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「役立たず鑑定士と追放された俺、未来が見える星眼で落ちこぼれを最強に育ててクラン《明星》を作る」   作者: なら


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第5話 最初の一歩

宿の一室に、三人が集まっていた。


テーブルの上にダンジョンの簡易地図を広げて、俺は順番に話を進めた。カイルは腕を組んで聞いている。ルシアは壁際の椅子に座って、膝の上で手を重ねていた。


「まず現状の整理だ。カイルは槍に転向したばかりで、扱い方はほぼゼロからになる。ルシアは魔力のコントロールがまだ安定していない。今の状態で上の階層に行っても意味がない。最初は一階層から始める」


「一階層って……初心者が行くところだろ?」とカイルが言った。「スライムとかゴブリンとか、そういうやつ相手にか?」


「そうだ」


「……俺、一応レベル8あるんだが」


「レベルは関係ない。今日からお前は槍使いの初心者だ」


カイルが口をつぐんだ。反論しかけて、やめた。昨日槍を手にしたばかりの自分に、言い返せる言葉がないと分かっているのだろう。


「次に各自の成長方針を伝える」


俺はカイルの方を向いた。


「カイル。槍は剣と重心がまるで違う。剣は手首と肘で振るが、槍は体全体で操る武器だ。間違った型を最初に覚えると、後から直すのに何倍も時間がかかる。だから素振りはやらせない」


「は?」カイルの眉が上がった。「素振りなしで、いきなり実戦か?」


「そうだ」


「……それって普通じゃないだろ! 基礎もなしに戦えるわけが——」


「お前の槍の才能は、この街でも指折りの水準だと言った。そういう人間は、頭で型を覚えるより、体が先に動く。間違った素振りを繰り返して悪い癖をつけるより、実戦の中で眠っている本能を引き出す方が早い」


