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旧作1-2  作者: 智枝 理子
Ⅱ.王都編
18/46

25

 エルの家の、裏側にある細い通り。

「剣の稽古に付き合ってくれ。リリー。ハンデとして、その片手剣で頼むよ」

「エル、本気?」

「あぁ」

 エルの用事は、剣の稽古。

 物置で見たレイピアをエルが右手に持っている。

 あれ、エルの剣だったの?

 私が持ってる片手剣もエルのなのかな。

 というか。何考えてるの、エル。

「せめて鎧を装備してくれないと…」

「心配しなくても、当たらないよ」

「私は剣士だ」

「じゃあ、当ててみろ」

 エルがレイピアを構える。

 相手に向かってまっすぐレイピアを伸ばすなんて。脇を閉めない構え方なんてあり得ない。

 その余裕はどこから来るんだろう。

「行くよ」

 真剣だから、当てないように気をつけなきゃ。

 エルのレイピアに向かって、剣を振り下ろす。

 あれ…。

 当てた感覚がないぐらい軽やかに受け流される。

 そのまま剣を当て続けるのは危険だ。向きを変えて、エルの胴体を狙う。

 大きく後方に下がったエルを追い、突き刺す。

 何だろう。一歩が大きいのかな。距離の感覚が変だ。このままじゃかわされる。修正しなきゃ。

 突き刺した剣の向きを変えると、エルはレイピアで私の攻撃を受け止め、上空へ。

 軽い。あんなに高く飛べるなんて。届くかな。

 軽く跳躍して剣で薙ぎ払う。

 絶対に当てた、と思ったのに、どういうわけかかわされてしまう。

 今の、一体、どうやったの?滞空中に、体重移動でかわせるなんてある?

 だめ、落ちつかなきゃ。

 二歩下がって、片手剣を構え直す。

 エルも構え直している。

 なんだろう、このふわふわした感じ。まるで、風を相手にしているみたい。

 今度は左から斬り込む。

 あぁ、また避けられる。しかも、剣先ぎりぎりのラインを見極められてる。

 そして、エルが私の剣をレイピアで突く。

「くっ」

 剣の重心の位置をずらされる。けど、これぐらいなら挽回可能。

 迷わず、エルを薙ぎ払う。

 あぁ、少し、余計な動作が入る。この剣は軽いから、こんなに力を込めなくても良かった。

 おかげで簡単に避けられてしまう。

 でも、エルの足が止まった。これなら、避けられないはず!

 上から思い切り斬りつける。…と。

 エルがレイピアを斜めにして私の剣を受ける。

 すかさず剣を振り上げようとしたところで。

 剣が、動かない?

「!」

 レイピアのガード。

 それに、剣の先が捕まっている。…あの派手な装飾には、そんな役割が?

