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旧作1-2  作者: 智枝 理子
Ⅲ.砂漠編
37/46

54


 色々なことを考えて、眠れなくて。

 外に出てみる。

 もうすぐ、日が昇りそう。

 東の空が白み始めている。

 広い通りを歩く。

 砂漠の街は、いつでも人が歩いている。

 生活リズムがみんな違うからなんだろうな。

 歩いて、歩いて。

 街の入口に来てしまった。

 クロライーナってどっちなのかな。

『リリー。あまり遠くへ行かないでね?』

「エイダ」

 ついて来てくれていたんだ。

「ねぇ、エイダ。エルは…」

『そうよ。エルは、封印の棺まで、私を殺しに来た。ガトを生んだ私を。クロライーナを滅ぼした精霊を生んだ私を』

「…どうして」

『エルにとって、それが罪を償う方法だったの。エルはクロライーナを滅ぼしたのが自分だと思っていた。あの時、契約を断らなければ、すぐに瞳を渡していれば、街は滅びなかったって』

 本当に、自分のせいにしたがるんだから。

『でもね、棺を開いて私を見たエルは、言ったわ。自分が間違っていたって。私は殺されても良かったのよ。でも、エルは…』

「エルは、復讐なんてできないよ。今まで失って苦しんできたから。誰かから何かを奪うことなんてできない」

 もしも。エイダが、人間を殺すことを願い続ける精霊だったら、エルも殺せたのかもしれない。

 でも、そうじゃなかったから、余計にエルは。

 何もできなかったんだ。

 そして、気づいたんだ。復讐が無意味だって。

『私は、エルと一緒に行きたいと願ったの。エルを守ることが、罪滅ぼしになれば良いと思って。…でも、違った』

「違った?」

『私が、エルに力を貸すことが。フラーダリーの死に繋がってるの』

「どういうこと?」

『詳しくは言えないわ。…私のせいよ』

「エイダも、エルみたいだ」

 どうして自分のせいにしたがるの。

 エイダは答えない。

「エイダ。私は、エイダの選択が正しかったと思うよ」

『私が、あんなことを言わなければ。フラーダリーは死ななかったかもしれないの』

「違う。関係ないよ」

 どうして、そこに因果関係があると言うの。

 エルがフラーダリーの死を自分の責任にするのだってそう。

 エルがフラーダリーを殺したわけじゃない。

 エイダがフラーダリーを殺したわけじゃない。

 殺したのはイーシャだって。その事実は明白なのに。

「どうして、エイダがエルを守りたいと思うことが、悪い結果を生むの?全く関係ないよ。エイダがここに居なければ、今のエルはない。私もエルと出会わなかった。エイダがトリオット物語を書くこともなかったし、氷の大精霊に会いに行くことにもならなかった。これが、事実だよ。エイダは何も悪くない」

『でもね、』

「私、間違ったこと言ってる?」

『…いいえ。リリーは事実を言っているわ』

「エイダ、自分を責めないで。エルはあなたを信頼してる。信頼してるから、エイダに私を守るように言ったんだよね?」

『えぇ』

「その関係を、なかったことにできる?」

『…できないわ。私は、エルもリリーも好きよ』

「じゃあ、やっぱり正しかったんだよ」

『そうかしら』

「そうだよ。エルはエイダが好きだよ。私もエイダが好き。出会えて良かったって思う。だから、エイダがエルと一緒に来てくれたの、私はすごく嬉しいよ」

『リリー。…ありがとう』

 良かった。

 元気になってくれて。

「話しは済んだか?」

 この声…?

「え?」

『え?』

「エイダ。ちょっと、借りて行くぞ」

 右手を包まれて、後ろから抱きしめられる。

「許可、取ったからな」

『待って!』

「マリーに言うなよ」

 砂嵐が巻き起こって。

 抱えられる。

「あの、」

 声を出そうとして、口元をマスクで覆い直す。

 私、砂嵐の中に居る。

 そして、飛んでる。

「暴れるなよ?」

 この声。

 この口調。

 どうして。

 目を開こうとするけれど、上手く行かない。

 左手で、顔に触れる。

 輪郭をなぞる。

 髪に触れる。

 私が知ってる形。

 私が知っている髪。

 どういう、ことなの?

