危険物取扱 シュヴァルツ ダス・テイーア
タナカハナさんの【人外宅配便】企画に参加
【注意!】
Wikipedia斜め読みの知識で書いてます!
名称を捩った造語があります!
砂地ばかりが広がる荒野に砂煙を上げながら一台のジープが走っていた、フォード・GPWに似たジープには3人の男が乗っていた。
空はどこまでも青く、憎らしいほど晴れている。
色黒の男は白いTシャツに茶色いポケットが沢山付いたベストに、薄汚れた黒いジーンズに編み上げのショートブーツを履き、真っ黒なグラサンをかけて揺れるジープの屋根の上に胡坐をかきながら座って前方を見つめている。
サングラスで隠れた瞳は蛍光色のようなオレンジ色の虹彩、瞳孔は黒く眼光が鋭い。
まだらな髪の毛はドレッドヘアーで纏められている。
「ズクまだか?」
そう聞いてきたのは運転席でハンドルを握る男。クリームがかった白いスーツを身に纏い首には金のネックレス、黄褐色から黒にグラデーションした髪の毛は風に煽られ鬣のように揺れている、この男も大きなサングラスをしている。これぞギャングのボス!といった出で立ちの男だった。
開いたシャツから見える胸板は筋肉隆々、一部の女性達を虜にする綺麗な筋肉だ。
ズクと呼ばれた男は目を凝らして砂と所々に草木が生えてる地平線を見つめながら言った。
「お、見えてきたぜ!このまんままっすぐだぜボス」
人の目では見えない先にある建物をズクの瞳は捉えて先ほど自分を呼んだ男、ボスに言った。
「OK」
そう答えるとフロントにかけていたテープレコーダのスイッチを入れた。
聞こえてくるのはノリのいい洋楽だ。
√ ♪~Let's Go!!
「Let's Go!! 」
ボスは聴きながら鼻歌混じりで歌い始めた、今回の仕事はこのサバナの先にある場所に荷物を届けるだけの楽な仕事だ。
√ Run fast. Don't stop.
「ぁー走りてー」
そう呟いたのはボスの横の座席に座っている全身真っ黒な男、歌詞を聴きながら走りたい衝動に襲われたのは、黒髪に色黒の肌、黒のベストは素肌に着込み腕のしなやかな筋肉が惜しげもなく出ている。
「やめとけ、ブラック。ここらは危険地帯だ。密猟者共がわんさかいる、狩られたかったら止めないがな。」
そう言ったのは横で運転するボスだった、その言葉にブラックは肩をすくめた。
√ There's no rehearsal for life!!
「たく、日の本の国はあんなに平和なのにな・・・。一歩、外つ国に出るとこうだぜ。」
その言葉にズクは笑って言った。
「日の本の国に居れば、平和すぎて暇だとか言って暴れるくせにな。それで宅配業者を何社首になった?」
√ Don't miss it.
「うるせぇ。時間になったら起こしてくれ。」
ズクに痛いところを突かれてブラックは尻の下に敷いていた帽子を取り出して顔に被せた。そのときポケットに入っていた携帯がなり、顔を動かさずに携帯をポケットから取り出して耳に当てた。
「Hello」
『ダーリン!!ってなんだブラックか。てめぇにようはねぇんだよ。早くダーリンにかわれ』
「・・・」
最初の甘えた声からドスの聞いた声に変わった女性にブラックはため息一つついて無言でボスがいるであろう方向に携帯を投げ渡した。それをボスは笑いながらキャッチした。
「ハニー、俺だ」
『あぁん!!ダーリン!!寂しくって衛星電話かけちゃった。』
「俺も寂しかったぜ、ハニー」
電話の主はボスの妻の一人、ボスの種族は一夫多妻制のため複数の妻達がいるのだ。ボスの前ではデレデレっぷりを見せるが他の男の前では冷酷、まるで下僕のようにこき使う。それが日の本の国ではお姉さま女王様として一部の人たちから人気の高い宅配業者になっている。
もちろん格好は真っ黒なライダースーツにピンヒールだ。
『ダーリン!早く帰ってきてね!もう私たち寂しくってしょうがないの』
『あぁ!!変わってよぉ!!ダーリン!ダーリン!今月私スッゴイがんばったの!!営業成績1位になったの!だからご褒美頂戴!!』
