあるの?」

「だって、私、全部勝手にしたのに」

「リリーシアのプロポーズを、エルが断ると思う?」

「え?」

 えっと。

 そう、なるのかな。

 婚姻届を置いて行くなんて…。

 でも、そんな強制的な方法で?

「だって。エルは、書類を取り下げようと思えば…」

「リリーシア。エルが署名しないって思ってたの?」

「あの…、」

「逆の立場だったらどう?」

 逆?

「エルは、そんなことしないよ」

「しないかな」

「だって。エルだったら、こんな方法使わなくても砂漠に行く方法を見つけ出せるよ」

 ルイスが、くすくす笑う。

「あぁ、そうだね。その通りだ。じゃあ、この話しは終わり。そのドライフラワーはキャロルに渡してくれる?多分、ベランダに居るはずだから」

「うん。わかった」

 久しぶりだな。

 家の中に入って、階段を上る。

 そして、ベランダへ。

「ただいま、キャロル」

「リリー?おかえりなさい!」

 キャロルが私に抱きつく。

「やっぱりリリーもドライフラワー貰ってくるのね」

「え?」

「結婚おめでとう。私もドライフラワーあげたいんだけど、これじゃあ、無理ね」

「どうして、みんなドライフラワーをくれるの?」

「ラングリオンでは、結婚した二人にドライフラワーを贈るのよ。結婚式を挙げるまでずーっと。結婚した二人が、ずっと一緒に居られますようにって。花を渡した二人が幸せになれば、そのおすそわけをもらえるのよ」

「そうなの?」

 あれ?ってことは…。

「みんな、知ってるの?」

「知ってるの?って。リリーがエルを訴えたなんて面白い話し、王都の人が知らないわけないじゃない」

「あぁ…」

 そうなんだ。

 ごめんなさい、エル。

「エルも毎日もらってくるんだもの。お店に来る人も置いて行くから、お店はドライフラワーでいっぱいよ。だから今、外に飾ってるの。…これも、もらうわね」

 持っていたドライフラワーの束を、キャロルに渡す。

「手伝うよ」

「もう終わるから大丈夫よ。それよりもエルの部屋に行ってみて。リリーに見せたいものがあるみたい」

「見せたいもの?」

「うん」

 見せたいものって、なんだろう。

 家の中に戻って、エルの部屋の扉の前に。

 そして、扉を開く。

「あ…」

『まぁ』

 綺麗。

 なんて綺麗なんだろう。

 色鮮やかで。

 華やかで。

 赤。

 白。

 ピンク。

 たまに青い色もある。

 色鮮やかな花が散りばめられた部屋。

 壁にはリースまで飾られてる。

 これ、私の為に…?

『おや、早かったね』

『もう帰ってきたの』

『まだまだ契約の期間は過ぎてないのに』

「あ、の…。あなたたちは、花の妖精?」

『そうだよ。エルに頼まれたんだ』

『君が来るまで、花の美しさを保って欲しいって』

『花のメッセージよ』

「メッセージ?」

『そうだよ』

 花言葉があるのかな。

 サイドテーブルに、ブーケと手紙が置いてある。

 可愛いブーケ。色んな花が入ってる。

 アヤメ。

 これの意味は知っている。

 あなたへの愛のメッセージ。

 他にも知ってるのはいくつかあるのだけど…。

 ちょっと、自信がない。

 手紙を開く。

「…え?」

『手紙じゃなさそうですね』

 これ。

 どうしよう。

 花の名前が羅列されていて。

 最後に。


 花言葉。

 帰って来るまでに調べておいて。


 エルロック


「調べてくる」

 きっと、王立図書館に行けばわかるよね。

 部屋を出て、ベランダに。

「キャロル、王立図書館に連れて行ってほしいの」

「今から?」

「うん。花言葉を調べたいの。これ…」

 キャロルに手紙を見せる。

「なぁに?これ…。わかったわ。お昼を食べたら一緒に行きましょう」

「ありがとう」

「また、ドライフラワー増えるんだろうな」

 えっと。結婚式を挙げるまで続くんだっけ?


 夕方までに調べきれなくて、結局本を数冊借りてくる。

 すべての花言葉が載っている本はないし、花言葉も本によっては意味が違っていたりするのだ。

 キャロルが夕飯を作っている横で、調べた花言葉をメモに書き写していく。

 横に、エルの問題を置いて。

 でも、どれが、求められている答えなのかな…。

「たぶん、手紙なんだよ。繋げたら意味が通じるんじゃないかな」

「手紙…?」

「手紙だったとしたら」

 ルイスが、書き写したメモを見て、くすくす笑う。

「これが、リリーシアへの、エルの気持ちなのかな」

 花言葉というのは本当に、すごい意味が多い。

「エルらしいね。言葉にできないから、代わりに花言葉を調べるように言うなんて」

「普通に手紙、書けないのかしら。エルって」

「苦手なんだよ。きっと。…言葉を繋げるのはリリーシアに任せよう。わからなかったらエルに言わせれば良いだろうから」

「そうね。…ね、リリー、このカップ、使っても良い?」

「うん。使って」

「せっかく四つセットなのにね」

 エル。

 会えると思ってたんだけどな。

 これって、エルに内緒で砂漠に行った罰なのかな。

 それとも、婚姻届を勝手に出した罰…?



 花畑で眠っているみたい。

 良い匂い。

 エル…。

 昨日はここに居たんだよね。

 グラシアルに行った理由、ルイスとキャロルは知らないみたいだった。

 エルは必ず帰ってくるから、待っていた方が良いよって。

 でも。

「エイダ。私、グラシアルを目指そうかな」

『どうして?』

「だって、エイダの目的地はグラシアルだよ。エルと同じ」

『グラシアルの、どこへ行くのかわからないわ』

「王都じゃないかな」

『何故、そう思うの?』

「私を女王から解放する方法があるのって、どこだと思う?」

『え?…それじゃあ、エルは、見つけたと言うの?』

「うん。でも、どうして、王都についてすぐに行ってしまったのかわからない」

 一昨日帰って、昨日出発したなんて。

 私に会いたかったって…。

 だから、遠回りをして王都に…。

 あれ?

 本当だったら、真っ直ぐグラシアルを目指していたの?

 そこまで急ぐ理由があったの?

 それって。

 もしかして、時間がないってこと?

 私に残されている時間が?



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