「着いたぜ」

 私を抱えるその人が、地上に降り立ったのがわかる。

 砂嵐が止んだ。

 ようやく目を開ける。

「ほら」

 その、微笑み方。

 何度も触れたことのある、金髪のくせ毛。

 良く知っている、顔立ち。

 長い睫に、瞳の形まで同じなのに。

 どうして。

 瞳の色は、碧と菫色なの。

 私は、その瞳の色を知っている。

 その人は、砂の精霊を連れていた。

「あなたが…、」

 私は。

 間違っていた。

 全部間違っていた。

「レイリス」

 頭が、真っ白になる。

 それと共に。

 すべての事実が、組み直される。

 エルが生まれた時から傍に居る精霊。

 生まれた時から五歳になるまで一緒に居て。

 精霊戦争後、エルの傍に帰って来て。

 エルの作ったお墓を守っている精霊。

「そうだよ。リリー」

 そして。

 アレクさんの瞳。

 精霊が対等な契約を結ぶ方法。

 そして。

 私が見ていた力が何か。

 私が見ていたものは、魔力なんかじゃない。

 常に精霊だった。

 だって、アレクさんが言っていたのに。

 アレクさんの力は精霊の声を聞けることで。

 私の力は精霊が見えることだ。

 私は、知っている。

 エルが放つ金色の光が、何の精霊を示すのか。

 アレクさんが連れていた精霊と同じ。

 砂漠でずっと見続けていた精霊と同じ。

 そして今、目の前に居る精霊と同じ。

「エルは、精霊なの…?」

「違うよ。あいつは人間から生まれた。人間だ」

「人間は精霊の子供を生めるの?」

「産み落とす瞬間に死ぬ覚悟があるなら」

 あぁ。

 そういう、ことだったんだ。

 母親が死ぬことは、決まっていた。

 エルが、あそこまでクロライーナの人々から離されたのは、エルを精霊に育てさせるためだったんだ。

 エルがレイリスと一緒に居られるように。

「どうして、死の風を起こしたの?」

「あぁ?…誰がそんな事言ったんだ」

「聞いてるの」

「…うるさいな」

 エル、そっくり。

「エルがクロライーナの救世主になれば、エルがクロライーナの人々に受け入れらると思ったから?」

「なんだよ」

「でも、失敗した」

「うるさいな」

 本人じゃないよね?

「エルの父親役だった人、全部知ってるの?」

「リュオンは俺と契約してた」

 クロライーナの水先案内人だった人。

「ガトは、エルを愛していたから、エルの瞳を求めたの?」

「知らないよ」

「精霊戦争が起きたのは…」

「俺の責任だ」

「エルみたい」

「…さっきから、何が言いたいんだ」

「本当のことを知りたい」

「本当のこと?」

「私が、ミンダスさんから聞いた話しも、精霊から聞いた話しも、キャラバンから聞いた話しも、全部真実じゃなかった。あなたはエルのすべてを知ってる」

「知らないよ。理解できるわけないだろ、精霊なんだから」

「今から言うこと、間違ってたら言って」

「あぁ、なんて我儘なお姫様なんだ」

「我儘言ってって言ったよ」

「誰が」

「エルが」

「あいつ、何考えてんだよ」

 あぁ、変な感じ。

 エルの声と、エルの話しをするなんて。

「あなたは、自分が契約したリュオンに、自分の恋人とお腹の子供を預けた」

「契約したのは預けた後だ。…彼女の名前はエレ」

 それが、エルの母親の名前。

「エレと、お腹の子供を預けた。あなたは、その子供に人間として生きて欲しかったから。リュオンは、出産と同時にエレが死ぬこと、子供を自分の子供として迎えることを了解して受け入れた。…でも、一つだけ約束したんじゃないかな。せめて物心つくまでは一緒に過ごした方が良いって」

「……」

 合ってるのかな。

「五歳のエルを置いて、あなたは去った。あなたの目的はエルを人間として生きさせること。これ以上そばに居続けることはできなかった。あなたは、エルを手放せないほどに愛していたから」

 レイリスは何か言いかけて、口を閉じる。

「あなたが居ない間に、ガトはエルを脅迫した。契約を求めて。…エルはこの頃、生まれてくる子供に夢中だったから…」

 ガト…。

「ガトには、理解できなかった。その感情が。だから、エルと感情を共有したかったのかもしれない。ガトは人間を嫌いだったのに、エルを愛していたから。エルの感情を理解することで、エルと同じように人間を愛せると思ったのかも」