「わかった、ハニー何がいいんだ?」
『ぇと、えと、もにょもにょ』
「くっ・・・・いいぜ、帰ったらめいいっぱい可愛がってやるぜ」
何か楽しげなお願いをされたらしいボス機嫌よく答えて電話をブラックの耳元に当てた。
「?」
『おい、もしもダーリンに働かせるようなへましたらゆるさねぇぞ』
電話越しに聞こえたボスの妻の一言にブラックは固まった、電話はすでにツーツーという切れた音。
「ボスの奥さん、相変わらず怖いっすね」
ズクも聞こえた電話越しの脅しの言葉に身を震わせて言った。
「俺の前ではかわいいぜ。」
ボスの前ではね・・・っと二人の男は心の中で答えた。
だんだんと日が暮れ始め空がオレンジ色に染まった頃、ボスはサバナの途中で車を止めた。
目線の先には人の目でもかすかに捉えられる建物が見えていた。
「此処からは、徒歩だ。行ってこい。」
そう言ってジープの荷台に乗せていたアタッシュケースをブラックに渡した。
「気をつけろよ。」
「OK、ボス」
ブラックが鉄筋コンクリートの建物に付いた頃には当たりは真っ暗に染まっていた。
扉をノックしてから中に声をかけた。
「HELLO!!”シュヴァルツ ダス・テイーア”だ!配達と集配にきたぜ!」
そう言うと、扉が開いた。目の前には銃を構えた男が2人、中に入るように顎で示されブラックは中に入っていった。
中には武装した男たちが机の周りを囲っていた。
机の向かい側には一人の男が座っているのみ。
シュヴァルツ ダス・テイーアは裏事業として危険人物から一般の荷物ではない物、裏の荷物を運ぶのだ。勿論、表家業では普通の宅配業をボスの妻達が行なっている。
ブラックはアタッシュケースを机の上にドンと置いて、受け取り証明書の紙を胸元のポケットから取り出した。
「荷物の確認と、サインをお願いします。」
椅子に座っていた男がアタッシュケースの中身を確認すると、笑みを浮かべて紙にサインをした。
「確かに受け取った。集配の物はこれとこれだ」
そう言って机の上に置かれたのは男の人の拳より大きめの黒い箱と、ボストンバック。
「・・・最初に伺った荷物と違う者があるみたいですが?」
黒い箱だけ受け取って、腰に付けていたポーチに入れるとブラックは危険な香りのするボストンバックを見ながら言った。
よく聞こえる耳が捉えたのは明らかに見えている人数よりも一つ多めの呼吸音。
「割増料金を払う。これは此処に届けてくれ。」
そう言って札束をブラックの前に札束と住所が書かれた紙がどさりと置かれた。
否とは言えない雰囲気の中、ブラックは肩をすくめてボストンバックを肩にかけ、札束と紙を受け取り腰に付けていたポーチにいれた。
予定外の仕事に、ボスにどやされるなとブラックは思いながら建物を後にした。空には満天の星空が輝いている、夜の色に紛れながらブラックは走り始めた。遠くの方でミミズクの鳴く声が聞こえブラックは眉間に皺を寄せた。
「くっそ。迎えはなしかよ。」
そう言うとかけていたサングラスを外した、その瞳は金色の肉食目が表れた。人の目には何も写らない真っ暗なサバナの夜を苦にもせずにブラックは走る。
勢いを増すとその姿は黒い風となって豹へと変貌した。
彼らは人外だ。突然変異なのか、宇宙から来たのかそれも分からないが、人が多く居るこのチキュでは迫害されている。もちろんそんな彼らを受け入れた国もあるが、人外を知らない人々もいる。もちろん今自分たちがいる場所は人にとっても、人外であっても危険地帯だ。
ブラックは黒豹の姿で走り続ける。人外を受け入れた国に居れば安全であるのに、本能なのか平和すぎる国にいると暴れてしまうのだ、そんな彼を拾ってくれたのがボスだ。”シュヴァルツ ダス・テイーア”はどこの国にも荷物を運ぶ、例えそこが自分たちを迫害する地域でも。
時々聞こえる獣達の咆哮やざわめきを通り過ぎ、朝方になるまで走り続けついた場所は石造りの小さな町だ。
