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旧作1-2  作者: 智枝 理子
Ⅲ.砂漠編
26/46

33

 朝陽が窓の隙間からこぼれる。

 眠れなかった。

 全然。

 あれ以上、何かを読む気になれなかった。

 あれは、エルとフラーダリーの思い出。

 エルはきっと、見られたくなかっただろうな。

 書斎はしばらく誰かが入ったような跡がなかったから、エルは忘れてるのかもしれないけれど。

 …起きよう。

 ベッドの脇のサイドテーブルには手紙が置きっぱなし。

 箱に入っていた、エルが一度も開いていない手紙。

 気になって持ってきてしまった。

 送り主はフラーダリーに違いない。

 どうしてエルは、手紙を読まないのかな。


 台所に行く。

 まだ二人とも起きてないよね。

 今日のスープになる予定の野菜が並んでる。

『リリー、あなた、料理できるの?』

「できないよ。包丁は苦手なの。…パンなら作れるかな」

 水、砂糖、塩、粉を用意して、計量する。

 酵母菌と一緒に材料を全部混ぜて、捏ねる。

 気持ち良い。

一通りこねたら、発酵の為のバスケットへ。

 あぁ、メロンパンも作ろうかな。バターの入った生地も作らなくちゃね。

 胡桃とレザンのパンも作ろう。

 それから、コーヒーのパンと、黒コショウのパンにも挑戦してみようかな。

 あとは…。


「リリーシア、何やってるの」

「リリー、お店屋さんでも開くつもり?」

「え?」

 あれ。いっぱいできちゃったな。

「どうしたの、目に隈ができてる」

「本当!リリー、大丈夫?」

「大丈夫だよ」

 オーブンからパンを出す。

 あぁ、良い匂い。

「ショコラティーヌ。綺麗な焼き色だね。朝市に持って行ったら、売れるんじゃないかな」

「売ってこようか?こんなに食べきれないよ」

「そうだね。リリーシア。これで全部?」

「ええと…。まだオーブンに入ってる」

 もう少し焼き色を付けたいパンが。

「そう。キャロル、紅茶を入れてあげて」

「うん、わかった。…わぁ、メロンパン。美味しそうね」

「自信作だよ」

「この変わったのは?」

「試作品。コーヒーのパンと、黒コショウのパン」

「エルが居たら、喜びそうね」

 エル…。

「リリー?」

「うん。そうだね」

「帰ったら焼いてあげましょう」

 うん。

 わかってるんだけど。

 あれは過去だって。

 勝手に見た私が悪いんだって。

 でも、どうしよう。気持ちが落ち着かない。

 どうすればいいのかな。

「リリー、座ろうよ」

「あ、うん…」

「後は私がやるから、リリーは食べて!」

 キャロルが私の口にメロンパンを入れる。

 あぁ、美味しい。

 ふかふかのパンの上にサクサクの生地が乗っていて。すりおろしたレモンの皮をこっそり加えると、とても美味しくなるの。

 エルと旅をしている時も、色んなメロンパン食べたっけ。

 あぁ。エル…。

 会いたい。

 会いたい。

「リリーシア。紅茶が入ったよ」

「ありがとう」

 ルイスからもらった紅茶を飲む。

 あぁ、美味しい。

 落ちつく。

 ん…。

 あれ…?

