表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「役立たず鑑定士と追放された俺、未来が見える星眼で落ちこぼれを最強に育ててクラン《明星》を作る」   作者: なら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/16

第12話 隠し通路の先

その日も四人で中級階層に潜っていた。


十一階層の奥、岩トカゲとの戦闘を二戦こなして、通路の突き当たりに差し掛かったときだった。


俺は足を止めた。


「どうした?」とカイルが振り返った。


「待て」


壁を見た。


突き当たりの石壁は、通路の他の部分と同じ灰色の岩だ。継ぎ目も模様も、一見変わらない。ただ、何かが引っかかっていた。光の当たり方が、周囲と微妙に違う。石の表面の風化具合が、わずかにちぐはぐだ。


俺は星眼を壁に向けた。


通常、星眼は生物のステータスを見るためのものだ。ただ、長年使い続けてきた経験から、気配や違和感を感じ取る感度が人より高くなっている。壁越しに一度認識した相手を鑑定できるくらいには、感覚が研ぎ澄まされていた。


星眼を通して見ると、石壁の奥に空間があった。


「隠し通路だ」


三人が顔を上げた。


「壁の奥に空間がある。どこかに開閉の仕掛けがあるはずだ」


ナナがすでに壁に手をついて、表面を探り始めていた。指先で石の継ぎ目をなぞって、押したり引いたりしている。


「こっちか」


ナナが少し右寄りの石を押し込んだ。


ごとん、と重い音がして、壁の一部が内側に開いた。人一人が通れるほどの隙間が、暗い通路の奥に続いている。


カイルが「隠し通路って本当にあるんだな!」と声を上げた。


「珍しいことじゃない」と俺は言った。「ただ、見つけられる人間が少ないだけだ」


「レインが気づかなかったら通り過ぎてたぞ」


「そうだ。行くぞ」



隠し通路は短かった。


十メートルほど進むと、小さな空間に出た。天井が低く、壁が丸みを帯びている。燐光が弱く薄暗いが、目が慣れると全体が見渡せた。


奥に、宝箱が二つ並んでいた。


一つは金箱。もう一つは、見たことのない素材でできた黒い箱だった。金箱より一回り小さいが、表面に細かい紋様が刻まれている。


カイルが「二つある!」と前に出ようとした。


「待て。罠の確認が先だ」


俺はナナを見た。ナナが頷いて、静かに空間を一周した。床を踏みしめて、壁を確かめて、宝箱の周囲を調べる。


「罠はない」


「分かった。金箱から開ける」


カイルが金箱の蓋を持ち上げた。


中に短剣が一本収まっていた。


刀身が薄く、全体に黒みがかった光沢がある。柄の部分に小さな石が埋め込まれていて、それが微かに緑色に光っていた。


俺は反射的に星眼を使った。


武器の鑑定は生物とは勝手が違うが、特殊な気配を持つ武器はある程度読み取れる。


この短剣には、確かに何かが宿っていた。



「アーティファクトだ」と俺は言った。


カイルが「アーティファクト?」と聞いた。


「特殊な効果を持つ武器や防具のことをそう呼ぶ。ただの武器とは区別される。ダンジョンの隠し通路やボスのレアドロップから出ることが多い」


「特殊な効果って?」


「この短剣は、切りつけた相手を麻痺させる可能性がある。ただし、相手の耐性によって発動するかどうかが変わる。耐性が高い相手には効きにくい」


「麻痺!」カイルが目を輝かせた。「それってすごくないか? 動きを止められるってことだろ!」


「斥候向きの武器だ」と俺は言って、ナナを見た。「ナナ、使えるか」


ナナが短剣を受け取った。逆手に持って重心を確かめて、刀身を光にかざした。


「……悪くない。今の短剣より少し重いが、慣れる」


「麻痺の効果は戦闘の幅を広げる。首元を狙う前に一撃入れておけば、相手の動きが鈍る。使い方次第で大きく変わる」


