第23話 騎士団vsビックベア
それから2人は、鍛冶屋スミスから湯たんぽが完成したと連絡を受けるたびに、オリヴァーが作成した戸籍の確認も兼ねてノースフォード辺境領の各集落に届け、使い方を説明するという日々を過ごした。
そのため、本格的な冬を向かえる前に全ての集落に配り終えることができ、マーガレットはほっと胸を撫で下ろした。
そんなある日、ノースフォード辺境領にけたましい鐘の音が鳴り響いた。
「何があったの?」
マーガレットが不安げにつぶやくと、アンが確認のために部屋を出ようとした。
そのとき、ノックと同時にアーサーが部屋に入ってきた。
彼が甲冑を身に付けている姿を見て、マーガレットはただ事ではないと悟った。
「見張り塔の兵から、複数のビックベアがこちらに向かっていると報告があった。」
「ビックベアですか?」
ビックベアとは、文字通り熊の姿をした魔物だ。
マーガレットは王都育ちのため、実際の姿を見たことはないが、知識として知っていた。
「ああ。この時期は冬眠しているはずなのだが、冬眠前の栄養補給が十分でない個体が空腹で目を覚まし、食料を求めて集落を襲うんだ。だから、通常より凶暴になっている」
「…そうなのですね」
ただでさえ危険な魔物がさらに凶暴になっていると聞き、マーガレットは不安になった。
そんなマーガレットを見て、アーサーはぎこちない仕草で彼女の頭に手を置くと、ポンポンと軽くたたいた。
「大丈夫だ、すぐに戻ってくる。くれぐれも城の外に出ないように。楽しみにしてろ」
アーサーの最後の言葉に若干の疑問を抱きつつ、マーガレットは頷いた。
「ご武運を、アーサー様」
騎士団と共に城を出たアーサーは、報告があった場所に向かった。
出現したビックベアの数は2頭のため、選抜したメンバーは人数こそ少ないものの、オリヴァーを初め精鋭ぞろいだ。
目的地に到着すると、魔物特有の禍々しい雰囲気が漂っている。
不意に、茂みがガサガサと揺れ、ビックベアが飛び出してきた。
「かかれっ!」
アーサーの合図で団員たちが一斉に攻撃を始める。
アーサーも負けじと剣を振るう。
そのとき、ビックベアが鋭い爪がついた手を振り下ろし、アーサーは間一髪で飛び退いてかわした。
「閣下!」
「大丈夫だ!」
オリヴァーの呼び掛けにアーサーはそう答えたが、頬に熱が走った。
どうやら爪がかすったらしい。
その後も攻撃を続け、怪我人はいるものの、アーサーたちは重傷者を出すことなくビックベアの討伐に成功した。
アーサーたちが出撃してから数時間後、マーガレットは彼らが戻ってきたと連絡を受けて城門まで出迎えにいった。
「マーガレット、今戻った!出迎えありがとう」
「お帰りなさいませ。ご無事で―」
言葉を続けようとしたマーガレットだったが、アーサーの姿に息を飲んだ。
アンは衝撃で気を失い、セバスチャンに支えられている。
なぜなら、彼の甲冑は血で真っ赤に染まり、肩には巨大な熊のような生き物を担いでいたからだ。
おそらく、これがビックベアなのだろう。
笑顔で手をブンブン振っていることから彼が無事なことは分かるが、なかなかインパクトのある光景だ。
「旦那様、若いご令嬢にそのお姿はいささか刺激が強すぎるかと…」
セバスチャンがあきれ顔でそう告げると、アーサーはしまった、という顔をした。
「すまない、驚かせてしまったな。ビックベアの肉はうまいから、つい…」
「ビックベアを食べるのですか!?」
マーガレットが驚いて聞き返すと、アーサーは頷いた。
「ああ。ノースフォード辺境領にとっては貴重な食料だ」
「そうなんですね(前世でいうジビエみたいな感じかしら)」
「ビックベアを討伐したあとは、城で働くものや騎士団員たちに肉を振る舞うのだが、マーガレットも参加するか?もちろん、無理にとは言わないが…」
アーサーは魔物を初めて見るマーガレットを気遣ってそう言ったが、その目は参加してほしいという期待が込められていた。
もともと、容姿が整っているアーサーに、そんな視線を向けられて断れるわけもなく…
「ありがとうございます。ぜひ参加させていただきます」
マーガレットは半分ひきつった笑顔で、そう答えたのだった。