「リリー?」

「ちょっときつい薬にし過ぎたかな」

 視界がゆがむ。

 渦巻いて、渦巻いて…。


 ※


 エル。

 ごめんなさい。

 わかっているの。

 過去だって。

 エルが私をどれほど愛してくれているかもわかってるの。

 でも、怖くなった。

 フラーダリーが死んでいたから、エルと出会えたって思った自分が。

 ごめんなさい。

 そんなこと思って。

 ごめんなさい。

 私は彼女に勝てる気がしない。

 フラーダリーはエルにすべてを与えた人。

 なんで、こんなことを考えてしまうの。

 亡くなった人に嫉妬するなんて。

 でも、彼女は完璧。

 勝てない。

 やめて。そんなこと考えたくない。

 フラーダリーはエルを幸せにできる人。

 エルが愛した人。

 やめて。考えたくない。

 読んだ私が悪い。

 苦しい。

 息ができない。

 だって私は。

 例え、エルに恋人が居ようと。

 エルに恋をしてしまうに違いない。

 エルを愛してしまう。

 一度好きになれば、嫌いになるなんてできない。

 この気持ちを捨てることなんてできない。

 エル。

 私が好きになるのはエルだけ。

 エルが誰か別の人を好きになるなら、私は…。

 苦しくて。

 耐えられない。

 どうすればいいかわからない。

 エル。

 どうすればいいの。


―過去は戻らない。死んだ人間は帰ってこないよ。

 それでも、彼女を愛した事実は変わらない。

―フラーダリーの魂は、もうここにはないんだ。

 それでも、フラーダリーは過去に存在した。

―あるのは思い出だけ。

 そう、最期以外は、良い思い出だって言っていたね。

―俺は、フラーダリーを求めているわけじゃない。

 …ごめんなさい。

―リリー。俺が求めてるのは、リリーだよ。

 ごめんなさい。

 いつも、迷ってばかりで。

―もう、誰かを大切に思うなんて、好きになることなんてしないって。

 わかってるの。エルが散々苦しんできたって。

―また失うってわかってるから。

 失い続けたせいで、何かを求めることを怖がってるって。

―ずっとそう思ってた。

 ずっとエルは…。

 あ…、れ?

 ねぇ、エル。

 何が、あなたの気持ちを変えたの。

―リリー、愛してる。

 どうして、私を愛したの。

―無理なんだ。もう、愛さないことなんて。

 それって、同じなの?

―リリーを愛さないで生きるなんて。

 私だってそう。

 不可能。

 この気持ちを失うことはできないの。

―リリーは、俺の希望だよ。

 エル。

―迷わないで。

 …はい。

―ずっと一緒に居て。

 はい。

―俺が好きなのはリリーだけだし、俺はリリーから愛されたい。

 はい。

―リリー、愛してる。

 エル、愛してる。

 私を愛してくれて、ありがとう。


 ※


 目が、覚める。

「…ここは」

 エルの部屋?

 ええと…。

『大丈夫?リリー』

「エイダ」

『あなた、薬で眠ったのよ』

「薬って…」

『ルイスが紅茶に睡眠薬を混ぜたの。あなたはすぐに眠ってしまって、ルイスが部屋に運んでくれたのよ』

 心配してくれたのかな。

 私が寝てないの、気づいてたみたいだし。

「今って何時だろう」

『お昼過ぎね』

「ルイスとキャロルに謝らなきゃ」

 ベッドから出ようとしたところで、手紙が目に入る。

 フラーダリーの手紙。

『読むの、リリー』

「これ、いつの手紙?」

『フラーダリーが、国境戦争に行く前に残した手紙よ』

 開いた跡が全くない。

 エルが読まなかった手紙。

 その封を切る。



 エル。

 私は戦争に赴くことになった。

 これは魔法部隊を世間に認めさせる、またとないチャンスなんだ。

 エルが居ない時に、危険な場所に行くことを許して欲しい。


 エルは、過去を清算しようとしているね。

 過去は戻らない。

 どんなに悔やんでも、時間は戻せない。

 あの時、あの時点では不可避だったんだ。

 エルは何も悪くないんだよ。

 何もかもを自分のせいにしてはいけない。

 エルは優しすぎて、色んなものが見えすぎてしまうんだ。

 エル。

 力を持ったが為に、歪曲した愛情しか受けられなかった君が不憫でならない。

 君はもっと愛を受けられる人間だ。

 純粋な愛を。

 君は素晴らしい人間だ。

 だからどうか、自分のことを呪わないでくれ。

 クロライーナが滅んだのは、君のせいじゃない。


 エル。

 もっと周りに目を向けるんだ。

 君自身を愛してくれている人の声に耳を傾けるんだ。

 君の回りはいつも、君を愛する人で溢れている。

 それはすべて、君が作り上げたものだ。

 信じるんだ、エル。

 自分以外のものを。

 君は一人じゃない。


 私を追いかけてはいけないよ。

 良い子で待っていて。


 フラーダリー・アウラム



「どうして読まなかったのかな、エル」

 大切な人の最期の言葉なのに。

 それに。

―エルは、過去を清算しようとしているね。

―クロライーナが滅んだのは、君のせいじゃない。

 この意味は…?