「随分、自信のない言い方だな」

「私は、ガトを知らない。…そして、エルは幽閉されることになった。けど、これは、エルを救うためだった」

 無言。

「リュオンはあなたを召喚し、事情を説明した。クロライーナの人々はエルを恐れ、ガトはエルに契約を迫っている。エルを隔離するしか、救う方法がなかった。あなたは、人間にも精霊にも気づかれないようにエルを救い、クロライーナを去るはずだった。…けれど。ガトが人を殺してしまった」

 それによって精霊戦争が始まってしまった。

「ここは、クロライーナだね?」

 辺りを見回す。

 そばに塔があるだけで。

 ほかには何もない。

 辛うじて、家の壁だったかもしれない、人工的な煉瓦の壁が所々に見えるだけ。

 オアシスにあるはずの水源も、植物も、何もない。

 何もないのに。

 塔だけが、傷一つなく建っている。

「あなたは、精霊戦争時。エルの居た塔を守っていたんだよね」

 だって。

 おかしいよ。

 すべての人間が、多くの精霊が死んだ中。

 エルが生き残っていたなんて。

 生き残っている精霊がいるなんて。

 クロライーナは砂になったのに。

 この塔が無傷なんて。

「そして、その後もニームでずっとエルと一緒に居た」

「ずっと一緒に居たわけじゃない。最初の一年だけだ」

「でも、見守ってた」

 そうに違いない。

「アレクさんとはいつ会ったの」

「あいつが養成所の研修旅行で、ここに来た時だよ」

 アレクさんも、養成所に通ってたの?

「その時に、瞳を交換して、砂の精霊を預けたの?」

 レイリスの瞳は、左が菫色で右が碧眼。

「そこまでエルを心配してるなら、一緒に居てあげれば良いのに」

「うるさいな」

「エル、レイリスの話しなんて一つもしなかった」

「良いんだよ、それで。人間と精霊が一緒に居るなんて不可能だ」

「不可能じゃないよ」

「不可能だ。俺はエレと一緒に居ることはできなかった」

「何故?」

「彼女が、子供を望んだから」

「子供を…?」

「例え死ぬことになっても生みたいって言われたんだ。人間の考えてることなんてわからない。それが、どうして愛の証明になるんだ。もう一度生まれ変わったって、俺が見つけられるかわからないのに。俺は、砂漠を離れられないのに」