此処から先は人が住むエリアだ、水も店も道路あり、人が行き来する街へと繋がっている。ブラックは人の姿に戻ると、取っていた宿に向った。
町の周りには人工的に植物が植えられ、畑もあるがサバナにあるせいか、黄砂のせいか全体的にセピア色に染まったような町だなとブラックは思いながら、どれも同じような石作りの建物の一つに入った。建物の中も砂が入り込み歩くたびにじゃりじゃりと音が鳴る。途中すれ違う宿泊客も無く、泊まっている部屋に入れば、そこにはサングラスをかけたボスとズクがすでに朝食中だった。
「おかえり。」
「ただいま。」
ブラックはどかりと木の椅子に座り、腰に付けていたポーチを外して机の上に投げ捨てた。
「おいおい、大事に扱えよ。集配物はカーボナードだぞ。」
そう言いながらボスはポーチから出てきた札束に眉間を寄せながらも、黒い箱を開けた。
「カーボナード?」
聞いた事がない言葉にブラックはサングラスをかけなおして行儀悪く足を組んで聞いた。ズクはむしゃむしゃと鈍い色の銀色のスプーンでコシャリに似た豆料理をすくって食べながら言った。
「別名、ブラックダイヤモンドっすね。でもブラックダイヤモンドは大抵合成ダイヤモンドなんすよ。だから天然石はカーボナードって言ったほうがいいっすね。それにしてもこの料理味気ないっす」
ズクは宅配場所や物資の調査担当のためいろいろな事に精通していた、ブラックはあまりそう言うものに興味が無いためズクと組む事が多いというのは余談だ。
「普段ジャンクフードばっか食ってるからだろ。どうやらパチモンじゃねーみたいだな」
そういいながら箱にカーボナードを戻したボスが言った。
「ふーん」
ブラックは適当に頷きながら皿に置かれていた丸焼きの肉だったものの残りを手づかみで掴み、かぶりついた。
一晩中走って腹がすきまくっているのだ。
「で、そのやっかいな荷物とこの金と紙は何だ?」
どんと机に叩きつけるように札束を叩きながらボスが言った。なんて言い訳しようかと一瞬ブラックは思ったが、こっちは一晩中走って疲労困憊、無駄に頭を働かせるよりもあったことをそのまま話した。
「・・・さっさとそのボストンバックを開けろ、中に何が入ってるかお前は分かってるだろうが」
「ぁ、忘れてた」
いそいでボストンバックを開くと、中には膝を抱えるように丸まって真っ青な顔をした子供が入っていた。ブラックは慌てて抱き起こすと、汚れた簡素なワンピースを着た服装からこの子供が女の子であろう事が分かった。
ブラックは少女の異様なほどの真っ白な肌に真っ白な髪の毛に思わず声がもれた。
「なんだこりゃ?」
「くそっ・・・アルビノだな。」
ボスの声で、少女の瞼が振るえてゆっくりと開いた。
「とりあえず座らせろ、水をあげてやれ」
そうボスが指示すると、ブラックは自分が座っていた椅子に少女を座らせた、ズクがすばやく冷蔵庫から水のペットボトルを取り出し蓋を外してから少女の手に握らせた。少女の瞳は熟れた果実のように赤かった。
戸惑いながらも少女は喉が渇いていたのか、水を少しのむと次にはゴクゴクと喉を鳴らして飲んだ。
「サバナに住む人間に似てるけど、ここら辺の人は皆肌が黒いよな?」
「だからアルビノだっつってんだ。しかも厄介な事情の方だな」
ボスの嫌そうな顔に、厄介ごとの元凶である少女をブラックは見た。か細い体だ。髪の毛はこの地域では良くある短髪姿だ。
「アルビノっつうのはすね、メラニンが欠乏して生まれてくる遺伝子疾患の生物っす。だから肌は白いし、瞳孔は血管が見えて赤いのが特徴っす。しかも紫外線に弱かったり視覚に障害があったりするっす。
んー見た目が目立つっすからすかね、地域によってはアルビノは神の子として崇め奉られたりするっすけ、逆に凶兆として殺ちゃうことも多い見たすけど。・・・ぁ、ここら辺だと、神の体に特別な力が宿っているっていう迷信があったりして臓器売買で攫われたり殺されたりするらしいっすよ」
途中からポケットから取り出したスマフォを見ながらズクは言った。
ボスは眉間に皺を寄せてこめかみに手を当てながら唸った。