『返事を書けないから、って言っていましたよ』

「…そっか」

 あのノート。エルは必ず、フラーダリーの言葉に返事を書いていたっけ。

「エルは、どうして砂漠に行ったのかな」

『……』

 エイダは知ってるのだろう。

 エルが会いに行ったのはエイダのはずだから。

 けれど、答えてくれなさそうだ。

「エイダ。守備隊のところに行こう」

『守備隊?』

「体を動かしたい」

 リュヌリアンを背負って、階段を降りる。

 お店にはルイスとキャロルが居る。

「リリー。大丈夫なの?」

「うん。ごめんね、心配かけちゃって」

「顔色は良くなったね」

「うん。良く眠れたんだ。ちょっと、守備隊のところに行ってくるね」

「…その前に、お昼食べたら?」

「あ、うん」

 そうだった。おなかすいてるかも。

「もう、リリーまでエルみたいにならないでね!」

 ごめんね。心配ばかりかけて。


 えっと…、中央広場まで来たのは良いんだけど。

 守備隊の宿舎ってどこだっけ?

 誰かに聞こうかな。

 どうしよう。

「リリーシアさん、ですよね」

「え?」

 肩を叩かれて、振り返る。

「俺は魔法研究所のルシアン。少し、お時間ありませんか?」

「えっと…」

 魔法研究所って、マリーが所属してるところ?

「是非、魔法研究所に来ていただきたいのですが」

「あの…」

 どうしよう。

 えっと。自己紹介されたから知らない人ではないけれど。

 この人について行っても良いのかな。

「ルシアン、何やってるんだ」

「ちっ。ルードか」

「こんにちは、リリーシアさん」

 あ、この人は昨日、お店に来た男の人。

「こんにちは」

「私の名前はジャンルード。魔法研究所に行くぐらいなら、錬金術研究所に来ませんか」

「えっ、と…?」

 錬金術研究所?

「何言ってるんだ。先に声をかけたのは俺だぞ」

「お前みたいな見ず知らずの人間について行くものか。危険だろう。私は昨日、会ってるんだ」

「会ってるだって?なら、なんで自己紹介なんてする必要がある」

 どうしよう。

 なんだか。

 口論が白熱して。

 一歩、二歩後ずさる。

「白昼堂々、勝負を挑まれたんじゃ仕方がないな。剣を抜け」

「言われなくても」

「あ、あの…」

 どうしよう。

 これって、私が仲裁できるかな。

 もう一歩下がったところで、背中に誰かぶつかる。

「あ、すみません」

「おーい、青年。俺様の前で決闘とは。よほどの事情があるんだろうな?」

 聞き慣れた声に、上を見上げる。

「ガラハドか」

「くそ。決闘は持ち越しだ」

 双方が剣を鞘に納める。

 良かった。

 本当に、しょっちゅう決闘があるんだな、この国…。

 王都なのに。

「決闘のきっかけはリリーシアか?」

「えっ」

「ルシアンが、無理やり魔法研究所に連れて行こうとするから」

「何言ってるんだよ。ルードが錬金術研究所に連れて行こうとしたんだろ」

 そうだったっけ…?

「で?リリーシアはどっちの味方なんだい」

 味方?

