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「役立たず鑑定士と追放された俺、未来が見える星眼で落ちこぼれを最強に育ててクラン《明星》を作る」   作者: なら


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第15話 それぞれのダンジョン

ギルドの受付カウンターに、一枚の通知書が置かれた。


アルド・ヴァルガスはそれを手に取って、一度だけ読んだ。それから黙って折りたたんでポケットに押し込んだ。


依頼失敗通知、三枚目。このまま続けばCランクからの降格審査が開始される。


隣に立っていたリッカが「また失敗通知か。使えない依頼人に当たったな」と言った。


「依頼人のせいじゃない」とアルドは言った。


「じゃあ誰のせいだ」


アルドは答えなかった。


少し離れたところでミレナが書類の確認をしながら、独り言のように言った。「そもそもこのパーティの水準が落ちているのよ。誰かさんがいなくなってから特に」


「何か言ったか」とアルドが振り返った。


「別に」


ミレナは書類に視線を戻した。その顔に感情はなかった。


誰もその「誰か」の名前を言わなかった。言う必要がないほど、全員が分かっていた。



その夜、アルドは一人で酒場にいた。


三杯目のエールを飲み干しながら、隣の席の冒険者たちの話を聞いていた。


「聞いたか、時の若葉がオークションに出たらしいぞ」


「時の若葉って、あの?」


「そうそう。三年間老化しないっていう。金貨六百二十枚で落ちたって話だ」


アルドの手が止まった。


「六百二十枚だと」


「すごい話だよな。一体どこの冒険者が持ち込んだんだか」


アルドはエールを置いた。頭の中で計算が始まっていた。


時の若葉はダンジョンで稀に採れる。出どころは限られている。隠し通路か、中層のボスのレアドロップ。どちらかだ。


金貨六百二十枚。今の蒼天の剣の全財産を合わせても届かない。いや、アルド個人の財布はもっと悲惨だ。高級な装備、上等な宿、仲間への見栄。稼ぎが安定していた頃についた散財の癖が抜けていない。今月の宿代すら怪しくなってきている。


一発逆転できる。


アルドはそう思った。俺が時の若葉を見つければ、全部解決する。



翌朝、アルドは二人に何も言わずにダンジョンへ向かった。


リッカはアルドの背中を見送りながら舌打ちした。「またか。一人で手柄を独占しようって魂胆だろ」


ミレナは朝食のパンを千切りながら、関心なさそうに言った。「好きにすれば。失敗しても知らないわ」


それから少し間を置いて、ミレナは静かに考えた。


アルドもリッカも、もう伸びない。自分にはそれが分かる。レインがいた頃は鑑定と指示があったから動けていた。今は三人とも手探りで、天井に頭をぶつけ続けている。このパーティに未来はない。


問題は降格審査が始まる前に、自分だけ別のパーティに移れるかどうかだ。ツテを探す必要がある。アルドとリッカのことは、そのときは知らないと言えばいい。


ミレナはパンを口に入れて、淡々と次の手を考え続けた。



ギルドの休憩所で、リッカは顔見知りの冒険者と話していた。


「最近Eランクの新人クランが中級階層に潜ってるらしいな」と相手が言った。


リッカが鼻で笑った。「Eランクが中級? 身の程知らずにもほどがある」


「でも実績は上げてるらしいぞ。達成率も悪くないって話だ」


「どうせまぐれだ。新人が中級に潜れば、そのうち痛い目を見る」


相手が「まぁ、でも続いてるんだから実力があるんじゃないか」と言うと、リッカは「うるさい」と打ち切った。


根拠はなかった。ただ、新人が中級で結果を出しているという話が、なぜか胸の奥に引っかかった。その引っかかりが何なのかを考えるのが嫌で、リッカはそれ以上考えるのをやめた。



アルドは十一階層に入って、壁を叩き続けた。


継ぎ目を探して指で押す。叩いて音の変化を聞く。一時間、また一時間と過ぎていく。何も見つからない。


焦りが判断を鈍らせていた。


魔物の気配に気づいたのが遅れた。通路の角から中型の魔物が三体現れた。普段なら問題ない相手だ。ただ、今のアルドには仲間がいない。鑑定士もいない。魔物の弱点も、戦闘の見通しも、何も分からないまま剣を抜いた。


一対一なら何とかなった。三体は無理だった。


右腕に深い傷を負って、アルドは撤退した。回復薬を使いながら階段を駆け上がる。地上に出たとき、膝が笑っていた。


鎧に血がついている。剣の柄を握る右手が震えていた。


頭の中に、一つの顔が浮かんだ。


レイン・アルト。


「あいつがいなくなったから、こうなった」


口から言葉が出た。誰もいない路地で、アルドは壁に拳を叩きつけた。


論理は通らない。レインを追放したのは自分たちだ。それは分かっている。分かっているが、それでも怒りの向け先がそこにしかなかった。


壁が冷たかった。



数日間、俺たちは十一階層で《戦場の指揮》を使いながら連携を磨いた。


五戦、十戦と重ねるうちに、三人の動きが変わってきた。カイルの突きに迷いがなくなった。ルシアの魔法が一発目から精確になった。ナナの奇襲タイミングが戦闘開始から縮んでいった。