「・・・は?」
重い雰囲気を気にせずにズクは少女に朝食の残りを渡して言った。
「さすがトラブルメーカのブラックさんっすね。我が社始まって以来の超ど級危険物件じゃないっすか?!」
「たく、危険顧客だと思って俺も付いてくれば案の定か。」
「どうするんすか?一応その金前金ぽいっすね。」
その言葉にブラックは頷くと、ボスは唸りながら考えを纏めるとバシリとひざを叩いていった。
「カーボナードは当初どおりに運ぶ。こっちもとりあえず運ぶしかねぇーな。運ばなかったらこっちの身が危険だ。」
「Ok。でお前、名前は?」
ブラックの言葉に少女はビクリと震わせながら小さい声で言った。
「みんなは神子って呼ぶ、でもママは、ルルって呼ぶ」
「神子?つう事は村では守られてたのか。」
少女の言葉に苦虫を噛んだようにボスが呟いた、明らかに村から攫われてきた少女だ。
「おじさんたちは悪い人?」
脅えたように控えめな声が聞いてきた。
「さぁな?・・・俺達はただの宅配屋だ。金を貰って物を運ぶそれだけだ」
その言葉にルルは俯いた。
「ルルちゃんの村はどこにあるのかな?」
ズクが優しい声音でルルに聞くと、ルルは目をぱちくりしながら答えた。
「サバナの西の方、大きな木が3本たってるのが目印だよ。でも、村の外には悪い人がいっぱいいるから出ちゃ駄目って言われてたのに、ある日ね村の外から来た人達が銃をもって皆を襲って村に火をつけられたの、私だけ外に連れてかれちゃったの。昼間だったから肌が痛くなってあかくなっちゃったの。」
そう言いながら少女は腕をさすった。見れば火傷のようにあかくなっていた。
「紫外線に弱いのか、ズク適当に長袖を見繕って来い。ついでに偵察もだ」
「了解っす。」
「ブラック、お前は寝て体力戻しとけ」
「了解。」
ブラックは大きな欠伸を一つしてベットに横になった。
目が覚めればすでに辺りは真っ暗に染まっていた。
「起きたか。」
そう声をかけたのは全身真っ黒の服に着替えたボスとズク、それにルルの姿だ。
「行くぞ。」
ブラックは少女を自身の膝の上に乗せてボスが運転する車に乗った、フルエンジンで夜のサバナの道路をひたすら走る。ライトもつけずに200キロを超えるスピードで走っていても周りに何もない風景では、それほどスピードが出てるように感じない。ひたすらまっすぐ走ると獣の目で隣町を捉えた。
「見えたか?」
「あぁ」「見えたっす」
二人が答えるとボスは笑みを浮かべ、ギアチェンジをした。もう速度計の針は振り切れている。
「ボス、また車改造したんすか」
「最高だろ?」
「エンジンやばそうっすよ?」
「だろうな」
そんな二人の会話にブラックは、いつでも脱出できるように腿の上で眠ってしまったルルを抱きかかえた。獣の鼻ではもうエンジンから焦げ臭い匂いを嗅ぎ取っていた。
「一発派手に行くぞ」
笑みを浮かべたボスに二人はコエーと心の中で思いながら答えた。
「「イエッサー」」
獣は笑わないと何かで聞いた事をブラックは思い出した、昔の女かはたまたTVか、獣の笑みは威嚇の動作だと。まさしくボスのはそれだ。
黒い黒煙を吐き出した車にハンドルをスパナで固定すると、ボスは車を乗り捨てた。それに続いて、ブラックとズクが飛び降りていくとちょうどエンジンが燃え尽きて爆発した。
飛び降りた勢いのまま、3人は空港とは言いにくい、飛行機が止めてある建物に走った。砂地に適当に置かれたセスナ機にしなやかに飛び乗ってエンジンをかけるとそのまま発進させる。
運転席にいるのはズク一人、爆発した車の光を横目で見ながら空へと飛び立った。サングラスを外せば夜の空も平気だ、ズクはそのまま海の方向に向って飛行機を飛ばした。
「たく、ブラックとボスと一緒に居るとひやひやする仕事ばっかりっすよ。スリル満天すぎるぜ★」
満天な夜空を見ながら自分の駄洒落に笑いながら、ズクは自動操縦に切り替えて、ジャケットを脱ぎ薄手の黒い長いTシャツ一枚と首からポシェットをかけ、身を守るためにまたジャケットを頭からかぶり身を屈めた。
