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ナインイレブン異世界支店

ナインイレブン異世界支店 もりシフト

作者: もり


 俺、秋吉春人(あきよしはると)のバイト先は全国的にも有名なコンビニ・ナインイレブンだ。

ただちょっと俺が働く店は普通とは違う。

何が違うって、それは……


「いらっしゃいませ~」


 自動ドアが開いた気配に俺が笑顔で振り向くと、強面の常連客が入って来た。


「よお、ハル。オーナーは?」


 ニッコリ笑うその客の口からは、鋭利な牙が光り輝く。

 そう、ここはナインイレブン異世界支店。

ダンジョンを攻略しようとする冒険者や魔法使い、はたまた気の良い魔物など客層は様々だ。


「大魔王様、こんにちは~。オーナーは今ちょっと仕入れに出てるんですけど、もう少しで戻って来ると思いますよ?」


「そうか、まあ別にいいんだがな。それより、今日はいつものリポ…なんとかっていうドリンクより強力な滋養強壮のドリンクくれ。あと裂傷に効く塗り薬を……ハル、悪いが背中のこの甲羅のひび割れに塗ってくれないか?」


 そう言って背中を向ける大魔王様の棘だらけの立派な甲羅には、踏まれたらしい靴跡と共に大きなヒビが入っていた。


「またお姫様を(さら)ってあげたんですか?大魔王様もいいお年なんだから断ればいいのに」


「いやあ、桃ちゃんとは昔馴染みだしなぁ」


 やれやれと呆れる俺の言葉に、大魔王様は苦笑しながらボソリと応える。


「相変わらず大魔王様は優しいですねぇ。にしても、お姫様もいい加減に助けに来てくれるかどうかで彼氏の愛を試さなくてもいいのに」


「いやいや、付き合いが長くなると女の子は不安になるもんなんだって」


 傷口に薬がしみたのか、顔を顰めた大魔王様は世間で恐れられているような悪の大魔王そのものに見えるが、その口から出てくる言葉は女心を語っているのだから驚きだ。


「そんなもんですかねえ?それに、あのヒゲオヤジのどこが良いのか、俺にはさっぱり分からないですけど」


「ハハ、それには俺も同意するが、人の好みばかりはそれぞれだからなあ。じゃあ、お代はいつものように、食べたら大きくなれるキノコと火を吐けるようになる花でいいか?」


「はい、もちろんです。ありがとうございました~」


 お代を置くと、大魔王様は「ありがとうな」と言って、鋭い爪が伸びた手を上げて出て行った。

この店の通貨は通常なら銀貨や金貨だが、こうやって物々交換で取引する事もあるのだ。

 大魔王様を見送った俺は、キノコと花を奥の保管庫にもなっている事務所の冷蔵庫へと片付けた。

それから、ふと仕入れにしてはいつもより遅いオーナーが心配になり、時計を見て納品もまだ来ていない事に気付く。

と、そこへ納品のトラックが着いた音が聞こえた。


「ちはー!すみません、遅くなりました!!」


「ご苦労さまでーす!どっかでまた戦闘でもあったんですか?」


 元気よく入って来た納品業者のお兄ちゃんに挨拶を返して、商品を受け取りながら軽い世間話をする。この店は裏口からは通常のコンビニ商品が納入され、表からは異世界商品が納入されるのだ。


「いやあ、少し先の辻でどうやら上位のモンスターが出たらしくて、ハンター達が狩りをしてたんですよ。それで迂回したんで遅くなりました」


「ええ!? 上位のモンスター!? この辺でそんな大物が出るなんて珍しいですけど、大丈夫ですかねえ?」


 この辺りでは滅多に上位モンスターが出没する事はない。その為、集会所にも下位モンスター狙いのハンター達しか集まらないはずなので対処できるのか不安になる。


「それが驚くほど強い武器と防具を備えたハンターが一人いるようで、なんとか狩りも成功しそうでしたよ?」


「ああ、それならいいんですが。狩りの範囲が広がってこの店が被害に遭うなんて事になったら、また店長が泣きますからねぇ」


 そんな会話をしながら一通りの納品が終わって次の店へと去って行った業者のお兄ちゃんと入れ替わりに、オーナーが帰って来た。


「あ、おかえりなさい。遅かったですね……ってどうしたんですか!?」


 やっと帰って来たオーナーに声をかけた俺は驚いた。

オーナーの体はあちこち傷だらけで、返り血なのか自分の血なのか防具は汚れ、武器もその切れ味を落としているようだ。


「ただいま~。いや~下位モンスターのクエストだったから楽勝だと思ったんだがなぁ、うっかりそいつがドラゴン系の上位モンスターを喚んじまって。普通なら有り得ないだろ?バグかなんか知らんが、とにかく焦った焦った。念の為に強力な武器と防具を装備してて助かったよ~。しばらく睨み合いが続いたから、時間かかっちまったなぁ」


 ぼやきながら防具を取り外したオーナーは、お供のかわいいニャンコにその防具と武器を渡して命令する。


「アイはこの武器を砥石で研いでおいてくれ。ルーはその剥ぎ取った鱗や他の素材を加工屋に持って行って武器と防具に加工してもらってくれ。あ、お代はいつも通りツケでな」


 ニャンコ達は「ニャー!」と返事をしてそれぞれ散って行った。

そう、この店のオーナーである(さざなみ)さん(年齢不詳)は上級クエストの冒険者でありハンターでもあるのだ。で、この店で売っている武器や防具はオーナーが狩りで手に入れたモンスターの鱗やら牙やらで作られた物なので、加工屋で加工してもらう代金以外はほぼ原価タダである。

 しかも、この店の地下には暗黒神殿に繋がるダンジョンがあり、その神殿に住まう邪神様からは元手無しでポップコーンを仕入れたりしているので、この店はかなり潤っているのだ。


 お陰で俺達バイトの給料もかなりいい。

まあ、たまに危険が伴う事もあるが、俺達の制服には防御力補正がかけられているし、普段は昼行燈のオーナーもやる時はやる(はずだ)し、リアルに強いがまず見た目が強烈な山崎さんや、モンスター使いの小林などの心強い面々もいるから意外と不安はない。

 それでも同じバイトの銀ちゃんはあまり気が進まない様だが、邪神様にかなり気に入られている彼女は本人が気付いていないだけで一番安全だと思う。なぜならこの界隈で邪神様を敵に回したらどうなるか、皆知ってるからだ。

 要するに俺が一番ヘボい。

一時期は異世界二店舗目のガイア店に移動しようかとも悩んだが、通うには遠いのでやめた。


「じゃあ、風呂入って寝るわ。ハル、あとよろしくな~」


 そう言って、凝った肩をグルグル回しながら店の奥へと消えるオーナーに「お疲れ様でした」と声をかけて俺も仕事に戻る。

 ナインイレブン異世界支店は今日も平和だった。



お読み頂きましてありがとうございました。

なんか色々すみませんでした(汗)

他の皆様の異世界支店シリーズはもちろん、通常の?コンビニシリーズもまだの方は是非どうぞ!!

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