第22話 二人三脚
領城を出発したアーサーとマーガレットは、鍛冶屋スミスで完成した湯たんぽを受け取りに行った。
鍛冶屋スミスでは、今も職人たちが湯たんぽの製造に取り組んでいた。
「皆さん、お疲れ様です」
マーガレットが声をかけると、職人たちが一斉に振り向いた。奥から主人の男性が出てくる。
「お待ちしてました。完成した湯たんぽは箱に詰めて奥の部屋に置いてあります。とりあえず50個です」
そこで、主人はアーサーに視線を向けると、ニヤリと口の端を上げた。
「ところで、今日は随分と男前な人を連れていらっしゃいますね」
「あはは…」
アーサーの正体を明かしていいか分からないマーガレットは、笑って誤魔化した。
すると、アーサーがすっと前に出た。
「アーサー•ノースフォードだ。今回は私の婚約者であるマーガレットの依頼を引き受けてくれたこと、感謝する」
アーサーの自己紹介に、主人と職人たちは慌てて頭を下げた。
「鍛冶屋スミスの主人をしております、スミスと申します。辺境伯様とその婚約者様とは知らず、大変失礼いたしました。」
「構わない。今後ともよろしく頼む」
アーサーがそう言うと、スミスと職人たちは一層深く頭を下げた。
湯たんぽが入った箱を馬車に詰めたあと、2人はノースフォード辺境領の最北に位置する集落に向かった。
そこで、1つの誤算があった。
(ち、近いわ…)
これまでは、車内はマーガレットとアーサーの2人だけで、スペースにも余裕があった。
しかし、大量の荷物があるとそうはいかない。車内のスペースが限られるため、向かい合っていても距離が近くなる。
(お尻が痛くなってきたな…)
マーガレットが体勢を変えようと腰を浮かせたとき、不意に馬車がガタンと大きく揺れ、その拍子にマーガレットはバランスを崩した。
「きゃあ!」
「うわっ!」
気がつくと、マーガレットはアーサーの上に折り重なるようにして倒れ込んでいた。
「す、すみません!」
マーガレットが慌てて身体をどかすと、勢い余って荷物に後頭部をぶつけた。ゴンと鈍い音がする。
「大丈夫か?」
「…はい(穴があったら入りたい!)」
マーガレットは後頭部をさすりつつ、赤面しながら俯いて返事をした。
そんなことがありつつ、馬車は目的地の集落に到着した。
アーサーのエスコートでマーガレットが馬車を降りると、冷たく乾いた風が髪を揺らし、思わず声が漏れた。
「寒っ~」
流石のアーサーもコートを羽織り、手袋を着けている。
すると、1人の男性が近づいてきた。
「閣下、マーガレット様、お待ちしてました」
そう声をかけてきたのは、オリヴァーだ。最近、見かけないと思ったら、先行してこの集落に来てきたようだ。
「ああ、流石に空気が冷えるな。例のものはできているか?」
「はい、こちらに」
そう言ってオリヴァーが差し出したのは、この集落に住む領民たちの戸籍だった。
(この前頼んだこと、もう準備してくれたんだ)
有言実行をしたアーサーに、マーガレットは頼もしさを感じていた。
3人は戸籍の確認も兼ねて、各家庭を訪ねていった。領民たちは領主直々の訪問に驚き、恐縮していたが、湯たんぽの使い方を説明すると、最後には頭を下げて感謝の言葉を述べた。