すると後ろの客席が爆発し、操縦席の扉が吹き飛びフロントガラスを突き破った。
ゴォっという突風と共にズクはそのまま夜の空へと飛び出した。
「うへーボスの言った通りかよ。」
そう言いながらミミズクの姿に戻ったズクはブラックダイヤモンドが入ったポシェットをかけたまま大空を羽ばたいた。後ろを見れば戦闘機が戻っていくのが見えた。
「ぎゃー戦闘機っすか。今回の客なんなんだよ。コエーさてと、俺はさっさと運んで安全なお家に帰ろう~定時にはかえるかなー」
そう言いながら、ズクは上昇気流に乗って届け先に向った。
その頃ブラックは夜の砂漠を黒豹の姿で背にルルを載せながら走っていた。
遠くの空で上がった爆発で光った光景を目の端に捉え、ため息が出そうになった。
「なんでボスはこういうのに気づくんだ?」
今回の客のやばさから、ボスは運搬ルートを何種類か用意していた。もちろんカモフラージュも含めて。何事も無ければ本来なら、あの飛行機に全員乗って届け先に荷物を運んで終了だったのだ。
だが、町につく前に火薬の匂いと明らかに外から来た人間の匂いを嗅ぎ取った彼らは飛行機を捨てるプランを実行したのだ。
「ボスって凄いね。」
首にしがみ付いていうルルにブラックは唸った。
「凄いつううか・・・」
それでなんで俺は徒歩なんだよ。とブラックはぼやきながらもとりあえず隣国まで移動しなければならない。今日も一晩中走るのかと思いながら走り続けた。
ボスは砂地に隠していたハーレーイのバイクに飛び乗りまた道路に戻って走り出してしまったのだ。敵をひきつけてくれては居るのだと思う、だが同時に思い出したのはボスの妻達の言葉だ。
ボスが動いちまった。帰ったらお姉様達にドヤサレル・・・・。
そう心の中でブラックは呟きながら夜のサバナをルルを乗せて走り続けた。
隣の町につけば、ブラックは人の姿に戻り食べ物を買い込むと車を盗んで走り出した。西に向えば少女の送り先である国と海を挟んだ向かい側にいけるのだが、ボスの指示により陸路を取る事になっていた。きっと向こうでも待ち伏せしているだろうという事を予想したためだ、陸路だと大きく東に迂回をして大きな海に続く大きな河を二つ渡れば行ける。だがその間の国が問題だった。
紛争地帯、旅行者の渡航が禁止されている国を渡らなければならない。
そこは人外、人が近づけば匂いでわかるので会わずにいけるが、それは一人の場合だ。それに時々人外の傭兵などが混じっていたらひとたまりもない。
そんな奴に会わないよう祈りながら盗んだ車をあさればダッシュボードに拳銃と弾がが出てきた。
「助かるぜ」
自分一人ならば川など泳いで渡るが、幼い少女には酷な話だ、この先の道も考えて車は乗り捨てずに船の橋渡し場へと向った。検問官には金を多く握らせれば簡単に渡れる。
車にあった地図を見直しながらガソリンスタンドの位置を確認しながら、車の外を眺めるルルに気づいた。
「戻りたいか?」
思わず出た言葉にルルは振り返った。
「・・・わかんない。皆大切にしてくれたけど、私も他の子と一緒に遊びたかった。・・・外は危険がいっぱいっていってたけど、村に無い物がいっぱいあるのね。」
「そっか。・・・これからいく所はもっとお前が見たことない物で溢れてるぞ。」
頭をぽんぽんと撫でてると、ルルは少し驚いた顔をして言った。
「ちょっと楽しみかも。」
笑みを浮かべたルルにブラックは呆れながら言った。
「おいおい、お前は・・・」
言いかけてやめた、自分は何を言おうとしたのか。彼女を酷い場所に運ぼうとしている自分が。少女は荷物なのだ。そう言い聞かせてブラックはそれ以上しゃべるのをやめた。
船が陸地に着けば、エンジンをかけて走り出す。ひたすら砂地と岩しかない場所をはしる単調な日が何日も過ぎた頃、やっと緑が増え人も多くなってきた。次第に建物も派手なものに変わっていく。その様子をルルは不思議そうに窓から覗いて見ていた。
「緑がいっぱい。」
「わぁ、夜でも光ってる」