「あの、私、隊長さんに会いたかったんです」

「俺に?」

 隊長さんが笑う。

「もてる男はつらいねぇ。残念だったな、ルシアン、ルード」

「邪魔するなよ、ガラハド。せっかくエルが居ない間に魔法研究所に誘おうと思ってたのに」

「何言ってるんだ。こっちはカミーユが居なくて大変なんだ。錬金術研究所に誘う」

「え?カミーユさんが居ない?」

「知らないんですか?カミーユはエルロックと一緒に行くために、無理やり一月も休暇を取ったんですよ」

「そうだったんだ」

 でも、良かったかも。

 エルが一人じゃなくて。

「あの、私、魔法研究所に行っても、錬金術研究所に行っても、力になれると思わないんですけど…」

「リリーシアさんの特別な力は魔法研究所の役に立つ」

「リリーシアさんの特別な力は錬金術研究所の役に立つ」

 完璧なハーモニー。

「仲が良いんですね」

「まさか」

「まさか」

「おぉ。仲良いな」

 ガラハドさんが笑う。

 ルシアンさんとジャンルードさんが眉をひそめて顔を見合わせる。

 仲が良いなぁ。

 でも、どうしてみんな私のことそんなに知ってるのかな。

 名前を名乗ることがほとんどない。力のことだってそうだけど。

「いいのか、エルが知らない間に彼女を連れまわして」

 彼女。

 そうだ。私。エルの…。

「ほっとく方が悪いんだよ。こんなに美しい人を置いて、また居なくなるなんてどうかしてる」

「そうだな。誰に奪われても文句は言えないだろう」

「くそ。ルード、ガラハドが行ったら仕切り直しだ。俺がもらっていく」

「私に勝とうと思ってるのか」

 それ、隊長さんの前で言うことかな。

「参ったな。リリーシアが居るだけで毎日決闘が起こるなら、守備隊の手がいくらあっても足りないぞ」

「えっと…」

 どうして、こうなったんだっけ…?

『しょうがないわね』

 エイダ?

「あなたたち。リリーに用事があるなら、私を通してくれない?」

「げ。サンドリヨン」

「どうして、ここに…」

「エルが愛しい恋人を一人にするわけないでしょう。私はエルに雇われてるのよ。リリーを守れってね」

 間違っては、居ないんだろうけど…。

「はぁ?あいつ、何考えてんだ。信じられねーぞ」

「女性一人の護衛なんて。あなたほどの傭兵が、良く引き受けましたね」

「エルには借りがあるわ。頼みを断れないの」

「ポラリスは許可したんですか」

「ポラリスは私の仕事に口を出さない。…だから、ちゃんとみんなに伝えてね。エルの大事な人に手を出す勇気があるなら、灰の魔法使いが相手になると」

 エイダ、本当に有名な傭兵だったんだ。

 でも、いつもエルと一緒に居るのに?いつ有名になる暇があるの?

「仕方がないな。…リリーシアさん。興味があったらいつでも来てください。錬金術研究所はいつでもあなたを歓迎しますよ」

「そっちに行くぐらいなら、是非、魔法研究所に。甘いものを用意して待っていますよ」

「…はい」

 甘いもの好きなの、なんで知ってるのかな。

 マリーが言ってるのかな。

「あの、お二人は、エルの友達なんですか?」

「俺たちはあいつの同期だ」

「腐れ縁ってやつですよ」

 そっか。養成所の人たちは、基本的に研究所に所属するんだもんね。

 本当に、エルの友達って、友達って表現しないんだな。


 守備隊の宿舎。

 中央広場の南東にある大きな建物がそう、らしい。

 なんでこんなに目立つ建物を目指して迷っちゃったのかな。

 隊長さんにお願いして、守備隊の活動に参加させてもらう。

 本当に、守備隊の一日って忙しい。

 決闘の仲裁をはじめとして、ひったくり犯の確保、食い逃げ犯の確保、裁判所から召喚状が届いている人を説得して裁判所まで連行、木から降りられなくなった子供の救助、通行の妨げになっている大道芸人に移動をお願いしたり、不法に露店営業をしている人を取り締まったり…。

