54
色々なことを考えて、眠れなくて。
外に出てみる。
もうすぐ、日が昇りそう。
東の空が白み始めている。
広い通りを歩く。
砂漠の街は、いつでも人が歩いている。
生活リズムがみんな違うからなんだろうな。
歩いて、歩いて。
街の入口に来てしまった。
クロライーナってどっちなのかな。
『リリー。あまり遠くへ行かないでね?』
「エイダ」
ついて来てくれていたんだ。
「ねぇ、エイダ。エルは…」
『そうよ。エルは、封印の棺まで、私を殺しに来た。ガトを生んだ私を。クロライーナを滅ぼした精霊を生んだ私を』
「…どうして」
『エルにとって、それが罪を償う方法だったの。エルはクロライーナを滅ぼしたのが自分だと思っていた。あの時、契約を断らなければ、すぐに瞳を渡していれば、街は滅びなかったって』
本当に、自分のせいにしたがるんだから。
『でもね、棺を開いて私を見たエルは、言ったわ。自分が間違っていたって。私は殺されても良かったのよ。でも、エルは…』
「エルは、復讐なんてできないよ。今まで失って苦しんできたから。誰かから何かを奪うことなんてできない」
もしも。エイダが、人間を殺すことを願い続ける精霊だったら、エルも殺せたのかもしれない。
でも、そうじゃなかったから、余計にエルは。
何もできなかったんだ。
そして、気づいたんだ。復讐が無意味だって。
『私は、エルと一緒に行きたいと願ったの。エルを守ることが、罪滅ぼしになれば良いと思って。…でも、違った』
「違った?」
『私が、エルに力を貸すことが。フラーダリーの死に繋がってるの』
「どういうこと?」
『詳しくは言えないわ。…私のせいよ』
「エイダも、エルみたいだ」
どうして自分のせいにしたがるの。
エイダは答えない。
「エイダ。私は、エイダの選択が正しかったと思うよ」
『私が、あんなことを言わなければ。フラーダリーは死ななかったかもしれないの』
「違う。関係ないよ」
どうして、そこに因果関係があると言うの。
エルがフラーダリーの死を自分の責任にするのだってそう。
エルがフラーダリーを殺したわけじゃない。
エイダがフラーダリーを殺したわけじゃない。
殺したのはイーシャだって。その事実は明白なのに。
「どうして、エイダがエルを守りたいと思うことが、悪い結果を生むの?全く関係ないよ。エイダがここに居なければ、今のエルはない。私もエルと出会わなかった。エイダがトリオット物語を書くこともなかったし、氷の大精霊に会いに行くことにもならなかった。これが、事実だよ。エイダは何も悪くない」
『でもね、』
「私、間違ったこと言ってる?」
『…いいえ。リリーは事実を言っているわ』
「エイダ、自分を責めないで。エルはあなたを信頼してる。信頼してるから、エイダに私を守るように言ったんだよね?」
『えぇ』
「その関係を、なかったことにできる?」
『…できないわ。私は、エルもリリーも好きよ』
「じゃあ、やっぱり正しかったんだよ」
『そうかしら』
「そうだよ。エルはエイダが好きだよ。私もエイダが好き。出会えて良かったって思う。だから、エイダがエルと一緒に来てくれたの、私はすごく嬉しいよ」
『リリー。…ありがとう』
良かった。
元気になってくれて。
「話しは済んだか?」
この声…?
「え?」
『え?』
「エイダ。ちょっと、借りて行くぞ」
右手を包まれて、後ろから抱きしめられる。
「許可、取ったからな」
『待って!』
「マリーに言うなよ」
砂嵐が巻き起こって。
抱えられる。
「あの、」
声を出そうとして、口元をマスクで覆い直す。
私、砂嵐の中に居る。
そして、飛んでる。
「暴れるなよ?」
この声。
この口調。
どうして。
目を開こうとするけれど、上手く行かない。
左手で、顔に触れる。
輪郭をなぞる。
髪に触れる。
私が知ってる形。
私が知っている髪。
どういう、ことなの?
