第17話 アーサー、倒れる
ペゾスとの面会から1週間後の昼過ぎ、ようやくアーサーが戻ってきた。
「マーガレット様、旦那様がお戻りになられました」
セバスチャンの報告を受けて、マーガレットは玄関に出迎えにいった。
「お帰りなさいませ」
久しぶりに見るアーサーは、やつれて顔色が悪かった。
騎士団と共に、寝る間も惜しんで救助活動をしていたのだろう。
「ああ。悪いが、入浴と食事をしたら少し休ませてもらう」
「はい、もちろんです。お疲れ様でした」
マーガレットは厨房に消化に良い食事の用意と、メイドにアーサーの部屋にリラックス効果のある香を焚くように指示を出した。
翌朝、マーガレットがいつものように朝食を食べに食堂に行くと、アーサーの姿がなかった。
マーガレットがノースフォード辺境領に来てから、朝食はアーサーと食べるのが習慣になっている。
普段は既にアーサーが席に座っていて、新聞や書類を読んで待っているのだが、今日は遅れているようだ。
しばらく待ったが、アーサーが来る様子はない。
(お疲れだから、まだ寝ていらっしゃるのかも。せっかくの食事が冷めてしまうから、先にいただこう)
そう考えたマーガレットは、先に朝食を済ませることにした。
朝食のあと、マーガレットはアーサーの部屋を訪ねた。
ノックしたが、返事がない。
「失礼します」
恐る恐る部屋に入ると、アーサーはまだベッドに横たわっていた。
マーガレットが近づくと、アーサーは顔が赤く、呼吸が速かった。
「…アーサー様、大丈夫ですか!?」
マーガレットが驚いて額に手に当てると、驚くほど熱かった。
「誰か、医師を呼んでください!早く!」
マーガレットが叫ぶと、メイドが慌ててやってきて、部屋の中を見るなり医師を呼ぶためにすぐに出ていった。
「過労による発熱でしょう。しっかり睡眠と栄養を摂れば良くなりますよ。しばらくは安静にしてください」
「そうですか。ありがとうございます」
やって来た医師の診断に、マーガレットは胸を撫で下ろした。
アーサーが倒れるのも無理はない。王都からノースフォード辺境領に戻ってきてすぐに災害現場での救助活動に参加し、休む暇もなく活動していたのだ。
いくら騎士団で普段から鍛えているアーサーであっても、体力の限界を越えたのだろう。
マーガレットはアーサーに視線を向ける。
薬が効いているのだろう。今は呼吸が落ち着き、ぐっすりと眠っている。
その晩、マーガレットはアーサーの部屋に泊まり込み、冷えたタオルを交換したり、汗をぬぐったり看病したのだった。
「…レット、マーガレット」
翌朝、マーガレットは自分を呼ぶ声で目を覚ました。
どうやら、アーサーを看病したまま寝てしまったらしい。
マーガレットが声をした方を向くと、アーサーがベッドの上で上半身を起こしてこちらを見ていた。
まだ目の下にくまが残っているが、顔色はだいぶ良くなっていた。
「アーサー様、お気づきになられましたか」
「ああ、私はいったい…」
「アーサー様は過労でお倒れになられたのです。医師からは、しばらく安静にするように言われております」
「そうか、迷惑をかけたな」
「いえ、とんでもございません!」
そのタイミングで、アーサーのお腹が盛大になった。
アーサーが顔を赤くしてうつむく。
「とりあえず、消化に良い食事を持ってきますね!」
マーガレットは逃げるように部屋を出た。
その後、数日ベッドの上で過ごしたアーサーは、持ち前の体力もあってみるみる回復し、5日後には騎士団の訓練に復帰したのだった。