小さな呟きにブラックは気づかないようにした。携帯がなり見ればEメールが届いていた。カーボナードは無事に届け先に届いたらしい。それと使えるホテルの指定と仕送り金とボスの妻達が怒っている事も。
「不可抗力だっつうの」
そうぼやきながら指定されたホテルに向って失敬した2台目の車に乗り込んだ。
ふとブラックはある場所へと向った。少し遠回りになるが、なぜかルルに見せたくなったのだ。
眠っていたルルは車が止まった様子に目が覚めた。起き上がれば目の前に広がる光景に目を丸くした。その上からブラックが前のガソリンスタンドで買ったサングラスをルルにかけさせた。
「休憩だ」
そう言ってブラックはルルが日焼けしないようにパーカの帽子を深くかぶらせて外にだした。
「わぁああああ白いよ!!」
ルルの目の前には一面真っ白な砂地が広がっていた。
「その白い砂なめてみろ」
ブラックに言われてルルは白い砂を摘んで舐めた。
「しょっぱぁああ!!!」
きゃーきゃー騒ぐ様子にブラックは知らず知らずのうちに笑みをうかべていた。それに気づいたのは笑って振り返ったルルのみ、ブラックの様子にますます笑い声を上げたルル。
「それは砂じゃなくて塩だ。おもしろいだろ、ここは夏の間は干上がって塩だけになる、雨季の時期もきれいだぜ、水鏡になる。」
「へぇー見てみたいなー」
見してやるよと思わず呟きそうになったブラックは、小さく舌打ちしてして駆けずり回るルルを眺めた。
ルルは不思議でならなかった。あの怖い人達が村を襲ってからルルは目隠しをされたりして移動をさせられていた。物のように狭い場所におしこまれたりもした。だが、狭い鞄から助け出してくれたのは運び屋だという不思議な人たちだった。
人といっていいのかわからないが、彼らは獣の姿にもなるのだ。ルルを運ぶといったブラックと名乗るおじさんは冷たいようで優しい。
ルルのことを縛ったりもしないし、昼間外に出るときは日焼けしないように長袖の服や帽子を被せたりする。
食べるのが遅いルルを黙って待ってたりするし。
色んなものを見してくれた。
それにときどき怖くて夜うなされてると優しく頭を撫でてくれるのだ。
ブラックは夜になると元々真っ暗なせいか、夜に紛れてしまいまるでそこに居ないように感じてしまい、ルルはまるで一人ぼっちのような気がして思わず確認してしまう。
「おじちゃん。」
「おじちゃんじゃねーブラックだ」
そう返して頭を優しくぽんぽんと撫でてくれるのだ。村ではママ以外皆恐る恐る触る感じだったのに。
ずっとおじちゃんと一緒に居たいなと思いながら、このたびが終わらなければいいのにとルルは思った。
でも、3度目の服を買い直したときにもうすぐこの旅が終わりを告げているのだと思った。回りの町はルルには始めてみるものばかりで溢れかえっていた。所狭しと並ぶ家にカラフルな建物、信号機にいっぱい走る車。動物の声も風の声も聞こえない、いろいろな音が混じる世界。
ルルは今ピンク色のワンピースに花柄の長袖、初めて履く黒いタイツに靴。大きな帽子をかぶっている。ブラックは黒いスーツに白いワイシャツにネクタイを締めていた。
ルルは初めて入った豪華なホテルにきょろきょろしながらも、ある一室にブラックはきていた。
「おやおや、間に合わないかと思ったよ。噂に違わず、ちゃんと運んでくれたようだね。」
意味深な言葉にブラックは舌打ちしそうになるが耐えた。
室内に居る人たちは皆サングラスで目元を隠している。異様な雰囲気にルルはブラックの足にしがみ付いた。
目の前にいる男は豪華な一人掛けのソファに座りながら銃を弄っていた。
「可愛らしいお嬢さんだ。どうやら相当君に懐いているようだけど?」
銃口を棒差しのようにルルに向けて聞いてきた。
「気のせいですよ。」
ブラックはそう冷たく言い張って、懐から領収書をとりだした。
「サインを。」
短くいえば、つまらないというように男は肩をすくめた。領収書は横に控えていた部下が書き込んでかえされた。
「じゃーこれが金だ、商品を此方にくれないか?」
