第6話 アーサーが聞きたいこと
アーサーたちが帰還した翌朝。
マーガレットが朝食をとるために食堂に行くと、アーサーが先に席に座っていた。
「おはようございます、アーサー様」
「ああ、おはよう。マーガレット嬢、朝食のあと、少し聞きたいことがあるのだが構わないか?」
アーサーに聞かれて驚いたマーガレットだったが、特に予定はないので了承する。
「大丈夫です」
「ならば、私の書斎に来てくれ」
そういって、アーサーは朝食を摂り始めた。
マーガレットも朝食を摂り始めるが、頭の中はアーサーが聞きたいことは何かを考えるのでいっぱいだった。
(昨日の続きかな?それとも、何か疑問に思われることしたかな?)
緊張から、せっかくの朝食の味が感じられなくなってしまったマーガレットだった。
朝食後、マーガレットは約束通りアーサーの書斎を訪ねた。向かい合って応接用のソファーに座り、オリヴァーが淹れてくれた紅茶を飲む。
「悪いが、事前に貴女のことを調べさせてもらった。エドワード皇太子殿下との婚約を解消したことは裏が取れたのだが、その理由が分からなかった。私は、失礼ながら勝手に貴女に問題があると決めつけていた。だが、昨日の理にかなった行動を見て、それは違うと確信した。嫌なことを思い出させてしまうかもしれないが、理由を教えてくれないか?」
アーサーの質問にマーガレットは納得した。皇太子との婚約が解消されれば、相手の令嬢に問題があると考えるのが普通だろう。実際、アーサーも最初はそう考えていた。しかし、それが違うと気づくとマーガレットに本当の理由を尋ねてきた。
マーガレットは、アーサーのそんな真摯な態度に好感を覚えた。
「皇太子妃教育で王城を訪れた際に、エドワード皇太子殿下が私以外の令嬢と抱き合っているのを見かけたのです。しかも、彼は彼女に対して私の容姿を貶めるような発言をしたのです。このまま婚約関係を継続しても、結婚後にぞんざいな扱いをされるのは目に見えています。そこで、父と相談して婚約を解消する代わりに、王家が出した条件を受けることにしたのです。その条件が、ノースフォード辺境伯であるアーサー様と婚約することでした。今考えると、アーサー様を利用する形になってしまい、申し訳ございません」
マーガレットは正直に告白して謝罪する。一拍置いてアーサーの爆笑が室内に響き、マーガレットは驚いて顔を上げた。
「貴女は王家に三行半を突きつけて、私を使用したわけか!なかなか肝が座っているな!」
アーサーは目元に浮かんだ涙を拭いながら言った。
「えっと、お褒めいただき恐縮です?」
「我がノースフォード辺境領は、知っての通り魔物は出るは冬は寒いわで厳しい環境でな。そんな場所に嫁ぐには、深窓の令嬢より貴女のほうが相応しい。これからよろしく頼むよ、マーガレット嬢。」
アーサーはそう言うと手を差し出した。
(大胆な方なのね)
「こちらこそよろしくお願いします、アーサー様」
マーガレットは差し出された手を握り返した。日々訓練していることが伝わる、剣ダコができて硬く、しかし大きくて温かい手だった。