「着いたぜ」
私を抱えるその人が、地上に降り立ったのがわかる。
砂嵐が止んだ。
ようやく目を開ける。
「ほら」
その、微笑み方。
何度も触れたことのある、金髪のくせ毛。
良く知っている、顔立ち。
長い睫に、瞳の形まで同じなのに。
どうして。
瞳の色は、碧と菫色なの。
私は、その瞳の色を知っている。
その人は、砂の精霊を連れていた。
「あなたが…、」
私は。
間違っていた。
全部間違っていた。
「レイリス」
頭が、真っ白になる。
それと共に。
すべての事実が、組み直される。
エルが生まれた時から傍に居る精霊。
生まれた時から五歳になるまで一緒に居て。
精霊戦争後、エルの傍に帰って来て。
エルの作ったお墓を守っている精霊。
「そうだよ。リリー」
そして。
アレクさんの瞳。
精霊が対等な契約を結ぶ方法。
そして。
私が見ていた力が何か。
私が見ていたものは、魔力なんかじゃない。
常に精霊だった。
だって、アレクさんが言っていたのに。
アレクさんの力は精霊の声を聞けることで。
私の力は精霊が見えることだ。
私は、知っている。
エルが放つ金色の光が、何の精霊を示すのか。
アレクさんが連れていた精霊と同じ。
砂漠でずっと見続けていた精霊と同じ。
そして今、目の前に居る精霊と同じ。
「エルは、精霊なの…?」
「違うよ。あいつは人間から生まれた。人間だ」
「人間は精霊の子供を生めるの?」
「産み落とす瞬間に死ぬ覚悟があるなら」
あぁ。
そういう、ことだったんだ。
母親が死ぬことは、決まっていた。
エルが、あそこまでクロライーナの人々から離されたのは、エルを精霊に育てさせるためだったんだ。
エルがレイリスと一緒に居られるように。
「どうして、死の風を起こしたの?」
「あぁ?…誰がそんな事言ったんだ」
「聞いてるの」
「…うるさいな」
エル、そっくり。
「エルがクロライーナの救世主になれば、エルがクロライーナの人々に受け入れらると思ったから?」
「なんだよ」
「でも、失敗した」
「うるさいな」
本人じゃないよね?
「エルの父親役だった人、全部知ってるの?」
「リュオンは俺と契約してた」
クロライーナの水先案内人だった人。
「ガトは、エルを愛していたから、エルの瞳を求めたの?」
「知らないよ」
「精霊戦争が起きたのは…」
「俺の責任だ」
「エルみたい」
「…さっきから、何が言いたいんだ」
「本当のことを知りたい」
「本当のこと?」
「私が、ミンダスさんから聞いた話しも、精霊から聞いた話しも、キャラバンから聞いた話しも、全部真実じゃなかった。あなたはエルのすべてを知ってる」
「知らないよ。理解できるわけないだろ、精霊なんだから」
「今から言うこと、間違ってたら言って」
「あぁ、なんて我儘なお姫様なんだ」
「我儘言ってって言ったよ」
「誰が」
「エルが」
「あいつ、何考えてんだよ」
あぁ、変な感じ。
エルの声と、エルの話しをするなんて。
「あなたは、自分が契約したリュオンに、自分の恋人とお腹の子供を預けた」
「契約したのは預けた後だ。…彼女の名前はエレ」
それが、エルの母親の名前。
「エレと、お腹の子供を預けた。あなたは、その子供に人間として生きて欲しかったから。リュオンは、出産と同時にエレが死ぬこと、子供を自分の子供として迎えることを了解して受け入れた。…でも、一つだけ約束したんじゃないかな。せめて物心つくまでは一緒に過ごした方が良いって」
「……」
合ってるのかな。
「五歳のエルを置いて、あなたは去った。あなたの目的はエルを人間として生きさせること。これ以上そばに居続けることはできなかった。あなたは、エルを手放せないほどに愛していたから」
レイリスは何か言いかけて、口を閉じる。
