表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧作1-2  作者: 智枝 理子
Ⅲ.砂漠編
30/46

41

 南大門から出て、真南の街で一泊。

 王都を迂回しながら北東へ進み、街を三つ越えて、ようやく砂漠の関所の街へ到着。

「もう、どれだけ遠回りなのよ」

 出発する門を変えただけで、かなり旅程が狂ったらしい。

 私には、ちょっとわからないのだけど。

 マリーを宿に残して、サンドリヨンと二人で、入国印をもらいに行く。

 マリーを追いかけてる人は居なさそう、かな。

 マリーと自分の市民証を見せて、入国印のついた手形をもらう。

「砂漠の渡航中はこちらの手形が身分証となります」

 砂漠の旅行手形をもらう。星と月のデザインなんて素敵かも。

 市民証を持っているのに結局手形が発行されるんじゃないか、と思ったけれど、市民証には判子を押す場所がないから仕方ないのかな。

 エイダは、ラングリオンで発行してもらった手形を見せる。それに、入国印が押される。

 あれ。手形の色が違う?

 ここで発行されるのと違うのかな。

「明日の夕刻から出発できますよ。ゲートでもう一度手形を見せて下さいね」

「え?」

 今日じゃだめなの?

「砂漠は初めてですか?」

「いいえ。この子は初めてでも、私は慣れてるわ。説明は結構よ」

「そうでしたか。お気をつけて」

 外に出て、宿へ向かう。

「どういうこと?」

「砂漠では昼夜逆転の生活になるわ。だから体を慣らすのよ」

「え?」

「最も危険な時間帯は、太陽が南中する正午。日差しの強い中歩くのは危険なの。砂漠の熱に体がついて行けなくなるわ。だから、砂漠を歩くなら、夕方から夜、もしくは夜から昼前までが理想ね」

「そうなの?」

「夜の方が迷いにくいわ。それに、運動するにはちょうど良い気温よ。深夜は冷えすぎるから、気を付けなくてはいけないけれど」

「変わった場所だね」

「草木が生い茂ることのない死の土地だもの。覚悟していかなきゃいけないわ」

「人が住んでいるんだよね?」

「えぇ。オアシスには集落があるし、遊牧民も存在するわ」

「遊牧民ってどうやって生活しているの?」

「家畜を連れながら、オアシスを転々としている遊牧民もいれば、行商を生業にしている遊牧民も居るわ。東の海で獲れた海産物や、宝石なんかを扱っているのよ。今はこういう遊牧民の方が多いみたい。私たちみたいな旅行者を案内する遊牧民もいるわ。…全部、エルに聞いた話しだけど」

 遊牧民って名前のイメージだと、家畜を飼っているイメージがあるのだけど。

 結構色んなことをやってるんだな。

「封印の棺は、遊牧民族が月の渓谷と呼んでいる場所にあるの」

 月の渓谷?

 あれ。それって、リュヌリアンの素材にした月の石があるって、師匠が言っていた場所だ。

 それって、砂漠にあるの?

「マリアンヌはエルが地図を持っているって言っていたけど、砂漠の民であったエルにはそんなもの、必要なかったみたいよ」

 だから、探しても見つからなかったんだ。

「クロライーナと月の渓谷、どちらに先に行きましょうか?方向が全然違うのよ。クロライーナはここから南東、月の渓谷は北東なの」

 それ、両方まわって、エルの帰還前に帰れるかな?

 今、優先すべきなのは…。

「先に棺に行って、エイダの記憶を取り戻そう」

「いいの?」

「エイダが今、記憶を取り戻したいと思っているなら、それを優先しなくちゃ。時間が経つと、迷ってしまうかもしれないから」

 私が、なんでもぐずぐず迷ってしまうからなんだけど。

「リリー…」

 そういえば、南に行ってはいけないって予言。もう平気だよね?

 南大門から出た時点で、南に向かって歩いちゃったけど。

―リリーに伝言。エルが出発したら店に来いって。

「あっ」

 すっかり忘れてた。

「どうしたの?」

「私、ポラリスのところに行くの、忘れてた」

「え?」

 なんだか色んなことがありすぎて。

 エルが出発したら来るように言われてたのに。

「帰ったら、真っ先に顔を出してあげましょう」

 ごめんなさい、ポラリス。


 ※


 マリーとサンドリヨンの三人で、深夜遅くまでお喋り。

 明け方に眠くなれば眠って、昼過ぎに起きて準備を整えて、出発する予定なのだけど。

 本当に、眠たい。

 今何時なのかな。

「リリー、寝ちゃうの」

「ん…」

「もう少し起きていましょうよ」

「マリーは眠くないの」

「眠いわ。でも、徹夜で研究なんてしょっちゅうよ」

「そっか…」

 徹夜したのって、フラーダリーの手紙とノート見ちゃった時以来。

 そういえば、フラーダリーの手紙。しまったっけ?

 サイドテーブルに置きっぱなしだったかも…。

「リリー?」

「ん…」

「もう、困った子ね」

「体は徐々に慣れるわ。無理をしないのが一番よ。寝かせてあげましょう」

「そうね。おやすみなさい、リリー」

「寝ないよ」

「ふふふ」

 でも、まぶたが重い。

「ねぇ、マリアンヌ。どうしてリリーについて来たの?あなたもエルの過去を知りたいから?」

「私、探している人が居るの」

「探している人?」

「エルの兄弟。養成所時代に言われたの。妹が生まれていたら、こんな感じだったのかなって」

「妹って。あなたはエルと同い年じゃない」

「えぇ。それどころか、私の方がエルより誕生日が先なのよ。…会ったことないの?って聞いたら、生まれる前に別れることになったから会ったことないっていうの。…エル、会いたかったんだわ。その子に。もしかしたら、その子、砂漠に居るのかもしれないでしょ?」

「それだけの情報で探せるかしら」

「エルの過去を知っている精霊がいるなら、知ってるかもしれないじゃない」

「そうね…。私も、精霊戦争の詳しい事は知らないもの」

「サンドリヨンは砂漠の出身なのよね?」

「えぇ。だから、封印の棺に案内できるのよ」

「あなたも不思議な人よね…。たまに、精霊じゃないかって思うわ」

「どうして?」

「人間が出せる魔法の出力の違い。発動の早さの違い。精霊と同じほどの。…エルを知っているからあなたも人間だと思えるけど、ね」

「エルは私より強いわ」

「知ってるわよ。それに、エルより強い人は…」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