カイルは黙った。


「信じられないのは分かる。でも俺の鑑定が示しているのは、そういうことだ。型は後からでも直せる。本能は壊せない」


しばらく間があった。カイルは槍を一度見て、また俺を見た。


「……分かった。やってみる」


納得したわけではないだろう。でも従う気になった。それで十分だ。


次にルシアの方を向いた。


「ルシア。お前の魔力は今、荒れている。体の中で魔力がうまく流れていない状態だ。無理に外に出そうとすると暴発するか、空振りする」


「分かってる」とルシアは静かに言った。


「毎日、宿に帰ったら必ずやってほしいことがある。目を閉じて、体の中の魔力の流れを感じる。動かそうとしなくていい。ただ感じるだけでいい。最初は十分もあれば十分だ」


「瞑想みたいなものか?」


「近い。魔力は意識したぶんだけ制御が利くようになる。焦る必要はない。毎日続けることが大事だ」


ルシアは小さく頷いた。


「ダンジョン内では無理に大きな魔法を使わなくていい。小さな魔法を正確に当てることだけを意識してくれ。威力より精度を優先する」


「……分かった」


カイルが「ルシアは魔法使いなのに魔法が使えないのか?」という顔をした。声には出さなかったが、まあ当然の疑問だ。


「使えないんじゃない。コントロールが荒いだけだ。今の状態でも魔法は出る。ただし意図した通りに動かすのが難しい」


「それって戦力になるのか?」


「俺が指示を出す。心配するな」


カイルはまだ半信半疑の顔をしていたが、それ以上は言わなかった。



ダンジョンの入口は街の中心部にある。石造りの大きなアーチが、地下への階段を覆っていた。受付で登録を済ませ、三人で中に入った。


一階層は広い。天井が高く、薄い燐光が壁から漏れていて暗くはない。通路は広めで、複数のパーティがすれ違っても余裕がある。


カイルが槍を構えた。両手で柄を握って、前に向ける。


「……重い」


「慣れろ」


「どう構えるのが正解なんだ?」


「今日はそれを探す日だ。俺が指示を出すから、その通りに動いてみろ」


カイルが口元を引き結んだ。文句がありそうだったが、頷いた。


ルシアは少し後ろを歩いていた。フードを目深に被って、目だけで周囲を確認している。緊張しているのか、指先が少し強張っていた。


「ルシア、魔力を手のひらに少しだけ集めてみろ。出さなくていい。集めるだけだ」


ルシアが目を細めた。少しして、右の手のひらがわずかに黒紫色に発光した。暗黒魔法の気配だ。小さいが、きちんと集まっている。


「それでいい。そのまま歩け」


最初の魔物に遭遇したのは、しばらく歩いた通路の角だった。



スライムだった。


大人の膝くらいの高さの、半透明の塊が二体。のろのろと壁伝いに動いている。弱い魔物だ。ただ、初めて槍を持つカイルと、魔力制御が不安定なルシアには、ちょうどいい相手でもある。


「カイル、右のスライムを突け。大振りしなくていい。槍の先端を、真っ直ぐ前に押し込む感覚だ」


「押し込む……」


カイルが踏み込んだ。槍を構え直して、右のスライムへ突きを放った。


空振った。


スライムがのっそりと動いて、カイルの槍をかわした。カイルが舌打ちをした。


「焦るな。もう一度。今度は相手の動きを見てから出せ」


「見てから出したら遅くなるだろ!」


「今は速さより正確さだ」


カイルが歯を食いしばった。スライムが向かってくる。今度はカイルがタイミングを合わせて突きを出した。


槍の先端がスライムに刺さった。


手応えがあった。カイルの目が少し変わった。驚きと、それから何か別の感触を確かめるような顔になった。


「ルシア、左のスライムに魔法を当てろ。小さくていい。さっき集めた分をそのまま飛ばせ」


ルシアが手を向けた。小さな黒紫の光の塊が飛んで、スライムに当たった。スライムがびくりと震えた。直撃ではなかったが、確かに当たった。


「もう一度。同じ感覚で」


ルシアがもう一発飛ばした。今度は直撃した。スライムが溶けるように崩れた。


カイルの方も、右のスライムを二突き目で仕留めていた。



静かになった通路で、三人は少し息を整えた。


カイルが槍を見ながら言った。「……剣だったら、もっとうまくやれた気がする」


「剣でも同じだった」と俺は言った。


カイルが黙った。


反論しなかった。自分でも分かっているのだろう。剣での素振りの日々が、あの広場での笑われ続けた時間が、頭に浮かんだはずだ。


少しして、ルシアがぽつりと言った。「次は、もっとうまくやる」


カイルがルシアを見た。


感情の起伏が少ないルシアが、そういうことを言うとは思わなかったのだろう。少し意外そうな顔をして、それから小さく笑った。苦笑いに近かったが、笑った。


「……だな。次はもっとうまくやる」


俺は地図を確認した。今日はもう少し進める。


「行くぞ」


二人が後ろについてきた。槍の石突きが石畳を叩く音と、ルシアの静かな足音が、ダンジョンの通路に響いた。



その夜、宿に戻ってから、ルシアは部屋に入る前に俺の部屋の前で立ち止まった。


「今日言ってたやつ、やってみる」


「魔力の流れを感じるやつか」


「うん」


「焦らなくていい。最初はただ目を閉じるだけでもいい」


ルシアは小さく頷いて、自分の部屋に入っていった。


俺はドアが閉まる音を聞いてから、自室に入った。ベッドに腰を下ろして、今日の三人の動きを頭の中で整理した。


カイルは空振りしながらも、二度目の突きで感触を掴んでいた。あの目の変わり方は、本物だ。体が槍を覚え始めている。


ルシアは二発目を直撃させた。魔力の流れが少し整い始めている。瞑想を続ければ、加速度的に安定していくはずだ。


壁一枚向こうのルシアの部屋から、気配がした。


静かな気配だった。目を閉じて、じっとしている気配。


悪くない始まりだ、と俺は思った。

カクヨムで先行公開しています。


頑張って執筆していきますので面白い、続きが気になると思っていただけた方は応援して頂けると嬉しいです。

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