第20話 湯たんぽ支給プロジェクト
数日後、一通り湯たんぽを試した3人は、どれが使いやすかったか話し合った。
重さや値段、熱の伝えやすさを考慮した結果、銅が最も適しているという結論になった。
湯たんぽの素材が決まったところで、マーガレットは正式に鍛冶屋スミスに発注をかける。
費用は、今までプロゾン商会から得た収益を充てることにした。
「北部の集落から優先して支給したいわね。世帯数と家族構成が分かる資料がないか、アーサー様に確認しよう」
マーガレットはさっそくアーサーの執務室を訪ね、用件を伝えた。
「各家庭に湯たんぽを支給するのに、それぞれの集落の世帯数と家族構成を知りたいのですが、そのような資料はありますか?」
アーサーは少し考えたあと、棚から1冊の冊子を取り出した。
「毎年、各集落の出生数と死亡者数は集計しているから集落ごとの人数は分かるが、世帯数や家族構成までは把握してないな…」
「…そうですか」
マーガレットが冊子をざっと確認すると、過去5年分の出生数と死亡者数が月毎にまとめられていた。
「今回はこの情報をもとに支給する湯たんぽの数を決めますが、これを機に各集落の世帯数と家族構成を集計することをおすすめします。具体的な人口構成が分かれば、必要な政策も決めやすくなります」
マーガレットの発言に、アーサーは頷いた。
「分かった。オリヴァーに伝えて集計させよう」
「よろしくお願い致します」
マーガレットは自室に戻ると、改めて冊子を見直した。
過去5年分の出生数ということは、ノースフォード辺境領の5歳以下の人口ということだ。
冊子には、全体では約300人、北部の集落では約100人と記されている。
「5歳以下なら、年齢的に家族の誰かと一緒に寝るはずだよね。とりあえず、5歳以下の人数と同じ数を発注すれば、寒さによる幼児の死亡率は減らせるし、家族も一緒に使えるはずだわ」
しかし、短期間で湯たんぽを300個も製造するのは、鍛冶屋スミスの生産能力を超えている。だが、本格的な冬になる前にできるだけ支給しなければ意味がない。
そこで、マーガレットはある考えを思い付いた。
翌日、鍛冶屋スミを訪れたマーガレットは主人に職人たちを集めてもらった。
「お集まりいただき、ありがとうございます。さっそくですが、皆さんに湯たんぽの生産をお願いしたいと思います。納期は1ヶ月後。個数は300個です」
マーガレットの無茶な依頼に、職人たちはざわめいた。あり得ない、これだからお貴族様は、などのささやきがあちこちから聞こえる。
マーガレットがスッと手を上げると、ようやくざわめきが静まった。
マーガレットはにっこりと笑って続けた。
「まずは職人の方々を3つのグループに分けてください。1つ目のグループは朝9時から17時まで、2つ目のグループは17時から夜中の1時まで、3つ目のグループは夜中の1時から9時までというように、8時間ずつ作業をしていただきます。もちろん、働く時間帯によって特別手当を出します。ご主人、いかがですか?」
マーガレットが問いかけると、主人は少し考えて頷いた。
「工房は24時間体制で稼働できるが、職人に長時間労働させる訳ではなく、理にかなっています。それで行きましょう」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
これで本格的な冬を向かえる前に子供たちに湯たんぽを支給できると、マーガレットはほっと胸を撫で下ろして鍛冶屋を後にした。