「おじちゃん・・・」
ルルが脅えたように言った、思わずブラックは彼女の手を握り締めた。
「おい、金は払ったんだ寄越しな。」
「・・・・」
ブラックは今度こそルルの手を離した。ルルも此方に銃を向ける人々に、大人しくしたがってブラックから離れた。
だが同時にプスっという音が聞こえ大きな音がした。
「くそがっ!!」
大きな声に振り返ればブラックが床に倒れていた。その腕には紅いふさふさがついた大きな注射筒が突き刺さっている。
ブラックは注射筒を引き抜くも、明らかに対動物用の麻酔に視界がふらふらするのを感じた。
やばい、これはマジでやばいぞ。こいつら、俺も売るつもりだ!!やられた!あいつら元々俺らも含んでたんだ。
「まさか本当に人外が運んでくるとはな。部下を送り込んで本当に人外か試したが、びっくりしたよ。人に化けられるヤツラも居るんだな」
下品た笑いをする男を睨みながら喉を鳴らした。
「おじちゃん!!」
悲鳴にもにた声でルルがブラックに向って手を伸ばし駆け寄ろうとするも、男に抱えられ動けないで居た。
ふざけやがって、襲ってきた奴はこいつらだったのか。と今更知った所でブラックが出来るのはひと暴れするぐらいしか残ってなかった。
「ガウァァァアァ!!!」
一瞬で黒豹へと変貌し、近づいてきた男の喉下を欠き切った。
「うわぁ!!」
パンパンと銃が鳴り響き男たちの怒声も響いた。
「こら!!撃つな!!麻酔銃を使え!!もう一本ぶち込め!!」
喉を鳴らしながら、弾を避けながら部屋中駆けずり回って男たちを襲った。麻酔が効いた体では思うように動かない、だんだん感覚がなくなってくるのを感じながら、ブラックはルルを掴む男の腕にかぶりついた。
男の腕から抜け落ちたルルにブラックはすかさず叫んだ。
「逃げろ!」
ルルを守るように体を男たちの間に置きながらいった。
その言葉にルルは首を横に振った。だが同時に背中にプスリと何かが刺さった感触と共にブラックアウトした。
おじちゃんが黒豹に戻って、ルルを助けてくれた後は怒涛だった。
おじちゃんの背中にもう一本麻酔銃で撃たれて倒れたと同じくらいに部屋の中に黒い服や青い服をきた人達がなだれ込んできたの。
「エフBだ!!銃を捨てろ!!!」
そう言って入ってきた人たちと、中に居た人達と銃撃戦になったけど、ルルはおじちゃんにしがみついていた。
銃撃戦がおさまったころにはお姉さんが話しかけてきて、おじちゃんと引き離そうとしたけど、ルルは首振っておじちゃんの首筋にしがみ付いたら困ったように、豹は大丈夫だからって安全な所に連れてくだけよっていわれた。
ルルも同じ場所に行くって言われておじちゃんの首から離れた。
おじちゃんは大きなゲージに入れられて違う車に乗せられてしまった。
不安で不安でおじちゃんが乗せられた車をずっとみてたら、一緒に乗ってるお姉さんに苦笑されちゃった。
「あの黒豹はあなたのお友達?」
「・・・うん」
お友達じゃないけど、頷いてみた。
「優しいんだよ?」
「そう」
そう答えたけど、私は不安でしょうがなかった。私の村でも人を襲った獣は殺さないといけないって聞いた事がある、一度人を襲った動物はもう一度襲うから殺すんだって、そうする事で人を食べる事を覚えさせないって。
「友達なの、一緒に此処まで来たの」
不安で不安でたまらなくてそう言うと、お姉さんは困ったように言った。
「じゃーあの黒豹は貴方のナイトね。」
守るように黒豹が横たわっていたのを思い出してお姉さんはそう言った。
車で着いた先は同じような服を着た人達が沢山居る場所だった。
そこの一室に案内されて此処まで来るまでの話をいろいろお話して、お姉さんにぎゅって抱きしめられた。
今後の事は、国が決めるんだっていってた。
「友達に会いたい」
そう言ってもお姉さんはごめんねまだ眠ってるのって言って合わせてくれなかった。
「目覚ませ、馬鹿野郎」
その声と一緒に腹に重たい衝撃が来てブラックは目が覚めた。
「げほげほげほげ!!・・・・ボス」