「あなたが居ない間に、ガトはエルを脅迫した。契約を求めて。…エルはこの頃、生まれてくる子供に夢中だったから…」
ガト…。
「ガトには、理解できなかった。その感情が。だから、エルと感情を共有したかったのかもしれない。ガトは人間を嫌いだったのに、エルを愛していたから。エルの感情を理解することで、エルと同じように人間を愛せると思ったのかも」
「随分、自信のない言い方だな」
「私は、ガトを知らない。…そして、エルは幽閉されることになった。けど、これは、エルを救うためだった」
無言。
「リュオンはあなたを召喚し、事情を説明した。クロライーナの人々はエルを恐れ、ガトはエルに契約を迫っている。エルを隔離するしか、救う方法がなかった。あなたは、人間にも精霊にも気づかれないようにエルを救い、クロライーナを去るはずだった。…けれど。ガトが人を殺してしまった」
それによって精霊戦争が始まってしまった。
「ここは、クロライーナだね?」
辺りを見回す。
そばに塔があるだけで。
ほかには何もない。
辛うじて、家の壁だったかもしれない、人工的な煉瓦の壁が所々に見えるだけ。
オアシスにあるはずの水源も、植物も、何もない。
何もないのに。
塔だけが、傷一つなく建っている。
「あなたは、精霊戦争時。エルの居た塔を守っていたんだよね」
だって。
おかしいよ。
すべての人間が、多くの精霊が死んだ中。
エルが生き残っていたなんて。
生き残っている精霊がいるなんて。
クロライーナは砂になったのに。
この塔が無傷なんて。
「そして、その後もニームでずっとエルと一緒に居た」
「ずっと一緒に居たわけじゃない。最初の一年だけだ」
「でも、見守ってた」
そうに違いない。
「アレクさんとはいつ会ったの」
「あいつが養成所の研修旅行で、ここに来た時だよ」
アレクさんも、養成所に通ってたの?
「その時に、瞳を交換して、砂の精霊を預けたの?」
レイリスの瞳は、左が菫色で右が碧眼。
「そこまでエルを心配してるなら、一緒に居てあげれば良いのに」
「うるさいな」
「エル、レイリスの話しなんて一つもしなかった」
「良いんだよ、それで。人間と精霊が一緒に居るなんて不可能だ」
「不可能じゃないよ」
「不可能だ。俺はエレと一緒に居ることはできなかった」
「何故?」
「彼女が、子供を望んだから」
「子供を…?」
「例え死ぬことになっても生みたいって言われたんだ。人間の考えてることなんてわからない。それが、どうして愛の証明になるんだ。もう一度生まれ変わったって、俺が見つけられるかわからないのに。俺は、砂漠を離れられないのに」
あぁ。
だから、あなたは。
エルを人間として生きさせたかったんだ。
「わかってるんだよね、レイリス」
「何が」
「エレの気持ち」
「愛なんて精霊にはわからない。精霊に感情なんて存在しない」
「嘘だ。あなたはエルを愛してた」
「俺には、責任がある」
「違う。あなたはエルを愛してる」
「なんで」
「エルが、優しいから」
「意味が解らない」
「エルが、愛を知ってるから」
「あいつは人間だ」
「愛されなければ、愛を知らない人間になる。私はエルから愛されてる。だからわかるの。エルは、愛されて育った。そして、一番あなたの影響を受けて育った」
「なんで」
本当に、気づいてないのかな。
「だって、あなたはエルそっくりだよ。話し方も、考え方も」
「はぁ?」
「何でも自分の責任にしようとするところとか、何でも自分一人でやろうとするところとか」
「う…」
「都合が悪くなるとうるさいなって言うのだって同じだ」
「…なんだよ。同じ同じって。俺は、お前を好きになったりしないぞ」
「えっ。私だって、エルしか好きにならない」
だって、根本的なところは違うのに。
「エルはエル、レイリスはレイリスだよ」
