第4話 魔物討伐団の帰還
部屋を飛び出したマーガレットは足早に歩き、セバスチャンを探す。
「セバスチャンはどこ?」
「ここでございます、マーガレット様」
「アーサー様たちがお戻りになると聞きました。怪我人も複数いるのですね?」
「はい、私も詳しいことは分からないのですが…」
セバスチャンの返事を聞いて、マーガレットはうなずく。
(前もって準備するに越したことはないよね。前世だと、こういうときは確か…)
マーガレットの前世であるミユキは喘息の持病があり、病院に通っていた。その影響で医療ドラマをよく観ていた。
その中で、災害時や大規模事故の現場において、治療の優先順位を決める「トリアージ」の重要性を知っていた。トリアージをすることで、限られた医療資源を最大限に活用し、一刻を争う重症者を優先的に救命することで、より多くの命を救うことができるのだ。
マーガレットはそれを実践するつもりだった。
「(前世の知識だから怪しまれるかもしれないけど、背に腹はかえられないよね。)セバスチャン、まずは使用人たちを集めて」
その間に、マーガレットは動きやすい服装に着替えることにした。
10分後、急いで着替えを終えたマーガレットは集められた使用人たちと対峙していた。
「今から、魔物討伐で怪我をされた皆様を治療するための準備をします。まずは、この中で一番馬に乗るのが上手いのは誰?」
使用人たちがざわつき、視線が1人の男性に集まる。
「あなたの名前は?」
「馬番のクリスです」
「クリス、馬で街に行って医者や医療の知識がある人たちをできるだけ集めてきて下さい。もちろん報酬は払います」
「分かりました」
指示を受けたクリスが使用人たちの集まりから外れる。
「これから、普段の担当別に指示を出します。衣装係は黒、赤、黄、緑の紐を用意して下さい。炊事係は炊き出しの準備をお願いします。セバスチャン、人が横になれるような空間のある建物はある?なるべく清潔な場所がいいんだけど…」
マーガレットの質問に、セバスチャンは目をつぶって考えていたが、すぐにうなずいた。
「ございます」
「では、リネン係はそこに清潔なシーツを敷いて、4つのスペースを作って下さい。何か質問はありますか?」
マーガレットが見回すと、使用人の1人がおずおずと挙手をした。
「恐れながら、マーガレット様は旦那様の婚約者様であり、辺境伯夫人としての権限はございません。旦那様の許可なく、このようなことをしてもよろしいのでしょうか?」
使用人の言葉に、マーガレットは即答する。
「構いません。アーサー様への説明も私が責任を持って行います」
最後に、マーガレットは強調する。
「怪我をされた方たちをどれ程早く助けられるか、皆さんの準備にかかっています。よろしくお願いします。」
それを合図に、マーガレットの決意を感じた使用人たちは自分の役割を果たすべく、動き出した。
およそ1時間後、討伐団が帰還してからは、さながら戦場のようだった。
マーガレットは、クリスが連れてきた医師たちにこう伝えた。
「軽傷の方は、手首に緑の紐を巻いて奥から二番目のスペースにお願いします。歩けないけど、意志疎通ができる方は、黄の紐を巻いて手前から二番目のスペースです。意志疎通ができないほど怪我が酷い方は赤の紐を巻いて一番手前のスペースにお願いします。…移動の途中で亡くなってしまったり、助かる見込みのないかたは、黒の紐を巻いて一番奥のスペースです。赤の紐の方から治療をお願いします。」
使用人たちが用意したものをいぶかしげに見ていた医師たちだったが、マーガレットの発言に納得した様子でうなずいた。
その後、マーガレットが足りなくなった備品の用意や炊事係が用意した炊き出しを配ったりしていると、朝からずっと動き回っていた疲れからか、不意に眩暈がした。
(あ、やばい)
マーガレットは倒れるのを覚悟してぎゅっと目を閉じだが、誰かに支えられる感覚があった。