 そのまま剣ごと振り落とされるが、軸足でこらえて、剣をエルに向かって振り上げる。

 綺麗に入った攻撃をエルがレイピアで受け止め、そのまま大きく後ろに飛ぶと、エルは宙返りする。

 地面に着く瞬間を狙えば、攻撃が入るはず。

 エルが地面に左手をついた瞬間。剣で突攻撃を、しようと思ってた。

 当てないように気を付けていたから、きっと、エルの胴体をかする程度には攻撃が入ると思ってたのに、その攻撃すらかわされた。

 落ちついて、そのままエルに向かって薙ぎ払う。

 体勢を立て直したエルは、レイピアで私の攻撃を受け流す。

 これ、苦手。すでに体重を剣に乗せているせいで、体勢を立て直すのが遅れる。

 軸足に力を込めて剣を振り上げると、エルと鍔迫り合いになる。

 もう、絶対逃がさない。

 このまま一気にけりを…、と、思ったところで、エルのレイピアが砕ける。

「あ、」

 だめ、このまま攻撃したら、エルを斬ってしまう。

 剣から手を離してバランスを崩した私を、エルが抱き留める。

「やっぱり新調しなきゃだめだな」

 エルは、全然、余裕。

「大丈夫か?リリー」

「勝てなかった」

「付き合ってくれてありがとう」

「私、剣士なのに」

「ん?」

「負けた」

「え?負けてないだろ」

 悔しい。

「一撃も当てられなかった…」

「リリー?」

「エル、もう一回勝負してくれ」

「いや、レイピアがないと無理だ。俺が扱えるのは軽い剣だけだし」

「じゃあ探しに行こう」

「あぁ。そのつもりだけど」

 攻撃の予測もつかなかったし、何よりもレイピアの受け流し方が凶悪で。

 あの感覚。

 あぁ、もう一度、ちゃんと確認して、対処法を研究しなくちゃ。

「急ごう、エル」

「先に行くなよ。迷子になるぞ」

 エルが私の傍まで来て、手を繋ぐ。

「わかってると思うけど、俺は魔法を使ってるんだぞ?」

「そうなの?」

 全然、気が付かなかった。

「じゃなかったら、あんな大道芸みたいな真似、できるわけないだろ」

「風の魔法?」

「そうだよ。風の魔法で、飛ぶ向きを変えたり、加速したりしてる」

「だから、あんなに動きが変則的なのか」

「読みにくいか?」

「エルみたいに軽い動きをする相手は初めてだ」

「アリシアだって十分…」

「アリシアは慣れてる。剣の稽古を一緒にやっていた」

「あぁ、そうだろうな。ほかの姉妹も?」

「うん。みんな強いよ。イーシャにもポリーにも、負けたことがある」

「イーシャ?」

「一番目。名前はディーリシア」

 そういえば、エルはイーシャのこと知ってるのかな。

 盗賊ギルドの人の話しだと、エルは知ってそうな感じだったけど…。

「なんだか似たような名前ばっかりだな」

 あれ。知らないのかな。どうなんだろう。

「あぁ。伝統なんだ」

「伝統?」

「名前には、みんなリシアがつく」

「女王はブランシュだろ?」

「それは、女王になったから。本名はフェリシアだよ。女王になると名前を変える」

 国民に周知される名前は、本名ではない。

「たぶん、こうして表に出てる時の名前じゃ、いけないんじゃないかな」


 ※


 エルと一緒に、武器屋が並ぶ通りに行って、レイピア探し。

 武器屋のお客さんは主に守備隊の人らしく、エルの家からは少し遠い。

 帰ったら午後になっちゃうな。エルと戦うのは、また明日になりそう。

 と、思ったけれど。

「こんなに大きな街なのに、ないなんて」

 どれもこれも、強度に問題あり。

 エルの持っていたレイピアは、かなりいいものだ。あれに勝るようなレイピアは、どの武器屋にも置いていなかった。

「だから言ってるだろ。需要のないものは売ってないんだよ」

 守備隊の人たちが扱うのは、主に片手剣。

 他にも両手剣や槍があったけど、どれも重くてエルは使わない。

「作るしかないのかな」

「そうだな。鍛冶屋に頼むか」

「いや、私が作るよ」

 どうしようかな。

 とにかく強いのならミスリル鉱石なんだけど、あれは少し重い。

「プラチナ鉱石なら軽いし、かなりの強度が期待できる。それに溶岩鉱…。違う。星屑の方がいいかな」

 レイピアの細さをプラチナ鉱石で作り出すには、かなり工夫が必要だ。

 でも、レイピアの装飾を作るのには向いてる素材だよね。

「でも、道具がない。借りられる場所、あるかな」

「鍛冶ができるのか?」

「うん。自分の剣は自分で作りたいから」

「じゃあ、いつも持ってるのも?」

 リュヌリアンのこと?

