第13話 初めてのデートとアーサーの過去
王都に到着した翌日。
朝食を終えたマーガレットが久しぶりに実家の部屋で読書をしてくつろいでいると、不意にドアをノックする音がした。
アンがドアを開けると、アーサーが立っていた。
「マーガレット嬢、突然すまない。今日は何か予定はあるか?」
「いえ、特にございません」
マーガレットが答えると、アーサーは少し緊張した面持ちで言った。
「なら、一緒に街に出掛けるから、準備するように。侯爵の許可は取ってある」
そう告げると、マーガレットの返事を聞かずに足早に去っていった。
呆然とするマーガレットに、アンが声をかける。
「良かったですね、お嬢様!アーサー様と初めてのデートですよ!気合い入れて準備しましょう!」
マーガレットよりテンションが高いのは、気のせいだろうか。
(これってやっぱりそういうことよね!?)
鏡の前でアンに化粧をしてもらいながら、マーガレットは緊張しながらも浮き足立つ気持ちが抑えられなかった。
「さすがに王都は賑やかだな。以前来たときより発展している」
休憩がてらに入ったカフェで、紅茶を飲みながらアーサーが呟いた。
「王都に来たことがあるのですか?」
マーガレットは驚きながら聞き返した。ノースフォード領と王都は馬車で約5日かかるため、気軽に来れる距離ではない。
「子供の頃にな。父が王都に用事があると、社会勉強だといって連れてこられた。行き帰りの馬車は退屈でつまらなかったが、今となっては良い思い出だ」
アーサーは懐かしそうに目を細めている。
そのとき、マーガレットははたと気づいた。
「…そういえば、アーサー様のご両親は今どちらに?」
「ああ、言ってなかったな。母は物心つく前に病で亡くなっている。父は5年前に大規模な魔物の侵攻があった際に、戦いで亡くなった」
5年前にノースフォード辺境領が魔物の大規模な侵攻を受け、甚大な被害があったのは知っている。しかし、王都暮らしのマーガレットにとっては、遠い地での悲劇であり、他人事に過ぎなかった。
「…そうだったのですね。知らなかったとはいえ、申し訳ございません」
「気にするな」
アーサーは笑ってそう言ったが、気まずい沈黙がおりる。
その後、気分を変えようと2人は豪奢な装飾品店や若者に人気のスイーツの店などを巡り、帰路に着いた。
屋敷に戻る馬車の中で、アーサーがジャケットの内ポケットから箱を出し、マーガレットに渡した。
「マーガレット嬢、明日のパーティーでこれをつけてくれないか」
マーガレットが差し出された箱を開けると、中には見事なペンダントが納められていた。
ペンダントには、アーサーの瞳と同じサファイアの宝石がちりばめられており、一目で一級品だと分かる。
「今日、街に出掛けたときにこっそり買ったんだ。明日のパーティーで嫌なことがあるかもしれない。そのときはこのペンダントを私の代わりだと思って欲しい。もちろん、私のポケットマネーで買ったから、辺境領の予算は心配しなくていい」
慌てて弁明するアーサーに、マーガレットは可笑しくなってくすりと笑った。
「ありがとうございます、アーサー様。」
アーサーの優しさに、マーガレットは胸がいっぱいになった。
「あと、これからはマーガレットと呼んでいいか?」
アーサーが恐る恐る聞くと、マーガレットは少し顔を赤くしてうなずいた。




