みんなそれぞれ
「いらっしゃいませ。お好きな席にお座りください。」
「そんなことで悩んでいるなんて、その悩んでる時間がもったいないわよ。」
「じゃあ、もし私と同じ立場だったらどうします!?」
「あのね、そんなことで悩むような暇がないのよ。いーい?答えは、こうよ。今の時点であなたが好きだから一緒にいて、あなたが、そんな感情を覚えるくらい相手から愛情をもらってるのよ。だから、今はそのひと時に感謝しなさい。いいことじゃない?幸せじゃない!!!もしまだそんなくだらないことで悩むようなら、その心配事が現実になったときにまた来なさい。」
全くくだらないったらありゃしない。今日の相談もまたくだらない恋愛話。自分の彼氏がすごくかっこいいから、他の娘に目がいかないかどうかが不安だって…。
私はカフェを経営している。ここは、いろんな客が来て、いろんな話を運んでくる。それが私へ向けられていないときもあるが、大抵は私に「解決」を求める相談が多い。「解決」なんて大げさで、恐れ多いが、客は私の「意見」を聞きたがる。カフェの経営者としては、普通、相手が欲しがりそうな、その人にとって気持ちの良い返しをするのが得策かもしれないが、私は違う。自分の店で、自分らしくない自らの発言に雁字搦めになりたくはない。
「お母さんはそのままでいいと思うんだけど…。どうしてもしたいの?」
「今とは絶対違う毎日が待ってると思う。」
「そんなこと言うけど、ずっと育ててきて、十分に可愛いあなたの顔が変わってしまうなんて…。
お母さん受け入れられない。それに何も変わらなかったらどうするの?」
「大丈夫。実はもう病院に相談に行って来たの。ビフォーアフター的なものを見せてもらったけど
絶対変わるって確信が持てたから。」
「もう、知らないわ。お父さんには自分で言いなさいね。」
さっきから喧嘩気味に聞こえる親子の声…。話題が話題だけにその子の顔を見てしまう。普通に可愛 じゃん。この間どっかのテレビ番組で言っていたが、今整形を求めてやってくる患者は、誰が見ても「美人」という女性たちであふれかえっていると言う。私から言わせれば、結局は自己満足の世界。整形前、整形後を見比べて100人が100人さらに美人になったと答えるわけではない。その顔は自分が理想とするものにさえ変化すればそれでいいのだ。他人の目を気にしているようで、実は自分の目を満足させているだけに思えてならない。しかし、どれだけ科学が進歩しても、失敗例にかなり残酷なものや、危険な事故があるのも事実。その決断は相当な覚悟で臨まなければならないはずである。もちろん幼少時からその容姿をからかわれて、自殺を考えるほど悩むような場合は、その覚悟と引き換えに臨む価値があるのかもしれない。それで自信を持って生きていけるのなら。
「こんにちはー。ココさんいますかぁ?」
「どうしたの?」
「や、やりました。私、とうとう1級受かっちゃいました!!!」
「すごいじゃない!!!」
「うん、嬉しい。毎年、試験会場で何回か顔を合わせる名前も知らない同じメンバー。見るたんびに、みんなもまた落ちたんだぁって思ってどっか自分を安心させてたけど。でも、もうそんな日々ともお別れ!!!」
「やっぱ、1級ともなるとそこまでいくのに少人数に絞られるでしょうね~。同じ戦友同士が肩を並べて座ってるのね、なんかすごいわね。」
「たまに、ポツンって1人居なくなってたりして…。その度にみんな心で思うのよ。あの人は受かったんだ。羨ましいな。もしくはあきらめたのかも…。だとしたら残念、とかね。」
「でも、どっちにしろ何かに向けて、必死にがんばるのってすごく素敵なことよね。そういう時期ってすごく充実してる。毎日何かヴィヴィッドな感覚で、手探りで進みながら、少しづつ前進していくのがすごく楽しいのよ。いいなあ。はいっ、これどうぞ。私からのお祝い。」
「嬉しい。このコーヒーには、勉強中もお世話になったから(涙)」
カフェを開いてから気づいたことだが、この世の中はほんとにいろいろなことが相反して起こっていて、さまざまな人が、一喜一憂してその時々を過ごしている。毎日ドラマのように展開していく目の前の出来事にこれからも意見させてもらおう。時には心の中だけで…。
「あ、あの相談なんですけど… 聞いてもらえますか?」
「僕、お、お金が必要なんです。ここで働かせてもらえませんか?」
「働かせてもらえませんかって、あなたどう見ても小学生でしょ?ランドセルしょっちゃってるのに何言ってんのよ!?」
「お願いします!!!」
一体、何なんだ!?次のどんな展開が私の前に広がってくるのだろう…。