「あれは私が作ったものじゃないよ。私の師が作ってくれたんだ。あんなにすごいのは、まだ作れない」

 髭を生やした、私の鍛冶の師匠。

「なんでもできるんだな」

「エルに言われたくない…」

 エルの方が、器用に何でもできるのに。

「ん?何か言ったか?」

 きっと、自覚ないんだろうな。

「午後からはキャロルとの約束があるから、また明日になっちゃうな」

 それに、エルのレイピアを作るまでは、エルと戦えない。

「レイピア、守備隊のところで借りられないかな」

 隊長さんに頼んでみようかな。

「何でリリーが守備隊のこと知ってるんだよ」

「ええと」

 喧嘩の仲裁をした何て言ったら、怒られそう。エルは私が戦うといつも怒る。

「マリーに連れて行ってもらったんだ。守備隊の三番隊隊長とも演習をしてきたよ。あの人もとても強い」

「勝ったのか?」

「えっと…」

 なんだかうやむやになったような気はする。

 とてもじゃないけど、あれを勝ったとは呼べないし。

「引き分けか?三番隊隊長って言ったら、ガラハド隊長だろ?あの人は有名な傭兵で、五年ぐらい前にラングリオンの皇太子が勧誘して守備隊隊長になったんだよ」

「そんなすごい人なんだ」

 皇太子直々に勧誘って。

「でも、気さくな人だろ」

「エルも知ってるの?」

「…良く、世話になったからな」

 エルはそう言って苦笑する。


 ※


 午後は、台所を立ち入り禁止にして、お菓子作り。

 あぁ、久しぶり。

「リリー、楽しそうね」

「うん。好きなんだ、お菓子作るの」

 色んなものが混ざり合って、一つになって行くのが。

 同じ材料なのに、その配合や焼き方で全然違うものになってしまうところとか。

 とても楽しくて。

「結構いっぱいできそうだね」

「うん。タルト生地は空焼きしておこうか」

「オーブンの準備はできてるわ」

「見せて。…うん、温度も良さそうだね。入れて行こう」

 上手くできたらマリーにもあげよう。

「次は何をするの?」

「中の生地を作るんだけど…、タルトの空焼きが終わってからにしよう」

 焼く直前の方が良い。

「暇になっちゃったね。何しよっか」

「…キャロル、プラチナ鉱石ってどこで扱ってるかな」

「プラチナ鉱石?…物置にあったかも」

「え?」

「リリーがしてる指輪って、エルが作ったのでしょう?」

「あ」

 この指輪、プラチナ鉱石で作ったの?