腹を蹴られた衝撃で目が覚めたブラックは、顔を上げるとそこにはサングラスをかけていないボスがたっていた。見た事のない一室にブラックは首をかしげた。たしかホテルで麻酔銃で撃たれて気を失って売られたかと思ったのだ。
だが、此処はあきらかに何処か別の建物の部屋の中だった。可愛らしい木枠の窓ガラスに、マットが引かれた床、簡素なチェアセットが置かれ、そこには見知らぬ男が座っていた、その横にある椅子にボスが座った。
「俺助かったのか。」
そう言いながら起き上がると人の姿になっている事に気づいた、しかも真っ裸。
「服を着ろ」
そう言って投げ渡された服に着替えながらブラックは疑問を口にした。
「なんで俺人になってるすか?」
「それは企業秘密だ。お前を助け出すのに必要だっただけだ。」
そう言いながら、ボスはポットからエスプレッソをカップに注いだ
「今回は流石に俺も駄目かと思った」
ブラックは注がれたエスプレッソを一気に飲み、苦味で頭をすっきりさせた。あんだけ大量に麻酔を撃たれてショック死しなければ、実験台として売られずにもすんだ。
「しかもヘマした俺を助けてくれるなんて正直、思わなかったっすよ」
「は?お前は俺のプライドの一員だろ?」
その言葉にブラックは目をまん丸にした。そうだった、ライオンはプライドで生活する集団。仲間意識は高く助け合って狩りをする。ボスのプライドの一員として認められていた事にむず痒い思いもしつつ、ブラックは小さくお礼を言った。
「射殺か、まぁー本来ならそうだろうな。」
ボスがどうやって自分を助け出したか聞いてブラックは、なるほどっと思った。
簡単に言うと黒豹姿で人を襲ったため、ブラックは銃殺されたことになったのだ、そして人に戻されてここまで運ばれたのだ。
「よくそんなツテありましたね。」
相変わらず、ボスの手腕に驚かされてばかりだ。さすが一代でこの会社を大きくしただけある。
「お前、裏家業の本部がどこにあるのか知らないのか?」
「ぇ?」
「表家業は日の本の国だが、裏はベイ国だぜ。ちなみにコイツは俺の知り合いだ」
警察官の格好をした男にブラックは眉根を寄せた。何しろその男からは化粧品と絵の具とゴムのにおいがして臭いのだ。ボスがサングラスを外しているという事は、知り合いで人外だとしっている人間だとは思っていたが。
それにしても臭い。眉間に皺を寄せると男は苦笑した。
「さすが獣だね。気づいたか。」
「当たり前だ、くせぇしな。ブラックこいつはエフBだ。今は外の国にいるから変装中なんだ、匂いは特殊メイクだ気にするな。そうだなBとでも呼んどけ」
「ぇ・・・ボス?」
「ブラック、うちの裏家業は、危険人物から物を扱うがな、その際に情報を漏らさないっていう規約はないんだよ。」
その言葉にブラックは目をかっぴらいた。そういえばボスはよく配達物を覗いていたと思いまさかと思い、隣に居る男をみた。
「まさかボスって」
そこまで言いかけてボスはニヤリと笑みを浮かべた。それだけでブラックは口を閉ざした。
「それよりも、お前はお姫様を迎えに行かなくていいのか?」
「お姫様?」
「お前の白雪姫だよ。きっと首を長くして待ってるぜ」
ほらよっと言って渡された書類は、里親申請の書類。
「・・・」
「里親はとりあえず俺にしといてやる。お前は代理だ。行ってこい」
「ぇ?ボスいいんですか?」
「はっ!!俺には男女合わせて7人子がいる父親だぞ。一人ぐらい増えたってかわらねーよ」
そうだった、ボスのプライドには子供もいたんだった。
「アルビノじゃねーが俺の可愛い娘の一人も白変種なんだ。きっと仲良くなれるぜ」
行ってこいと、一緒にアタッシュケースを渡され書類を入れてブラックは外に出た。
地図は無くても分かる。あの少女の匂いを追えばたどり着ける。
さて、何ていって少女に会おうか、あの湖にもう一度行こう、あの赤い瞳をキラキラさせてよろこぶにちがいない。
いろいろな想像をしながらブラックは走り始めた。
気持ちのいい風を受けながら。