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旧作1-2  作者: 智枝 理子
Ⅲ.砂漠編
35/46

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「あの、」

『…!』

 また、逃げられてしまった。

「また、だめだったの?」

「うん…」

「砂漠の精霊って、人間と仲が良いんじゃなかったの?」

「人間の営みは好きみたいなんだけど…。話しかけると逃げちゃうんだ。もしかしたら、魔法使いが嫌いなのかな」

「それって、ラングリオンのせいかしら」

「え?」

「精霊戦争の原因を、誰も見つけられなかった。史実として残せるような事実を作れずに、結果は原因不明のまま。これは研究者として恥よ。あらゆる方法を使って調べたに違いないわ。…エルを研究材料なんて呼ぶぐらいだもの。相当酷い事もしたのかも」

「マリー…」

「精霊戦争のこと、無暗に聞くのは危ないかもしれないわ」

 それを聞きに来たんだけどな…。

「エイダは話し、聞けないの?」

『私、人間だと思われてるみたいよ。それに…。私の正体を砂漠で言うのは…』

 そうだよね。

 エイダは、この地を砂漠に変えた炎の大精霊だ。

 この地が昔緑豊かだったとしたら、その頃から生きている精霊にとって、エイダは…。

「リリー、まだ探すの?」

「うん。もう少し、声をかけてみる」

「私は市場を見てくるわ。サンドリヨン、リリーをよろしくね」

『えぇ。気を付けて』

「キャラバンで落ち合いましょう」

「うん」

 マリーと別れて、オアシスを歩く。

 キャラバンが行商を行っている間、私たちは自由行動。

 日暮れに出発するまでに、ロアとレイリスについて知っている精霊が居ないか探しているのだけど…。

 精霊が、なかなか話しを聞いてくれない。

 あ。見つけた。

「あの、」

『…なに?』

 あ。好感触。

「私、ロアって精霊を探しているの」

『ロア?』

「闇の精霊なの。知らない?」

『知らないな。この街には居ないよ。精霊を探してるなんて変な子』

「ジオから聞いたの」

『ジオ…?あぁ、知ってるよ。どこに居るか知らないけど』

 あれ?

「ロアはこの街に居なくて、ジオはどこに居るか知らない?」

『ジオは風の精霊だもの。一つの場所にとどまってなんかいない。でもね、僕らは土地の精霊だ。ここから出ない。出てしまえば、オアシスが無くなってしまうから』

「オアシスが無くなる?」

『精霊がいるから、こんな砂漠でも自然が維持されてるんだよ』

 あ。そっか。精霊は自然そのものだから。

 人間と共存して、このオアシスの自然を維持してるんだ。

「ねぇ、レイリスという精霊を知らない?」

『レイリスだって、どこに居るか知らないよ』

「名前を知ってるの?レイリスはこの土地の精霊じゃないの?」

『レイリスの知り合いじゃないの?』

「知らないの。知らないから探してる」

『変な子。ジオはレイリスのこと、何て言っていたの』

「エルの知り合いだって」

『エル?君は、エルの知り合いなの』

「うん。ジオから言われたの。レイリスとロアを探してって」

『エル、生きてるの』

 なんで、そう聞くんだろう。

「生きてるよ」

『そっか。大きくなったんだろうね』

「うん。私より背が高い」

『友達は居るの』

「たくさん居るよ」

『人間の?』

「うん」

『きっと、レイリスが喜ぶね』

「え?」

『ロアって、きっとニームに居るんじゃないかな』

「本当?」

『多分ね。それじゃあ、さようなら』

 精霊が飛び立ってしまう。

 ニーム。

 明日には到着するってキャラバンの人たちが言ってたっけ。


 キャラバンに戻ると、色んな人たちが、物を買いに来ていた。

「あれ、もう帰ってきたのかい」

「はい。何か手伝いますか?」

「あんたはお客さんだよ。欲しい物があったら買っておくれ」

「えっと…」

 そうだ。ルイスとキャロルにお土産を買っていこう。

「あれ…?真珠?」

「あぁ。東の海で取れるんだよ。珍しいかい?」

 グラシアルの海では取れないって聞いたな。

「うん。丸くないのもあるんだね」

 こんな変わった形の、初めて見る。

「そりゃそうさ。双子の真珠だってあるんだよ」

「双子の真珠?」

 聞いたことないな。

「あぁ。マーメイドの涙って呼ばれていてね。二つで一セットだったんだけど、片割れが迷子なんだよ」

 そう言って、彼女は自分の荷物から、真珠を取り出す。

 迷子なんて。

「こんな透き通るようなブルーの真珠があるの?」

 一部に傷がついた真珠。いや、この部分、きっと繋がっていたんだ。もう片方と。

「ずーっと片割れが迷子のままなんだよね。見たことないか?」

「私は見たことないけれど、もしかしたら、グラン・リューが知ってるかも」

 私の宝石学の先生。グラン・リューは色んな宝石に詳しいから。

「あてがあるのかい」

「うん。すごく石に詳しい人なの。…その人が知らなくても、エルが知ってるかもしれない」

 エルは色んなところを旅しているから。

「エル?」

「私の恋人」

「旦那じゃなくて?」

「え、っと…」

 なんて、言ったら良いのかな。身分証は、そうなんだけど。

「なんだい。初々しいね。じゃあ、これ、お嬢ちゃんに託そうかな」

「え?」

「片割れ、見つけてくれるんだろ?」

「あの…」

「砂漠には居ないみたいなんだよ。頼めるかい」

「あ…。はい」

「頼んだよ」

 真珠を受け取る。

 マーメイドの涙。

 エル、知ってるかな。

 知らなくてもきっと、一緒に探しに行ってくれるかな。

「さぁ。お客さん。ここから商売だよ。月の石で作ったカップなんてどうだい?」

「カップ?」

 カップを手に取ってみる。

 この形、素敵かも。

 スープに丁度良さそう。

「四つ、同じのありますか?」

「四つ?ペアじゃなくて?」

「はい。スプーンも一緒だと良いな」

「あぁ。これなら、銀のスプーンがお似合いだね」

 うん。すごく良いかも。

 あ。

「そのスプーンとフォークのセット、一揃いもらえますか?」

「あぁ。箱入りで良いかい?」

「はい。お土産なの」

 シャルロさんにあげよう。砂漠に来るのにお世話になったから。

 あ。後は隊長さん。

「この、ロードナイトのタイピンも」

「うんうん」

「それから、この眼鏡」

「これも月の石で作ったものだよ」

「素敵」

 きっとエルに似合う。

「この月の石ももらって良い?」

「未加工のやつかい?」

「うん」

 これで、剣が作れるか試してみよう。

「まとめて銀貨三枚だ」

 あれ…?

「物凄く、おまけしてくれている?」

「上客だからね」

 良い買い物しちゃったな。



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