「あぁ、なんだって、エルはこんなのに惚れたんだよ」
「どうして、父親だって言わないの」
「言ってどうするんだよ。今更」
「エレの話し、してあげたら良いと思う」
「充分したよ。エルは俺の力を持ってる。エルが寝てる時に、俺はエレの記憶を見せてやった」
「エルって、砂の魔法を使えるの?」
「使えるよ。知らないみたいだけどな」
きっと、エルがエイダと契約した後に使った魔法って砂の魔法なんだろう。
「えっと…。私をここに連れて来た魔法って、攻撃魔法?」
「あぁ、そうだよ」
攻撃魔法だけど。
私は魔法が効かないから、無効化出来る。
―まるで精霊ね。精霊って、同じ属性の魔法は効かないじゃない。
って。以前、マリーが言っていたから。エルは、砂の精霊の力を無効化できるのだろう。
「私とマリーを封印の棺に運んだのはあなた?」
「もちろん」
「アレクさんに言われたの」
「じゃじゃ馬二人が来るから護衛しろってな。良い迷惑だぜ。考えなしに砂漠を突っ切るなんて有り得ない。お前ら、俺が居なかったら死んでるからな。キャラバンを誘導して助けてやったのに、キャラバンを捨てるし。強硬手段に出るしかないだろ」
「ごめんなさい…」
帰りに出会ったキャラバンを誘導してくれたのも、レイリスだよね。
「あの…。ありがとう。助けてくれて」
「じゃあ、そろそろ目的を果たすか」
「え?」
「あいつの墓をぶっ壊しに来たんだろ?」
「あ…」
そうだった。
エルの名前を消しに来たんだ。
「魔法が効かないって便利だな。クロライーナはもう良いか?墓まで連れて行ってやる」
「うん」
砂嵐に乗って、移動。
すぐに、その場所に到着する。
大きな岩の前。
「降ろしてもいいか?」
「あ、はい」
そういえば。クロライーナで、私、ずっと、抱えられてたんだ。
しかも、右手を握られたまま。
「手…」
「あぁ。悪いな。エイダに会いたくないんだ」
右手の親指を抑えてるのは、そういう意味か。
「来ないよ」
レイリスが手を離す。
「エイダ。来ないでね?」
聞こえてるかな。
「来たら、抱えて逃げれば良いか」
「ねぇ、精霊って、自分の寿命を削って魔法を使うんだよね?あなたは、この砂漠を安定させるためにたくさんの力を使ってるのに、砂の精霊もたくさん生んでいるのに、平気なの?」
「大精霊の力を舐めるな、って言いたいところだけど。俺は月の精霊だ」
「月の精霊?」
「別に、呼び方に意味なんてないだろ。月でも砂でも一緒だ。…俺は、願えば月の渓谷で、月の女神から力を得られる。そもそも、精霊が魔力を回復するには、自分を生んだ神から力を得るしか方法がないんだ。日中、月の石が溜めた力を満月の晩に月に送って、女神を通じて魔力を回復できる」
「魔力を回復?」
あれ?それって。
「あの、エルがやってる魔力の集中って…」
「まだやってんのか。あれは魔力を自然から補給して安定させるものだ。あいつ、いつやってる?」
「朝起きてから」
「俺の力を引き継いでるなら、満月の晩が一番良いんだけどな」
「そうなの?どうして教えてあげなかったの?」
「子どもは夜寝るもんだろ」
あぁ、そっか。
「笑うなよ。まぁ、死にかけるほど魔力を失わなければ、いつやっても一緒だろうけど。もともとは太陽の力なんだし」
「え?レイリスは、何の属性になるの」
「属性?人間が魔法を体系化して呼んでる奴だっけ?月の女神は月の女神だ。他の神とは別の存在。この世界を見守る夜の番人」
「でも、もとは太陽の力なんだよね?」
「魔法として使うのはそうだろうな」
あぁ、なんだか、難しい。
「マリーがここに居てくれれば良かったのに」
「何言ってるんだよ。いいから、とっとと壊せ」
そばにある、岩を見る。
びっしりと、文字が刻まれている。
指を這わせながら、上から順に文字を追う。
あれ…?
