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旧作1-2  作者: 智枝 理子
Ⅲ.砂漠編
33/46

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 約束通り、次の太陽が沈むまで一緒に行動して、キャラバンと別れる。

「気を付けてね」

「ありがとう、フラメシュさん」

「世話になったわね」

「お世話になりました」

 キャラバンの人たちに向かって頭を下げる。

 それから。

「ありがとう、ラクダさん」

 フラメシュが乗る円らな瞳の動物を撫でて、キャラバンが去るのを見送る。

「さぁ、行きましょうか」

『えぇ。…北西に進まれたから、大分離れてしまったわ』

 やっぱり、遠ざけようとしてたんだ。

「そう…。やっぱり、強引にでも深夜に出るべきだったかしら」

『いいえ。十分よ。砂漠でキャラバンを敵に回すのは得策ではないわ。さぁ、ついてきて』

「リリーお願いね」

 マリーにはエイダの姿が見えない。

「うん」

 砂の舞う道なき道。

 砂に足を取られながら、気を付けて進む。

 マリーとはぐれたら大変だ。

「マリー、手を繋いでいこう」

「そうね」

 マリーの手を引く。

『疲れたらすぐに言ってね。休める場所を探してくるから』

「うん」

 あちこちに、石を積み上げたオブジェが点在している。

「エル、どうやって月の渓谷に行ったのかな」

 もともと砂漠の人だから迷わないのかもしれないけれど。

 場所を把握してるエイダと一緒でも苦労する道のりなのに。

 砂漠のキャラバンに拾ってもらったとしても、大変な道のりのはずなのに。

『そうね。どうやって来たのかしら。帰りは…。風の精霊と契約したから、風の魔法で飛んで帰ったけれど』

 ジオと契約したの、月の渓谷だったんだ。

 あれ…?

 ジオって、クロライーナに居た精霊じゃなかったの?

「飛んで帰った?」

『えぇ。オアシスの近くまで、すぐにたどり着けたもの。キャラバンでも一日以上かかる距離なのに』

「あり得ないわよ、それ」

「え?」

「不可能。風の魔法は人間を運ぶことはできないわ。人間を運べるほどの風を起こせば、その風に人間が切り裂かれる。実証済みよ」

 そういえば、エルが風の魔法で飛行してるのなんて見たことがない。

 いつも、跳躍の補助だったり、加速だったり…。

『でも、実際にその距離を移動していたわ』

「研究所の検証結果よ。グラシアルのデータだってそうだった。いくらエルでも、不可能なのよ」

『切り裂かれない方法を持っていたのかしら』

「方法だって、これまでいくつも検証されてきたわ」

「あの、真空の魔法で保護するとかは?」

「反属性の魔法で自分を守るってこと?真空属性は風の魔法を吸収するわ。飛ぶ行為を妨害する…。ねぇ、他に気付いたことってない?」

『一度しか見ていないもの。疲れるし、あまりやりたくないって…。そういえば、前にも使ったことがあるみたいだったわ。もしかして、風の魔法じゃなかったのかしら』

「風の魔法じゃない?…どういうこと?闇の魔法でもないんでしょ?飛べる魔法なんて、聞いたことがないわよ」

 エイダの前に契約していた精霊って、メラニーとユールだけのはず。

 どっちも飛行が可能なように思えないけれど…?

 エイダの目の前で魔法を使っているのだから、エイダの知らない精霊のはずもない。

「飛ぶ魔法って、どんな精霊の魔法?どんな属性の魔法?」

「属性…。風の属性以外にも飛べる属性なんてあるかしら…」

 エルが契約していない精霊の力を使えるとしたら…。

「あの、魔法陣は?」

「その手があったわね」

『いいえ。魔法陣は使ってないわ』

「違うの…。ねぇ、リリー。本当に魔法研究所に来ない?リリーのセンス、本当に良いわ」

「えっ。…私、マリーみたいに頭良くないよ」

「何言ってるのよ。十分良いじゃない」

 マリーに言われたくないよ。

『リリーは人気者ね』

「そんなことないよ」

『でも、そろそろおしゃべりはやめにしましょう。歩くことに専念して頂戴ね』

「…そうね」

「うん」

 月の渓谷。

 ここから、どれぐらい歩けばたどり着けるのかな。



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