 とにかく、走り回る。

 そして、市民から愚痴を聞くのも忘れない。

 一日が過ぎるのがあっという間。

 すっかり日が暮れてしまった。

 ここからは夜勤の人と交代。引継ぎや夜の見回りで、休憩室には誰も居ない。

「お疲れ様」

「あ」

 休憩室に入って来た隊長さんが、私の目の前にオランジュエードを置く。

 あぁ、美味しい。

「報酬を用意しないといけないぐらいの働きだったな」

「え?…報酬なんて、とんでもないです。いつもお世話になってるから」

 こんなに忙しい中、稽古に付き合ってもらっていたのだ。

 本当に、申し訳なかったと思う。

「それに、体を動かしたかっただけなんです」

「エルが居なくて寂しいのかい」

 まだ、エルが居なくなって二日なのに。

 覚悟していたことなんだけど。

 会いたい。

 未だに、一緒に行かなかったことを後悔してる。

「大丈夫」

 一緒に居なくても、一緒に居るから。

 エルのこと、考えてるから。

「嬢ちゃんは、フラーダリーとは全然似てないな」

「え?」

「八歳も年の差があったんだから、そんなもんか」

「えっ?」

 隊長さんが笑う。

 エルの八歳年上?

 でも、そうだよね。エルが十一歳の時に引き取って世話をしたはずだから…。

「どんな人だったんですか?」

「顔立ちは殿下に似てるな。あの切れ長な目元とか。女にしては背が高い方だったし、グラマーだしなぁ。どこを歩いていても存在感があって。美人だったぜ」

 それって、アリシアみたい。

 スタイルが良くて背が高いなんて。

「髪って短かったですか?」

「いや、短いってことはなかったぜ」

 そこは、違うんだ。

「だから、本当に驚いたんだぞ。こんな小っちゃいのが大剣背負って歩いてるだけでも面白いのに、エルの彼女って言うからな」

 そんなに笑わなくても…。

 確かに、話しを聞く限り、私ってフラーダリーと全く共通点がない。

「そう拗ねるな。エルがリリーシアに惚れてるのは確かだ。あいつは好きになったら一直線だからな。もっと自信を持てば良いじゃないか」

 ならどうして、突然そんな話ししたんだろう。

 からかってるだけ?

「フラーダリーも幸せだろう」

「え?」

「あいつはエルが幸せになることだけを考えていたから。エルが好きな相手と結ばれて、喜んでるさ」

 あぁ、そうか。

 そうだよね。

 それなら、私も救われるかも。

「私、エルを幸せにしてあげられるかな」

「リリーシアがそう考えてる時点で、エルは幸せだろう」

 そうかな。

「さぁ、送ってやろう。それともサンドリヨンを呼ぶか?」

「えっと…」

『送ってもらいましょう、リリー』

「送ってもらっても良いですか?」

「あぁ。まかせておけ。たまにはキャロルの料理でもごちそうになるか」

「え?」

「俺はエルが居ない間、たまにあいつらのところに顔を出してるんだよ。エルが魔法で守ってるとはいえ、あそこはイーストエンドだからな」

 イーストエンド。

 職人通りも含めてそう呼ばれることの方が多い印象を受ける。

「魔法で守ってる?」

「知らないのか?あの家は、あちこちに仕掛けがあるらしいぞ」

 知らなかった。

 でも、盗賊ギルドで、キャロルが攫われたことがあるって聞いたっけ。

 エルが何もしてないわけないよね。

「隊長さんも、ルイスとキャロルのことを気にかけてるんですね」

「あいつが珍しく頼って来たことだからな」

「珍しく?」

「あいつは人を頼ることをしない。全部自分で何とかできるからな。人に感謝なんてしない」

「え?」

 そういえば、ルイスもそんなこと言ってたっけ。

 そんなイメージないんだけどな。

「リリーシアは、ありがとうって言われたことあるのか?」

「えっと…」

―無事でいてくれてありがとう。

―助けに来てくれてありがとう。

「あるんだけど…」

 これって、いつのことだっけ?

「リリーシアは強いんだな」

「え?」

「あいつが感謝するってことは、そういうことだろ?」

「そう、なのかな…」

「そうだよ。あいつと肩を並べられるだけの強さがあるってことだ。もっと自信を持て」

 あぁ。その褒め言葉は、すごく嬉しい。

「あいつを変えたのは、リリーシアだ」

「変えた?」

「あぁ。あいつは変わった。良い方向に」

 もし、それが本当なら。

 それも、すごく嬉しい言葉だ。



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