「ロア…、ジオ、ドナ…、シルマ、メリブ、デュー」
短剣を出して、知っている名前を一つずつ、削って行く。
「エルは、生きてるって知らなかったんだね」
「あいつは耳が聞こえなかったからな」
そうか。顕現しなければ、その存在を確認できなかったから。
「エルは、あなただけが生き残ったと思ってたの?」
「だろうな。ニームに行った後、もう一度クロライーナに来たいって言うから連れて来てやったら、墓を作るって言いだしたんだよ」
「喋れたの?」
「喋れるわけないだろ。砂に文字を書いて筆談だ」
ガトの名前もある。
次の行からは、ファミリーネームがるから、人の名前だ。
「これ、クロライーナに居たすべての人間と精霊なの」
「そうだ」
「何人居るの」
「生きているのを除けば、精霊が十五人、人間が一二七人」
全部、この岩に彫ったの…。
「あれ?クロライーナって、二百人ぐらい居たんじゃ?」
「交易都市だから、旅人も大勢いたよ。名前は知らない」
そっか。…そうだよね。
一番下から二番目に、エルの名前を見つける。
エルロック・クラニス。
そして、その下に。
「愛しいアンジュと、名を知らない人々」
「お腹の中の子供を。エルと母親はそう呼んでいたらしい」
エルが、自分と血の繋がりがあると思っていた子供。
エルが生まれてくるのを心待ちにしていた…。
「終わったか」
「…まだ」
エルの名前を削る。
「終わった」
「じゃあ、崩すか」
「え?」
レイリスが岩に手を当てると、その岩は、砂になって崩れる。
「あの」
「誰も墓参りに来ないんだ。もう要らないだろ」
「ずっと、エルを待っていたの?」
「待ってないよ」
待ってたんだ。
お墓があれば来るかもしれないから。
エル。どうして、来なかったの。
…来ないよね。
エルは自分の家族も精霊もみんな死んでいると思っていて。
フラーダリーにすべて捨てろって言われて。
砂漠に帰って来る理由がなかったから。
言えば良かったのに。
自分が、エルの父親だって。
家族だって。
「あの時、連れて行けば良かったのに」
エルが塔に閉じ込められた時に。
「俺の目的は、エルを人間として生きさせることだ」
「後悔してない?」
「後悔はしない主義なんだ」
「一度決めたことだから迷わないの?」
「あぁ」
本当に、エルみたい。
「エルを連れて来たら、会ってくれる?」
エルなら、どう答えるかな。
「いいよ」
うん。そう言うと思ってた。
エル。
私、見つけたよ。
エルが忘れている、エルの知らない、エルの過去を。
※
「あの…。本当に怒ってないの?」
「何度も言わせないでちょうだい。怒ってないわよ」
午前中に帰って、マリーとエイダと合流し、レイリスと一緒にクロライーナと、エルの作ったお墓へ行ってきたことを説明する。
レイリスがエルの父親だってことは流石に話せなかったけれど。
マリーは怒らずに聞いてくれて。
そして、ミンダスさんにクロライーナ行きを断って、すぐにラングリオンに帰ることになったのが、今。
『きっと、マリー、慣れちゃったのよ』
「え?」
『リリーが突拍子もないことをすることに』
「えぇ?」
それ、どういう意味なの。
『そうね。リリーの行動って、予測不可能だものね』
「そう、かなぁ…」
そんなつもり、全然ないんだけど。
「まぁ、後は帰るだけよ」
ニームから砂漠の関所までの道は、旅をするのに最適な距離で、すべて舗装された道で繋がれている。
オアシスを二つ経由すれば、砂漠の関所にたどり着ける。
「砂の精霊と契約出来たら最高なんだけど」
「砂の精霊と?」
「だって、リリーが聞いた話しが本当なら、砂の精霊ってかなり謎の精霊だわ」
そういえば、レイリスから聞いた砂の精霊について聞いたことを話したら、マリーはすごく興味があるみたいだった。
「私も会ってみたかったわね。レイリス。想像もつかない力を持っているかもしれないわ。あぁ。誰か協力してくれないかしら。…っていうか、契約の時になんて言えばいいの」
「え?」
「たとえば、メリブは、流動なるものに祝福された水の精霊。ナインシェは、温度を上げるものに祝福された光の精霊。精霊というのは、自分を生んだ神から祝福された存在よ。砂の精霊の場合、何て言うの?」
「えっと…」
月の女神の眷属なのだろうけど…。
「太陽に祝福された月の精霊?」
「それってすごく面白いわ。月の女神から生まれた精霊が、太陽の女神に祝福されてるなんて。でも、それが合ってそうだから、リリーのセンスって素敵」
「えっと…」
だって。
私にとって、エルは太陽のような人だから。
そういうイメージになってしまうのは仕方がないの。