「物置から持ってきてあげる。他に探してるものは?」

「星屑を…」

「星屑なら研究室にあるかも。ルイスに聞いてみたら?」

 何でもあるんだな。

 鍛冶と錬金術なんて、まったく正反対のものだと思ったけど。

「どれぐらい必要なの?」

「んーと…。剣を作るぐらい?」

「剣?…とりあえず、全部持って来るね」

 キャロルを見送った後、オーブンを覗いて生地の様子を確認する。

 まだ大丈夫だよね。

 それから、ルイスのいる研究室へ。

「ルイス、ちょっと良い?」

「リリーシア。どうしたの?」

「星屑ってある?」

「星屑?…ちょっと待ってて」

 ルイスが棚から大きな瓶を取り出す。

「どれぐらい必要なの?」

「…わからない。まだ試してみてないから。半分ぐらいもらっても大丈夫?」

「何に使うの?」

「プラチナ鉱石と混ぜて、剣を作るんだ」

「え?…作るって、リリーシア、鍛冶をするの?」

「場所を借りられれば自分でやってみるよ。借りられなかったら、職人さんに頼んでみる」

「借りられないと思うよ。職人が自分の道具を弟子でもない相手に貸すなんてあり得ない」

 そういうものかな。

 師匠は、鍛冶屋に行った私をすぐに受け入れてくれたけれど。

「でも、この辺りは職人通りって呼ばれているぐらい鍛冶屋は多いから、変わった人もいるかもしれないね」

「ありがとう」

 ルイスは本当に優しい。

「イーストエンドには近づかないようにね」

「イーストエンド?」

「鍛冶屋通りのずっと奥。あそこは貧困区だから危ないよ」

「貧困区…」

「リリーシアは絡まれても平気って思うかもしれないけれど。あそこの人たちが怪我をしても、診てくれる医者は居ないんだ」

 そうか。

 私が関わるだけで、良くないんだ。

「うん。気を付ける」

「はい、どうぞ」

 ルイスが星屑を瓶に移して、渡してくれる。


 ※


 もうそろそろチーズタルトも完成。

 焦がさないように、オーブンの扉を少し開けておく。

 美しい焼き色がつきますように。

「…キャロル、リリー」

「ルイス」

「窓開けた方が良いんじゃないかな?廊下中、甘い匂いになってるよ」

「あ」

 キャロルが急いで窓を開く。

「全然気づかなかったわ」

「ここで作業していれば気づかないよね」

「それは何?」

 ルイスが変わった器具に水をセットして、それをランプの火にかける。

 下が丸いフラスコ。それと繋がっている上には、大きなロート。素材はどちらも耐熱ガラスみたい。

「サイフォンだよ。コーヒーを入れる道具」

 そして、コーヒー豆をミルで挽くと、今度は別の場所にコーヒーの粉を入れる。

「初めて見るなら、きっと面白いから見ててごらん」

 水が沸騰すると…。

「え?」

 沸騰した水が、すべて器具の上側、コーヒーの粉が入っているロート側に移動する。

 ルイスはランプの火を消すと、木べらでコーヒーの粉とお湯を混ぜる。

 今度は、上部で混ざった黒い液体が下に降りていく。

「これでコーヒーの出来上がり」

「不思議」

「仕掛けは簡単なんだけどね。温められると、この丸い部分の圧力が上がって、お湯が上に移動するんだ。そして、この丸い部分が冷えると、今度は真空状態になって上のコーヒーを吸引するんだよ」

「真空?」

「そう」

 真空って、こんなに簡単に作りだすこともできるんだ。

 きっと、これぐらいの真空じゃ、真空の精霊が現れたりはしないのだろうけど。

 上の器具を外してコーヒーをカップに注ぐと、ルイスはもう一度同じように器具をセットし直す。

「また入れるの?」

「まさか。二杯目は自分で入れるんじゃないかな」

 そう言って、ルイスはコーヒーカップとサイフォンを持っていく。

 エルにコーヒーを入れに来たんだ。

「あ!」

 そろそろ焼けそうだったのに。

 慌てて、オーブンを覗く。

 良かった、焦げてはいない。

「良い感じかも。出してみよう」

 キャロルからミトンを受け取って、鉄板を取り出す。

「うわぁ、お店のタルトみたい!」

「うん。綺麗にできたね」

 残りの鉄板も出して、テーブルに並べる。

「続けて焼いちゃおうか」

 キャロルから鉄板を受け取って、最初にオーブンに入らなかったチーズタルト生地をオーブンへ入れていく。

「ね、エルに持って行こう!」

「あ、待って」

 鉄板を一枚持って、キャロルが廊下に出る。

 確かに、廊下まで匂いが充満してる。

 エル、甘い匂いって大丈夫なのかな?

 大丈夫じゃないよね。だから、ルイスがエルにコーヒーを入れてあげたんだろう。

「えーるっ!…見て、リリーと一緒に作ったのよ」

 キャロルに続いて、お店に入る。

「冷やした方が美味しいと思うんだけど…」

 多分、暖かいままの方が、甘さが際立つんじゃないかな。

「冷やすか?」

 雪の魔法で?