ナナは短剣を鞘に収めた。「もらう」


「ちなみに名前は?」とカイルが聞いた。


「名前?」


「アーティファクトって名前がついてるんじゃないのか?」


「ついているものとついていないものがある。これは……」俺はもう一度星眼を向けた。かすかに、紋様から読み取れるものがある。「《レイスナイフ》と読める」


「レイスナイフか。かっこいいな!」


ルシアが「似合っている」と短く言った。


ナナが少し、ルシアを見た。何も言わなかったが、表情がわずかに動いた。



次に黒い箱を開けた。


中に、一枚の葉が丁寧に布の上に置かれていた。


大きさは手のひらほど。薄い緑色で、光に透かすと葉脈が細かく走っているのが見える。見た目は普通の葉っぱだが、独特の清涼な香りがする。


カイルが「葉っぱ?」と首を傾げた。


「時の若葉だ」


「知ってるのか?」


「聞いたことがある。ダンジョンで稀に採れる希少品だ。すり潰して飲むと、三年間老化しない」


「三年間?!」カイルが目を丸くした。「老化しないって、どういうことだ?!」


「見た目が変わらない。歳を取らない。貴族の奥方などに非常に需要がある。オークションに出せば、莫大な金額になる」


「莫大って、どのくらいだ?」


「俺たちがダンジョンで一年稼いでも届かないくらいだ」


カイルが「それって……!」と言いかけて固まった。


ルシアが「売るのか」と静かに聞いた。


「オークションに出す。クランの資金にする。装備を整えれば、今より上の階層に早く行ける」


「賛成だ」とナナが言った。


カイルが「俺も賛成だ。でも惜しいな……」と葉を見ながら言った。


「お前が飲んでも意味がない。今のお前はまだ老化を気にする年齢じゃない」


「そりゃそうだけど!」


ルシアがわずかに口元を動かした。笑ったわけではないが、それに近い何かだった。


俺は黒い宝箱の蓋をそっと閉めた。箱ごと持ち帰る。これだけの品を布に包んで持ち歩くより、この宝箱自体が最良の容器だ。紋様の刻まれた黒い箱は、中身を守るために作られたものだろう。早めにギルドの保管庫に預けた方がいい。


「戻るぞ」


四人で隠し通路を抜けた。



地上に上がってから、俺はギルドに向かった。


時の若葉をギルドの保管庫に預けて、オークションへの出品手続きを確認する。ギルドの担当者は時の若葉を見た瞬間、明らかに目の色が変わった。


「これは……確かに本物ですね」担当者が声を抑えながら言った。「次のオークションは二週間後です。出品されますか?」


「頼む」


「落札額の一割がギルドの手数料になりますが」


「構わない」


担当者が書類を持ってきた。手続きをしながら、担当者がぽつりと言った。「新人クランでこれを持ち込んでくるとは思いませんでした。どこで?」


「中級階層の隠し通路だ」


担当者が少し間を置いてから「そうですか」と言った。それ以上は聞かなかった。


宿に戻ると、三人がテーブルを囲んでいた。


ナナがすでに《レイスナイフ》を手入れしていた。カイルが「オークションってどのくらいになるんだ」とそわそわしながら聞いた。


「二週間後に分かる」


「それまで待てと」


「待て」


カイルが「待てるかなあ」と言いながらも椅子に座り直した。


ルシアが「楽しみにしている」と言った。


ナナは短剣を鞘に収めて、静かに「私も」と言った。


俺はその四人の様子を見ながら、今日の収穫を頭の中で整理した。


《レイスナイフ》はナナの戦闘の幅を確実に広げる。時の若葉は、クランの資金を一気に押し上げるかもしれない。


隠し通路一つで、流れが変わることがある。


まだ始まりの始まりだ、と俺は思った。


カクヨムで先行公開しています。


頑張って執筆していきますので面白い、続きが気になると思っていただけた方は応援して頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