第21話 割れ鍋に綴じ蓋
1週間後、マーガレットはある程度の湯たんぽが完成したと、鍛冶屋スミスから連絡を受けた。
マーガレットはすぐにアーサーの書斎に向かい、報告をする。
「鍛冶屋スミスから、湯たんぽが完成したと連絡がありました。幸い、天気も良いので、これから湯たんぽを受け取りに行き、そのまま北部の集落から順に支給しに行ってまいります。」
「分かった。わたしも同行しよう。領地の様子も確認して、領民たちに何が必要か自分なりに考えたい。」
アーサーの発言に、マーガレットは驚いた。今までの彼は、お世辞にも積極的に領地経営に関わっているとは言えず、最低限の書類仕事以外は騎士団の訓練に逃げて、いや、費やしていた。
もちろん、魔物から辺境領を守ることも重要だが、内政を疎かにして領民たちが生活に困るようなことになれば元も子もない。
驚いて目を見開いているマーガレットに、アーサーは苦笑しながら続けた。
「マーガレットがそんな反応をするのも無理はないな。これまでの私は、模範的な領主とは言えないことは自覚している。でも、ノースフォード辺境領のために力を尽くしているマーガレットを見て、これではダメだと腹をくくった。まだまだ至らないこともあると思うが、これからも支えて欲しい。この通りだ」
そう言うと、アーサーはマーガレットに頭を下げた。
彼は辺境伯だ。マーガレットに対して、特段責められることをしたわけでもないのに頭を下げることはあってはならない。2人きりだから許される行為だった。
「頭を上げてください」
マーガレットは慌てて声をかけた。
「私は、自分の欠点を受け入れて直そうと努力する人を尊敬します。完璧な人など、存在しません。足りないところは、補い合えば良いのです」
マーガレットはアーサーの手を取って微笑んだ。
「遠い東の国に、『割れ鍋に綴じ蓋』という言葉があります。『壊れた鍋にも合う蓋があるように、完璧ではない人同士でもお互いを補い合える良い組み合わせが見つかる』という意味です。私だって、ノースフォード辺境領の全ての問題を解決できる訳ではないですし、アーサー様のように魔物を倒すこともできません。」
それを聞いて、アーサーがふっと笑い、空気が少し緩んだ。
「だから、アーサー様が苦手なところは、私がサポートします。もうすぐ夫婦になるのですから」
自分の発言にも関わらず、マーガレットは顔が熱を持つのが分かった。
「そうだな。夫婦になるのだな」
優しげな表情でそう呟いたアーサーを見て、マーガレットは自分の気持ちを自覚した。
(私は彼が好きなんだ…)
領主として優れているとはいえないが、決して領民たちを蔑ろにしているわけではない。根は真面目なのだ。
何より、他人の声を聞くことができる。これは人の上に立つものとして、重要なことだ。
「そうとなれば、湯たんぽの支給はアーサー様に仕切ってもらいますよ」
「ああ、望むところだ」
2人はそう軽口を言うと、北部の集落に向かうべく部屋を出たのだった。