「だめだよ。ゆっくり冷やさないと、なじまない。明日にはちょうど良くなってるんじゃないかな」

「えー、明日までお預け?」

 可愛いキャロル。

「焼き立ては焼き立てで美味しいと思うよ」

「じゃあ、一個ずつあげるね」

 キャロルが、エルとルイスにチーズタルトを渡す。

「まだまだ焼くわよー」

 キャロルが台所へ戻って行く。

 エル、大丈夫かな。

「あの、きっと甘いと思うから、無理して食べないでね」

「食べるよ」

 食べるの?

「リリー!はやくー!」

 そうだ、二回目は気を付けて見ていないと、すぐ焦げてしまう。



 二回目に焼きあがったタルトをお皿の上に移して冷ます。

 こっちも綺麗にできた。

「美味しいね、リリー」

「うん」

 美味しくできたと思う。

 ってことは、エルには甘いんだろうな。

 大丈夫かな。

「俺にも一つくれないか?」

「カミーユ」

「カミーユさん」

 あ。精霊。今日は外に出してるんだ。

「いいわよ、食べて食べて」

 キャロルがタルトを一つ、カミーユさんに渡す。

『本当に、見えるわけ?』

 ばれてる。

『変な女』

『お前こそ、見慣れない精霊だな』

『俺様は雷の精霊だ』

「雷?」

『雷って、嵐のときに光るやつか?』

 船が嵐に遭った時は、それどころじゃなかったけど。

 もしかしたら、雷も光ってたのかな。

『えっ。まさか、知らないのかよ』

 だって、城はいつも天気なんて変わらない。

「すごく怖いものって聞いたことはあるけれど…」

『うわー。俺のことを知らないなんてショックだぜ。おい、カミーユ、なんとか言えよ』

「リリー、ルイスにコーヒー渡してくるね」

「うん」

 キャロルが台所を出る。

「リリーシアちゃんは、雷知らないのか」

「…はい」

 もう、私が精霊見えたりするのは聞いてるのかな。

「グラシアルは女王の力で年中過ごしやすい気候って言うもんな。流石、世界一の魔女の姫君だねぇ」

 なんで、知ってるの。

「リリーシアちゃん。はっきりさせておこう。リリーシアちゃんの目的は何だ?」

「私の、目的?」

「魔力を見る目を持ち、魔力を奪う力を持った姫。目的は一つだろ。強力な魔力を持った魔法使いから魔力を奪うこと」

 エルが話したの?

「エルは君の話しを信用してるけど、エルは心底君に惚れてるからな。その考えは当てにならない」

「あ、の…」

 それって…。

「あいつは君がどんな存在でも君を守るだろう。だけど、もし君がエルの魔力目的で近づいたって言うなら…、ん?」

 どうしてみんな、エルがそんなに私のことを好きだって言うの?

 だって、王都に帰ってきてから、ほとんど一緒に居ないのに。

 どうして、そんなことがわかるの?

「リリーシアちゃん?」

 マリーもそうだった。

「君、エルを振ったんだろ?」

「なん、で」

 知ってるの?エルが言ったの?

「エルのこと、好きなのか?」

『リリーは本当にわかりやすいよね。その半分でも、エルがわかってくれればいいのに』

『あいつは死ぬほど鈍感だぜ』

『それはわかるよ』

『ふん。つまりは両思いなんだろ?』

 両思い?

 エルと、私が?

 あれ…。そう、なの?