朝食の場で、俺は口を開いた。


「今日、十階層のボスに行く」


カイルが「来た!」と声を上げた。ルシアが静かに杖を確かめた。ナナが耳を立てた。



十階層の空気は重かった。


通路を進むにつれて、魔物の気配が薄くなっていく。ナナが「奥に集まってる。ボス部屋に引き寄せられてるのかもしれない」と言った。


扉の前で俺は最終確認をした。


「配下を先に処理する。ルシアが密集地点にダークバーストを撃ち込む。散った残りをカイルとナナで片付ける。配下が全滅したら本体に集中。増援が来ることも想定しておけ」


三人が頷いた。


《戦場の指揮》を発動した。頭の中で三人の気配が広がる感覚。カイルの重心、ルシアの魔力、ナナの位置。薄くだが伝わってくる。


扉を開けた。



広い部屋だった。


奥に、それはいた。


通常のゴブリンの二倍以上の体躯。重厚な鎧、大剣。ゴブリンジェネラル。その周囲に配下のゴブリンが六体散らばっている。


俺たちを見て、ジェネラルが低く唸った。


「ナナ、配置を」


「左に三体、右に二体、ジェネラルの真後ろに一体」


「ルシア、左の三体にダークバーストを」


「ダークバースト」


黒紫の光が一点に圧縮されて、弾けた。左側の三体を直撃した。二体が即座に沈んだ。一体が膝をついた。


「カイル、右へ」


「行く!」


カイルが右側の二体に向かった。新しい槍の重みが踏み込みに乗っている。一突き目で一体を仕留めた。二体目に向き直る。


ナナがすでに動いていた。後ろのゴブリンを背後から仕留めて、左の残り一体の首元に《レイスナイフ》を走らせた。膝をついていた一体が完全に倒れた。


カイルが右の最後の一体を突いた。


配下、全滅。


ジェネラルが咆哮した。


部屋に響く低い雄叫びだった。その直後、通路の扉が開いた。増援のゴブリンが二体現れた。


「来ると思っていた」


ナナがすでに動いていた。指示を出す前に増援の方向に向かっている。《戦場の指揮》の補正が乗っているのか、それともナナ自身の判断か。どちらでもいい。結果として正しい動きをしている。


「カイル、ジェネラルを引きつけろ。ルシアは側面から削れ」


「分かった!」


カイルがジェネラルと正面から向き合った。ジェネラルの大剣が振り下ろされた。重い一撃だ。カイルが槍で受け流す。腕に衝撃が走ったはずだが、足が動いている。頑健のスキルが全身を支えていた。


「ダークアロー」


ルシアの魔法がジェネラルの側面に連続で当たった。一発、二発、三発。新しい杖の収束速度が、連射を可能にしていた。ジェネラルの鎧に焦げた跡が広がっていく。


ナナが増援を片付けて戻ってきた。


ジェネラルの動きが鈍り始めていた。


ナナが俺を一瞬見た。俺は顎を引いた。


ナナが消えた。


どこに行ったか分からなかった。気配が完全に消えた。


ジェネラルがカイルの槍を弾き返した瞬間、ナナがジェネラルの背後に現れた。《レイスナイフ》が首の横を走った。


ジェネラルの動きが止まった。


麻痺、発動。


「カイル!」


カイルが踏み込んだ。渾身の一突きが胸の鎧の継ぎ目を貫いた。


「ダークバースト」


ルシアの魔法が追撃で炸裂した。


ゴブリンジェネラルが、どさりと倒れた。


部屋に静寂が戻った。



宝箱を開けると、中身は銀貨二十枚相当の素材と小さな回復薬が一本だった。


カイルが「これだけか」と苦笑いした。


「言っただろう」と俺は返した。


「分かってたけど、やっぱりちょっと笑えるな」


ルシアが宝箱の中を見て、「経験値は本物だ」と短く言った。


ナナが《レイスナイフ》を拭いながら静かに言った。「また麻痺が入った」


「二度目か」と俺は言った。「使い方が掴めてきたな」


ナナが少し、耳を動かした。


四人でボス部屋を出た。帰り道、俺は今日の《戦場の指揮》の効果を頭の中で整理した。


増援へのナナの対応は指示なしだった。ルシアの連射タイミングはカイルの動きと完全に合っていた。カイルは大剣を受け流した後、すぐに次の動作に移れていた。まだ粗削りだ。だがこれが洗練されれば、手がつけられなくなる。


宿に戻って夕飯を食べながら、カイルが「次は中級階層のボスだな!」と言った。


「その前にやることがある」と俺は言った。


「なんだ?」


「クランのランクを上げる。Eランクのままでは受けられる依頼に限界がある。ランクが上がれば報酬の高い依頼を受けられるようになる。装備をさらに整えることもできる」


カイルが「どうすればランクが上がるんだ?」と聞いた。


「実績だ。依頼の達成数と内容を積み上げてギルドに申請する。ボスを倒したことも実績になる」


「じゃあ今日の討伐も使えるのか」


「使える」


カイルが「なんか急に現実的な話になったな」と笑った。ルシアが「現実的な話が大事だ」と返した。ナナが小さく頷いた。


俺は飯を食いながら、次の手を考えた。


ランクアップ、装備の強化、中級階層の攻略。やることは山積みだ。


それでも、今日の四人の動きを見ていれば、どこまで行けるかは分かる。


まだ始まりの始まりだ。


カクヨムで先行公開しています。


頑張って執筆していきますので面白い、続きが気になると思っていただけた方は応援して頂けると嬉しいです。

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