第18話 パンがあっても、じゃがいもを食べればいいじゃない
数ヶ月後、マーガレットはノースフォード辺境領に来て始めての冬を迎えた。
そして同時に、マーガレット肝いりのじゃがいもが収穫の時期を迎えた。
城には、南部の村からぞくぞくとじゃがいもが届けられる。
(じゃがいもといえば、じゃがバターとポテトチップスだよね!)
さっそくマーガレットは厨房を借りて、料理を始めた。
よく洗ったじゃがいもを適当な大きさに切り、蒸していく。その間に、牛乳と塩が入った器を氷で冷やしながらヘラでとにかく混ぜる。
しばらくすると、ヘラに完成したバターが付いた。
残ったじゃがいもは薄切りにし、たっぷりの油で揚げる。
揚がって塩を振ったら、ポテトチップスの完成だ。
スライサーがないので包丁で切るしかなく、前世より厚みがあって食べごたえがあるポテトチップスになった。
「みんな、食べてみて」
マーガレットは完成したじゃがバターとポテトチップスを使用人に振る舞った。
「じゃがいもとバターがよく合います!」
「ポテトチップスの食感がたまりません!手が止まらなくなります!」
使用人たちから好評だったことにほっとしたマーガレットは、アーサー自らに手軽に食べられるポテトチップスを差し入れることにした。
マーガレットが執務室を訪ねると、アーサーは難しい顔で書類を処理をしていた。
アーサーが事務仕事より騎士団で身体を使うことの方が向いているとはいえ、辺境領の領主である以上は事務仕事は避けては通れない。
「アーサー様、差し入れをお持ちしました」
マーガレットが声を掛けると、アーサーの表情が和らいだ。
そのギャップに、マーガレットはドキッとする。
「ありがとう、マーガレット。初めて見る料理だね」
「収穫されたじゃがいもを使ったポテトチップスというものです。片手で食べられるので、お仕事の間にも食べられます」
マーガレットが説明すると、アーサーはさっそくポテトチップスを口にする。
「塩加減がちょうどいいな」
アーサーの口にも合ったようで、マーガレットは再び胸を撫で下ろした。
「じゃがいもは寒さに強く、常温で3ヶ月ほど保存が可能です。日光に当たると緑色に変色して毒ができるので注意が必要ですが、不作の時の作物に適していると思います」
マーガレットが説明している間もアーサーの手は止まらず、あっという間に皿は空になった。
指に付いた塩をペロリと舐める仕草も無駄に色っぽい。
「美味かった。これも商品化するのか?」
何気ないアーサーの質問に、マーガレットははっとした。
「このお菓子は湿気に弱いので、保存が難しいのです。でも、商品化すればじゃがいもの作付けも進むし、収入も増える…。ありがとうございます、考えてみます!」
マーガレットは自室に戻り、ペゾス宛に手紙をしたためた。
数日後、やって来たペゾスにマーガレットはポテトチップスを試食してもらう。
「こりゃ止まらなくなりそうだ。ぜひ売り出しましょう!」
「でも、このお菓子は湿気に弱いので、紙袋に入れて口を折りたためるようにして販売するのはどうでしょうか」
「なるほど…」
前世のように密閉した袋に入れて販売できれば良いが、この世界では技術的に難しい。
そこでマーガレットが参考にしたのは、映画館で売られている持ち帰り用のポップコーンだ。
紙袋に入れて口を閉じれば、湿気るのを遅らせることができる。
その後、2人はバッグと同じ条件で契約を結んだのだった。




