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「役立たず鑑定士と追放された俺、未来が見える星眼で落ちこぼれを最強に育ててクラン《明星》を作る」   作者: なら


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第4話 剣を置く日

ギルド前の広場から少し歩いたところに、冒険者がよく使う食堂がある。昼過ぎの時間帯は客が落ち着いていて、長話をするには都合がいい。


レイン、ルシア、カイルの三人で向かい合って座った。


カイルは注文したエールに手をつけないまま、腕を組んでいた。話を聞く気はある。ただ、どこかまだ腑に落ちていない顔だ。


俺はクランの話を順番に説明した。名前は《明星》。落ちこぼれや評価されていない人間を集めて、最終的にSランクを目指す。今いるメンバーは俺とルシアの二人。カイルが加われば三人になる。


「……Sランクって、伝説クランのことだろ」


「そうだ」


「今何人いるんだ」


「二人だ」


カイルは少し黙ってから、「正気か」と言った。


「至って正気だ」


「……なんで信用できる」


「信用するかどうかはお前が決めることだ。俺にできるのは、お前の才能を正確に伝えることだけだ」


カイルはエールを一口飲んだ。それから、ぽつりと言った。


「槍か」


「槍だ」


「……なんで剣じゃないんだ」


「剣が向いていないからだ。それはお前自身が一番分かっているだろう」


カイルの目が、テーブルの木目に落ちた。


しばらく、誰も何も言わなかった。



「聞いていいか」と俺は言った。「なぜ剣にこだわる」


カイルは答えなかった。答えたくないのか、答え方が分からないのか。エールの椀を両手で包むようにして、じっと見ていた。


それから、ゆっくりと口を開いた。


「……親父が、剣士だった」


俺は何も言わなかった。


「強い人だった。俺が子供のころ、ダンジョンで名前が知られてた。あの人みたいになりたくて、剣を持った。それだけだ」


「お父さんは今も」


「死んだ。俺が十二のときに、ダンジョンで」


カイルの声に、感情の色はなかった。ずっと前に受け入れた事実として、ただ口から出てきた言葉だ。


「それから剣を続けてきた」


「ああ」


「剣士として認められたかった」


カイルは答えなかった。でも否定もしなかった。


「槍使いになっても、強くなれるかもしれない。でもそれは、お前が夢見てきた自分じゃない」


カイルがこちらを見た。「……なんで分かる」


「そういう顔をしているから」


また沈黙があった。食堂の奥から、誰かの笑い声が聞こえた。


「笑われてきた」とカイルが言った。「何年も。剣が下手だって、才能がないって、向いていないって。それでも続けてきたのは、諦めたら親父に顔向けできないと思ったからだ」


俺はその言葉を聞きながら、何も言わなかった。


説得するつもりはなかった。この手の話は、説得するものじゃない。


ただ一つだけ、聞いた。


「お前が本当になりたいのは剣士か。それとも、強くなることか」


カイルの顔が固まった。


答えは出なかった。出るはずもない。そういう問いだと分かって聞いていた。


「……今すぐ答えなくていい」と俺は言った。「ただ、考えておいてくれ」



しばらくして、ルシアがぽつりと言った。


テーブルの端で、スープを飲みながら黙って聞いていたルシアが、顔を上げずに口を開いた。


「私は魔族だから、ずっと魔法を使うなと言われてきた」


カイルが顔を向けた。


「行く街ごとに、魔族は出ていけと言われた。魔法を使ったら騒ぎになった。だから使わないようにしていた」ルシアは淡々と話した。感情を乗せない話し方だったが、それがかえって、積み重なってきた時間の重さを感じさせた。「でも、使えるものを使えないのは、つらかった」


カイルは何も言わなかった。


「剣が向いていないのに剣を持ち続けるのも、きっとつらいと思う」


それだけ言って、ルシアはまたスープに視線を落とした。


自分の話をしているようで、カイルへの言葉でもあった。俺には思いつかない言い方だった。


カイルはしばらく、ルシアのことを見ていた。それから視線を窓の外に向けた。夕方の光が、街に長い影を作っていた。



その夜、俺は宿の自室でカイルのことを考えた。


星眼で見たあのステータスが、頭の中に浮かんでいる。槍の適性、最高水準。筋力の潜在も、鍛えれば都市でも上位に入る数値だ。


ただ、数値がどれほど高くても、本人が動かなければ意味がない。


才能は種だ。水をやらなければ芽は出ない。そして、水をやるかどうかを決めるのは本人だけだ。


俺にできることは、種がどこに埋まっているかを教えることだけ。


あとはカイル自身の話だった。



翌朝。


宿の前に出ると、カイルが立っていた。


昨日と同じ服。昨日と同じ顔つき。ただ一つだけ違うことがあった。


腰に差しているのは、剣ではなかった。


武器屋で買ってきたのだろう、まだ新しい槍を、右手でまっすぐ持っていた。石突きを地面につけて、じっとこちらを見ている。


昨夜どんな時間を過ごしたのか、俺には分からない。剣を外した瞬間に何を思ったのか、それも分からない。


ただ、今朝ここに立っているという事実だけがある。


俺は何も聞かなかった。カイルも何も言わなかった。


後ろからルシアが出てきて、カイルの手の槍を一瞬見て、また前を向いた。


「行くか」


俺はそれだけ言って、歩き出した。


カイルの足音が、後ろからついてきた。


槍の石突きが石畳を叩く音が、朝の街に小さく響いた。


カクヨムで先行公開しています。


頑張って執筆していきますので面白い、続きが気になると思っていただけた方は応援して頂けると嬉しいです。

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