第7話 辺境領の課題
ノースフォード辺境領に来てから、マーガレットには疑問に思っていることがあった。
それは、出される食材にノースフォード産のものが少ないことだ。
物流が発達していないこの世界では、地産地消が一般的だ。しかし、出される食材は王都や他の領地で採れるものばかりだ。
食事の時、マーガレットはさりげなくアーサーに尋ねてみた。
「アーサー様、この時期が旬のノースフォード産の食べ物は何でしょうか?食べてみたいです。」
アーサーは一瞬驚いたような顔をしたあと、申し訳なさそうに眉を下げた。
「ノースフォードの土地は痩せているから、農産物は他の領地と比べると収穫量も少ないし小さいから売れないんだ。だから、何とか作物が育つ南部の2つ集落でしか農業は行われていない。北部は夏に林業を行い、冬に余った木材や購入した布で品物を作って販売している。基本的には他の領地から食料を買っている」
「それでは、不作の時に困るのでは?今まではどうしていたのですか?」
マーガレットの指摘に、アーサーは我が意を得たりというような表情をした。
「そうなんだよな~。今までは城の保存食を配給していたが、そのタイミングで魔物が出現したらそれもできない。いつかは解決しないといけないが、後回しにしちゃってるんだよな~」
そういって頭を抱えるアーサーの言葉遣いや仕草からは、正直なところ、辺境伯としての威厳が微塵も感じられない。
マーガレットが側に控えるオリヴァーにちらりと視線をやると、あからさまに目を逸らされた。
どうやら、アーサーは統治能力は低いらしい。
マーガレットはこっそりため息を付きつつ、アーサーに向き合った。
「(本当は前世の知識だけど、嘘も方便って言うしね)私は皇太子妃教育として様々な分野を学んできました。その中には、基礎的ではありますが農業や商業など、辺境領の統治に役立てられるものもあります。許可をいただければ、未来の辺境伯夫人として解決に取り組んでもよろしいでしょうか?」
「本当か!?それは助かる!ぜひお願いしたい!」
アーサーの表情がパッと明るくなる。何とも表情が豊かな殿方だ。
自分からお願いしながら、マーガレットは二つ返事で許可が出たことに驚いた。
(アーサー様は『女は政に関わるべきではない』みたいな男尊女卑の考えをお持ちでないのね)
それはともかく、人の上に立つ者として、アーサーはもっと腹芸を身に付けるべきだと思うマーガレットであった。
アーサーの許可を得たマーガレットは、さっそく城下に視察に出る。
ノースフォード辺境領は、城がある辺境都を中心に5つの集落で構成されている。
アーサー曰く、その内の南部の2つの集落で農業が行われているとのことだ。
マーガレットが領都から近い方の集落に行くと、村長自ら出迎えてくれた。
形式的な挨拶のあと、村長に案内されて農地を視察する。農地には、小麦が実を付けていた。
しかし良く見ると、1つ1つの穂に付いている実が小さかったり、等間隔に苗が植えられていなかった。
「この畑では、小麦の他にはどんな作物を栽培しているの?」
マーガレットが尋ねると、村長は首を傾げた。
「春から夏に小麦を、秋から冬にライ麦を栽培しております。今は小麦の時期でございます」
麦類は農作物の中でも比較的寒さに強い。
その中でも特に寒さに強く、痩せた土壌でも育つライ麦を冬場に栽培し、その後に小麦を栽培しているようだ。
今は8月だから、確かに春小麦の時期だ。
その後、マーガレットは他の畑を見たり、もうひとつの集落を視察した。
しかし、育てている作物に違いはあるものの、栽培状況は似たようなものだった。
(素人でも、前世の知識があれば改善できるかな?)
視察を終えたマーガレットは、頭の中で考えをまとめながら帰路に着いた。




