社会に出るのはまだ早い!?
「あなた、一体どうして働きたいのよ? その前にここではバイト生も募集していないし、どこに行ってもあなたを雇ってくれるところなんてないわよ。」
「でも、僕、自分で働きたいんだ。周りの友達みたいに親がお小遣いをくれるわけでもないし。それに…、それに小さいときからずっと貯めていたお年玉が入った貯金箱を昨日久しぶりに帰ってきたお父さんが持っていったんだ。あんなに持っていかないでってお願いしたのに。」
「………。そ、そんなことがあったの?それはお母さんは知ってるの?」
「別に言ったって何も変わらないよ。………、ねぇ、どうしてもダメ?僕、奥のほうで人に見られないで済むお手伝いだけやるから、お願い!!!ねえ、お願い!!!」
「何考えてるの?どうしても無理よ。それより、お母さんに伝えるだけ、伝えなさいね、昨日のこと。」
「うるさい、もういいよ、頼まない。」
そう言うと、すごいスピードで店を出て行った。
ほんっとに一体何なのよ!?あんなに小さい子が貯めてたお金を盗るなんて、どんな大人のすることよ?それに、それが父親だっていうんだから世も末だわね。まあ、もしかしたら実の父親じゃないってパターンかもしれないけど、いったいそのお金、いくら入っていたのかしら!?!?!?
「ココちゃん、ウインナコーヒーちょうだい。生クリーム多めでね。」
「はーい。なに、なんかあった?その顔、どう見てもあまり機嫌よさそうじゃないけど…?」
「あぁ、あのね、ここにくる途中、お孫さんをつれたおじいちゃんがいたのよ。そしたら、そのお孫さんが蹴っていたボールが私に当たりそうになったの。そしたら、そのおじいさん何て言ったと思う? そんなに強く蹴ったら前のおばあちゃんに当たっちゃうよって。私は、まだ、55歳よ!それに、あんなおじいさんにおばあちゃんなんて言われたと思うと機嫌よくいられないわ。」
「…。まあ、他人は他人を見てるようでちゃんと見てないのよ。そんなに気にすることないわ。というより、ほんとにその子のおばあちゃんが前のほうを歩いていたかもしれないじゃない?」
「話は変わるんだけど、あなた最近テレビ見てて、俳優だとか歌手だとかに少しでもキュンって心動かされることってある?」
「えっ!? 言われてみればないかも。昔は江口洋介とか見てドキドキしてたなぁ。(一つ屋根の下)に出てるころのあんちゃん役は斬新だったなあ。今現在、あんな気持ちで子供を思う、そして受け止められる父親ってどれくらいいるんだろう。頭ではあのドラマの様に、(あんちゃんにまかしとけ!!!)って思ってても、実際行動に移すのってすっごく大変なのよね。」
「何、ココちゃん。再婚でも考えてるの?」
「まさか、実は今日ね、小学生の……」
「こんにちは。僕、仕事見つかりました。ちゃんと見つかったよ、絶対ないって言ってたからどんな顔するだろうと思って伝えにきてやったんだ。」
「えっ?…、えっ? 一体どこの人があなたを雇ってくれたのよ?」
「俺の隣の兄ちゃんが、自分のしてるバイトを手伝わせてくれるって。しかも僕のした分はちゃんと僕に払うって言ってくれたんだ。」
「それで、どんな仕事なの?」
「地域新聞を配るんだ。学校行く前に配ったりしなきゃいけないから大変だけど、新しい貯金箱を買って、そこにまたお金を戻したいんだ。」
「そう、よかったわね。やると決めたら、がんばりなさい!応援してあげる。はい、これ、オレンジジュース。一杯グイーッと飲んで行きなさい。」
「ありがとう。さっそく明日からなんだ。また来るね。」
「あなた、今の小学生何!?」
「まあ、隣のお兄さんが本当のあんちゃん的あんちゃんなのかどうかは、これから見ていくとするか。」
「えっ?何言ってるの?」
「何でもない。ところで、だれにキュンとしてたの?若いころ。」
「私? 私は野口五郎一筋だったわ。」
「……(笑)プププ。野口五郎も若いころがあったのね。」