 あぁ。

 だから、あなたは。

 エルを人間として生きさせたかったんだ。

「わかってるんだよね、レイリス」

「何が」

「エレの気持ち」

「愛なんて精霊にはわからない。精霊に感情なんて存在しない」

「嘘だ。あなたはエルを愛してた」

「俺には、責任がある」

「違う。あなたはエルを愛してる」

「なんで」

「エルが、優しいから」

「意味が解らない」

「エルが、愛を知ってるから」

「あいつは人間だ」

「愛されなければ、愛を知らない人間になる。私はエルから愛されてる。だからわかるの。エルは、愛されて育った。そして、一番あなたの影響を受けて育った」

「なんで」

 本当に、気づいてないのかな。

「だって、あなたはエルそっくりだよ。話し方も、考え方も」

「はぁ?」

「何でも自分の責任にしようとするところとか、何でも自分一人でやろうとするところとか」

「う…」

「都合が悪くなるとうるさいなって言うのだって同じだ」

「…なんだよ。同じ同じって。俺は、お前を好きになったりしないぞ」

「えっ。私だって、エルしか好きにならない」

 だって、根本的なところは違うのに。

「エルはエル、レイリスはレイリスだよ」

「あぁ、なんだって、エルはこんなのに惚れたんだよ」

「どうして、父親だって言わないの」

「言ってどうするんだよ。今更」

「エレの話し、してあげたら良いと思う」

「充分したよ。エルは俺の力を持ってる。エルが寝てる時に、俺はエレの記憶を見せてやった」

「エルって、砂の魔法を使えるの?」

「使えるよ。知らないみたいだけどな」

 きっと、エルがエイダと契約した後に使った魔法って砂の魔法なんだろう。

「えっと…。私をここに連れて来た魔法って、攻撃魔法?」

「あぁ、そうだよ」

 攻撃魔法だけど。

 私は魔法が効かないから、無効化出来る。

―まるで精霊ね。精霊って、同じ属性の魔法は効かないじゃない。

 って。以前、マリーが言っていたから。エルは、砂の精霊の力を無効化できるのだろう。

「私とマリーを封印の棺に運んだのはあなた?」

「もちろん」

「アレクさんに言われたの」

「じゃじゃ馬二人が来るから護衛しろってな。良い迷惑だぜ。考えなしに砂漠を突っ切るなんて有り得ない。お前ら、俺が居なかったら死んでるからな。キャラバンを誘導して助けてやったのに、キャラバンを捨てるし。強硬手段に出るしかないだろ」

「ごめんなさい…」

 帰りに出会ったキャラバンを誘導してくれたのも、レイリスだよね。

「あの…。ありがとう。助けてくれて」

「じゃあ、そろそろ目的を果たすか」

「え?」

「あいつの墓をぶっ壊しに来たんだろ?」

「あ…」

 そうだった。

 エルの名前を消しに来たんだ。

「魔法が効かないって便利だな。クロライーナはもう良いか?墓まで連れて行ってやる」

「うん」


 砂嵐に乗って、移動。

 すぐに、その場所に到着する。

 大きな岩の前。

「降ろしてもいいか?」

「あ、はい」

 そういえば。クロライーナで、私、ずっと、抱えられてたんだ。

 しかも、右手を握られたまま。

「手…」

「あぁ。悪いな。エイダに会いたくないんだ」

 右手の親指を抑えてるのは、そういう意味か。

「来ないよ」

 レイリスが手を離す。

「エイダ。来ないでね?」

 聞こえてるかな。

「来たら、抱えて逃げれば良いか」

「ねぇ、精霊って、自分の寿命を削って魔法を使うんだよね?あなたは、この砂漠を安定させるためにたくさんの力を使ってるのに、砂の精霊もたくさん生んでいるのに、平気なの?」

「大精霊の力を舐めるな、って言いたいところだけど。俺は月の精霊だ」

「月の精霊?」

「別に、呼び方に意味なんてないだろ。月でも砂でも一緒だ。…俺は、願えば月の渓谷で、月の女神から力を得られる。そもそも、精霊が魔力を回復するには、自分を生んだ神から力を得るしか方法がないんだ。日中、月の石が溜めた力を満月の晩に月に送って、女神を通じて魔力を回復できる」

「魔力を回復?」

 あれ?それって。

「あの、エルがやってる魔力の集中って…」

「まだやってんのか。あれは魔力を自然から補給して安定させるものだ。あいつ、いつやってる?」

「朝起きてから」

「俺の力を引き継いでるなら、満月の晩が一番良いんだけどな」

「そうなの?どうして教えてあげなかったの?」

「子どもは夜寝るもんだろ」

 あぁ、そっか。

「笑うなよ。まぁ、死にかけるほど魔力を失わなければ、いつやっても一緒だろうけど。もともとは太陽の力なんだし」

「え?レイリスは、何の属性になるの」

「属性?人間が魔法を体系化して呼んでる奴だっけ?月の女神は月の女神だ。他の神とは別の存在。この世界を見守る夜の番人」

「でも、もとは太陽の力なんだよね?」

「魔法として使うのはそうだろうな」

 あぁ、なんだか、難しい。

「マリーがここに居てくれれば良かったのに」

「何言ってるんだよ。いいから、とっとと壊せ」

 そばにある、岩を見る。

 びっしりと、文字が刻まれている。

 指を這わせながら、上から順に文字を追う。

 あれ…?