「なんで、エルを振ったんだ?」

「振ったわけじゃ、ないよ。だって、私には、エルを幸せにすることなんてできないし…」

「なんで?好きなら相手の気持ちに応えるのが、礼儀だろ」

「だって、エルは好きな人を失ってるのに。死ぬってわかってる私に、何ができるの?」

「あぁ…。そういうことか」

 納得、してくれるんだ。

 っていうか、全部知ってるんだ…。

「あいつは、それでも君を選んだんだよ」

「え?」

「エルは絶対に君を救う」

「それは…、」

「あれ?カミーユ。来てたんだ」

 ルイスとキャロルが台所に入ってくる。

「ルイス、ちょっと話しがあるんだけど」

「話し?休憩しようと思ってたのに」

「良いレシピがあるんだよ」

 カミーユさんがルイスの耳元で何か囁く。

「…え?」

「試してみないか」

「いいよ。キャロル、ごめん。休憩はなし」

「えー?」

「タルトだけもらっていこうかな」

 ルイスはカミーユさんと一緒にタルトを二つ持って、出ていく。

「もう!錬金術ばっかりやって、エルみたいにならないでよ!」


 ※


「エル?」

「ん?」

 もう夜中なのに。エルがタルトを食べながら、本を読んでいる。

「食べても平気?」

 感想を聞いたときは、甘かったって言ってたのに。

 どうしてまた食べてるんだろう。

「夜食に食べるようなものじゃないよ」

「え?夜食に食べるようなもんだろ?」

 …そうかな。

 苦手だから、食べながらコーヒーを飲んでるだよね?

「エルは変わってる」

 無理して食べなくても良いのに。

 キャロルと私が作ったから、食べてるのかな。

「それは褒めてるのか?貶してるのか?」

 うーん。

 もっとはっきり、食べられないって言えばいいのに。

 でも、言われたらちょっと悲しいかも。

「明日、剣を作りに行こうと思う」

「どこに?」

「近くの鍛冶屋に行ってみる。だめだったら、剣の材料を渡してくる」

「材料?」

「ルイスとキャロルが用意してくれたんだ」

「そうか」

 プラチナ鉱石も星屑もあるの、知ってたのかな。

「まだ起きてる?」

「あぁ、もう少し、区切りのいいところまで読むよ」

「じゃあ、私も読もうかな」

 トリオット物語、早く読んで、マリーに返さなくちゃ。

 ベッドに行こうとすると、エルが私の腕をつかむ。

「リリー」

「うん?」

「キスしてもいい?」

 えっ。

「だ、だめだよ」

 そんな、ストレートに言われても!

「何故?俺が好きな相手じゃないから?」

 違う…。

「私は、誰かを好きになるなんて…」

「まだ、試してないことがある」

「え?」

「リリーから、キスしてほしい」

 何、言ってるの?

「そんなの、絶対だめだ」

 エルの魔力を奪ってしまうのに。

「それじゃあ、俺の魔力を奪って」

「え?」

「奪って欲しい」

「えっと…?」

「ほら」

 あぁ、本当にこの人は。

 変な人。

「恥ずかしい。目を閉じて、エル」

 しても、いいのかな。

 目を閉じたエルの唇に、一瞬触れて、離す。

 けど、すぐにエルが私を引き寄せる。

 ばか。

「エルは、どうして、こんなことするの?」

「嫌か?」

 嫌なのは、キスじゃなくて、魔力を奪うことだけ。

 だから、いつも抵抗できないのに。

「わからなくなってる。エルから魔力を奪うことに、抵抗がなくなってるのが、怖い」

「俺は俺の欲求をかなえてるだけだ。リリーが困ることなんて何もない」

「困る」

「なぜ?」

 だって、私のやってることって。

 エルから魔力を奪うことなんだよ。

「エルは、酷い」

 私の気持ちなんて、全然わかってないんだろうな。

「今度、セルメアに行こう」

「セルメア?」

「ラングリオンの南にある国だ。そこに、ディーリシアが居るかもしれない」

「イーシャが?だって、イーシャは…」

 死んでるはずなのに?

 あれ?やっぱり、エルはイーシャのこと…。

「どうして、エルがそんなこと知ってるの?」

「修行の期間を過ぎても、城に帰らないとどうなるのか。確かめたい。だから、探していた」

「アリシアから聞いたの?」

「想像に任せるよ」

 アリシアじゃないんだ。

 じゃあ、誰から?どうやって?

「イーシャは生きているの?」

「わからない。まだ詳しい居場所は調査中だ。結果が届いたら、出発する」

「うん」

 イーシャ。

 まさか、生きてるかもしれないなんて。

 本当に…?



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