第14話 波乱の婚約パーティー
いよいよパーティー当日を迎えた。
「お待たせいたしました」
支度を済ませたマーガレットはエントランスに向かった。もちろん、胸元にはアーサーから贈られたペンダントが光っている。
エントランスでは、既にアーサーが待っていた。
「問題ない…っつ…」
マーガレットを見たアーサーは目を見開いた。
「綺麗だよ、マーガレット」
アーサーは恭しくそう言うと、マーガレットの手にそっとキスをした。
そんなアーサーの仕草に、マーガレットはドキッとする。
「ありがとうございます。アーサー様も素敵です」
「君には敵わないよ。行こうか」
アーサーのエスコートで、マーガレットは乗り込んだ。
王都の大通りを進み、2人を乗せた馬車が王城に到着した。
数カ月前まで毎日のように王城に通い、皇太子妃教育を受けていたのが、今となっては随分昔のようにに思われる。
国王陛下の挨拶が終われば、パーティーの参加者たちが思い思いに雑談する時間になる。
王都に滅多に来ないアーサーは、この機に縁を結びたい貴族たちがひっきりなしに挨拶をしにきており、その対応に追われている。
マーガレットは目立たないように会場の隅でグラスを手に時間を持て余していた。
「…あの方が以前エドワード殿下と婚約を…」
「…大人しそうな顔をしていらっしゃるのに、どうして…」
貴族たちの好奇に満ちた視線や、自身についての根も葉もない噂に嫌気が差したマーガレットがこっそり会場を出ようとすると、運悪くエドワードに呼び止められた。側にはエミリーが勝ち誇ったような表情でマーガレットを見ていた。
「久しいな、マーガレット」
「…ご無沙汰しております、エドワード皇太子殿下」
腐っても相手は皇太子殿下とその婚約者だ。マーガレットは失礼にならないように淑女の礼をする。
「そんなに堅苦しくする必要はないぞ。そなたが婚約解消を申し出たときは心底がっかりしたものだ。」
その言葉とは裏腹に、エドワードは満面の笑みを浮かべていた。
「しかし、そのおかげで愛するエミリーを婚約者に迎えることができた。感謝している」
エドワードはエミリーの肩を抱き寄せてのたまった
「…はい」
マーガレットはやっとのことで答えた。唇を噛み締めて何とか冷静な表情を保つ。
そのときだった。
「こちらこそお礼を言いたいですな」
マーガレットの耳に、聞き慣れたバリトン声が届いた。
いつの間にか、アーサーがマーガレットの側に立ち、笑みを浮かべていた。
「王家が婚約解消を承認していただいたおかげで、私は最高の相手を婚約者にすることができました」
「…何っ!?」
「彼女は我がノースフォード領に来て早々、的確な指示で魔物にやられた騎士団たちの手当てをしてくれました。そのおかげで、多くの者が命を救われました。また、先日は新たな事業の立ち上げに成功し、これから我が領はますます豊かになるでしょう。彼女は我が領にもたらされた聖女だといっても過言ではありません」
そう言い終わると、アーサーは表情をガラリと厳しいものに変えた。あまりの変化に、マーガレットでさえビクッとなる。
「それと、彼女は私の婚約者です。名前で呼ぶのはお控えくださいますよう、お願い申し上げます」
「…そうか。レスター侯爵令嬢、これからも息災でな」
エドワードは苦虫を噛み潰したような顔をして、そそくさとその場を後にした。
「アーサー様、ありがとうございます」
「本当のことを言ったまでだ。殿下のあの表情を見て、スカッとしたわ」
アーサーの得意げな笑顔を見て、マーガレットは自分の鼓動がやけにはっきりと聞こえたのだった。




