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約束通り、次の太陽が沈むまで一緒に行動して、キャラバンと別れる。
「気を付けてね」
「ありがとう、フラメシュさん」
「世話になったわね」
「お世話になりました」
キャラバンの人たちに向かって頭を下げる。
それから。
「ありがとう、ラクダさん」
フラメシュが乗る円らな瞳の動物を撫でて、キャラバンが去るのを見送る。
「さぁ、行きましょうか」
『えぇ。…北西に進まれたから、大分離れてしまったわ』
やっぱり、遠ざけようとしてたんだ。
「そう…。やっぱり、強引にでも深夜に出るべきだったかしら」
『いいえ。十分よ。砂漠でキャラバンを敵に回すのは得策ではないわ。さぁ、ついてきて』
「リリーお願いね」
マリーにはエイダの姿が見えない。
「うん」
砂の舞う道なき道。
砂に足を取られながら、気を付けて進む。
マリーとはぐれたら大変だ。
「マリー、手を繋いでいこう」
「そうね」
マリーの手を引く。
『疲れたらすぐに言ってね。休める場所を探してくるから』
「うん」
あちこちに、石を積み上げたオブジェが点在している。
「エル、どうやって月の渓谷に行ったのかな」
もともと砂漠の人だから迷わないのかもしれないけれど。
場所を把握してるエイダと一緒でも苦労する道のりなのに。
砂漠のキャラバンに拾ってもらったとしても、大変な道のりのはずなのに。
『そうね。どうやって来たのかしら。帰りは…。風の精霊と契約したから、風の魔法で飛んで帰ったけれど』
ジオと契約したの、月の渓谷だったんだ。
あれ…?
ジオって、クロライーナに居た精霊じゃなかったの?
「飛んで帰った?」
『えぇ。オアシスの近くまで、すぐにたどり着けたもの。キャラバンでも一日以上かかる距離なのに』
「あり得ないわよ、それ」
「え?」
「不可能。風の魔法は人間を運ぶことはできないわ。人間を運べるほどの風を起こせば、その風に人間が切り裂かれる。実証済みよ」
そういえば、エルが風の魔法で飛行してるのなんて見たことがない。
いつも、跳躍の補助だったり、加速だったり…。
『でも、実際にその距離を移動していたわ』
「研究所の検証結果よ。グラシアルのデータだってそうだった。いくらエルでも、不可能なのよ」
『切り裂かれない方法を持っていたのかしら』
「方法だって、これまでいくつも検証されてきたわ」
「あの、真空の魔法で保護するとかは?」
「反属性の魔法で自分を守るってこと?真空属性は風の魔法を吸収するわ。飛ぶ行為を妨害する…。ねぇ、他に気付いたことってない?」
『一度しか見ていないもの。疲れるし、あまりやりたくないって…。そういえば、前にも使ったことがあるみたいだったわ。もしかして、風の魔法じゃなかったのかしら』
「風の魔法じゃない?…どういうこと?闇の魔法でもないんでしょ?飛べる魔法なんて、聞いたことがないわよ」
エイダの前に契約していた精霊って、メラニーとユールだけのはず。
どっちも飛行が可能なように思えないけれど…?
エイダの目の前で魔法を使っているのだから、エイダの知らない精霊のはずもない。
「飛ぶ魔法って、どんな精霊の魔法?どんな属性の魔法?」
「属性…。風の属性以外にも飛べる属性なんてあるかしら…」
エルが契約していない精霊の力を使えるとしたら…。
「あの、魔法陣は?」
「その手があったわね」
『いいえ。魔法陣は使ってないわ』
「違うの…。ねぇ、リリー。本当に魔法研究所に来ない?リリーのセンス、本当に良いわ」
「えっ。…私、マリーみたいに頭良くないよ」
「何言ってるのよ。十分良いじゃない」
マリーに言われたくないよ。
『リリーは人気者ね』
「そんなことないよ」
『でも、そろそろおしゃべりはやめにしましょう。歩くことに専念して頂戴ね』
「…そうね」
「うん」
月の渓谷。
ここから、どれぐらい歩けばたどり着けるのかな。