「ロア…、ジオ、ドナ…、シルマ、メリブ、デュー」

 短剣を出して、知っている名前を一つずつ、削って行く。

「エルは、生きてるって知らなかったんだね」

「あいつは耳が聞こえなかったからな」

 そうか。顕現しなければ、その存在を確認できなかったから。

「エルは、あなただけが生き残ったと思ってたの?」

「だろうな。ニームに行った後、もう一度クロライーナに来たいって言うから連れて来てやったら、墓を作るって言いだしたんだよ」

「喋れたの?」

「喋れるわけないだろ。砂に文字を書いて筆談だ」

 ガトの名前もある。

 次の行からは、ファミリーネームがるから、人の名前だ。

「これ、クロライーナに居たすべての人間と精霊なの」

「そうだ」

「何人居るの」

「生きているのを除けば、精霊が十五人、人間が一二七人」

 全部、この岩に彫ったの…。

「あれ?クロライーナって、二百人ぐらい居たんじゃ?」

「交易都市だから、旅人も大勢いたよ。名前は知らない」

 そっか。…そうだよね。

 一番下から二番目に、エルの名前を見つける。

 エルロック・クラニス。

 そして、その下に。

「愛しいアンジュと、名を知らない人々」

「お腹の中の子供を。エルと母親はそう呼んでいたらしい」

 エルが、自分と血の繋がりがあると思っていた子供。

 エルが生まれてくるのを心待ちにしていた…。

「終わったか」

「…まだ」

 エルの名前を削る。

「終わった」

「じゃあ、崩すか」

「え?」

 レイリスが岩に手を当てると、その岩は、砂になって崩れる。

「あの」

「誰も墓参りに来ないんだ。もう要らないだろ」

「ずっと、エルを待っていたの?」

「待ってないよ」

 待ってたんだ。

 お墓があれば来るかもしれないから。

 エル。どうして、来なかったの。

 …来ないよね。

 エルは自分の家族も精霊もみんな死んでいると思っていて。

 フラーダリーにすべて捨てろって言われて。

 砂漠に帰って来る理由がなかったから。

 言えば良かったのに。

 自分が、エルの父親だって。

 家族だって。

「あの時、連れて行けば良かったのに」

 エルが塔に閉じ込められた時に。

「俺の目的は、エルを人間として生きさせることだ」

「後悔してない?」

「後悔はしない主義なんだ」

「一度決めたことだから迷わないの?」

「あぁ」

 本当に、エルみたい。

「エルを連れて来たら、会ってくれる?」

 エルなら、どう答えるかな。

「いいよ」

 うん。そう言うと思ってた。

 エル。

 私、見つけたよ。

 エルが忘れている、エルの知らない、エルの過去を。


 ※


「あの…。本当に怒ってないの?」

「何度も言わせないでちょうだい。怒ってないわよ」

 午前中に帰って、マリーとエイダと合流し、レイリスと一緒にクロライーナと、エルの作ったお墓へ行ってきたことを説明する。

 レイリスがエルの父親だってことは流石に話せなかったけれど。

 マリーは怒らずに聞いてくれて。

 そして、ミンダスさんにクロライーナ行きを断って、すぐにラングリオンに帰ることになったのが、今。

『きっと、マリー、慣れちゃったのよ』

「え?」

『リリーが突拍子もないことをすることに』

「えぇ?」

 それ、どういう意味なの。

『そうね。リリーの行動って、予測不可能だものね』

「そう、かなぁ…」

 そんなつもり、全然ないんだけど。

「まぁ、後は帰るだけよ」

 ニームから砂漠の関所までの道は、旅をするのに最適な距離で、すべて舗装された道で繋がれている。

 オアシスを二つ経由すれば、砂漠の関所にたどり着ける。

「砂の精霊と契約出来たら最高なんだけど」

「砂の精霊と?」

「だって、リリーが聞いた話しが本当なら、砂の精霊ってかなり謎の精霊だわ」

 そういえば、レイリスから聞いた砂の精霊について聞いたことを話したら、マリーはすごく興味があるみたいだった。

「私も会ってみたかったわね。レイリス。想像もつかない力を持っているかもしれないわ。あぁ。誰か協力してくれないかしら。…っていうか、契約の時になんて言えばいいの」

「え?」

「たとえば、メリブは、流動なるものに祝福された水の精霊。ナインシェは、温度を上げるものに祝福された光の精霊。精霊というのは、自分を生んだ神から祝福された存在よ。砂の精霊の場合、何て言うの?」

「えっと…」

 月の女神の眷属なのだろうけど…。

「太陽に祝福された月の精霊?」

「それってすごく面白いわ。月の女神から生まれた精霊が、太陽の女神に祝福されてるなんて。でも、それが合ってそうだから、リリーのセンスって素敵」

「えっと…」

 だって。

 私にとって、エルは太陽のような人だから。

 そういうイメージになってしまうのは仕方がないの。



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