ツギハギの男⑥
女性達はそれぞれ綺麗なワンピースを着用している。 男性陣が女性達をエスコートして席に座らせた。
そして、貴族と暴走族の合コンが始まってしまった。
「では…まずは自己紹介をしよう。 俺はヴィクター、普段は魔導技師の弟子をしている。 今日はよろしく」
「僕はダイゼル! え〜…」
ダイゼルは笑顔を保ったままヴィクターに「どう言えばいい?」と小いさな声で問う。
ヴィクターも同じように「学生だとでも言えばいいだろう、べつにそれ自体は嘘ではないからな」と小声で答えた。
「が、学生をしている! 今日は来てくれて本当にありがとう、僕にとって最高に素敵な1日だ!」
中等部卒のヴィクターと違い、ダイゼル達は帝国大学付属の高等学校に通っている。
学費が高く、貴族が通う事で有名な学校だ。 少年達はそれを悟られないように素性を隠して自己紹介をしていった。
そして女性陣の自己紹介が始まると、女性の1人が自己紹介をする前に質問を投げかけてきた。
「今日は誘ってくれてありがとう。 こんな高そうなレストランに来るのは初めてで、本当は騙されてるんじゃないかと内心ヒヤヒヤしてたよ。 …それで相談なんだけど、私達あまり借しを作るのは好きじゃなくてね、割り勘で払いたいんだけど、あまりお金が無くて…。 その…高いんじゃないかい? ここ…」
ダイゼルがヴィクターに肘をぶつけて合図する。
「ヴィクターどうしたらいい、気を遣わせてしまったぞ」
と小さな声で問うて来た。 ヴィクターは仕方なしにと、それっぽい言い訳を考えて答えた。
「あ〜… 心配はいらないよ、ダイゼルが割引券を大量に手に入れたらしいからね。 女性は無料みたいなものだ、気にすることはないよ」
女性達はホッと胸を撫で下ろした。
「そうかい? それなら良かったよ。 私はスザンナ、いつもはルクスリム・スタンドでアルバイトしてるんだ。 よろしくね」
ヴィクターは女性の言う言葉に少し戸惑っていた。 最初は暴走族をしているという女性に警戒していたのだが、話を聞いていると、どの子も普通で驚いた。
「アタシはスカーレット、普段はパン屋でアルバイトをしてるよ。 今度気が向いたら来ておくれ、安くは出来ないけどね。 ふふっ」
と最後の女性が自己紹介をするのを見て、ヴィクターは何やらその女性の目線が気になった。
チラチラとこっちを見ては何か言いたげにしているからだ。
さらに不思議な事に、どこかで見たような気もしてきた。
「えっと、どこかでお会いしたかな?」
ヴィクターが質問すると同時に思い出す。
先日バックを引ったくられた女性であると。
どうりで見覚えがあるわけだ。
「この間、泥棒からアタシのバックを取り返してくれた人じゃないかい? 違ってたらごめんだけど」
「あ〜! やっぱりあの時の! 少し様変わりしたから分からなかったよ、思いがけない巡り合わせだ。 どうやら世間は狭いらしい」
「ふふふっ 変な言い回しだね」
その後は、食事が届いて皆で会話を楽しみ、貴族の息子達はそれぞれ意中の女性に気に入られようと紳士的に振る舞う。
ヴィクターはというと、偶然の出会いが重なった事もあり、スカーレットと意気投合していった。
「アタシの魔導モービル、最近調子が悪くてね、古い型だからパーツが無いんだよ。 探してはいるんだけどね」
「それならヴィクターに見てもらうと良い。 その手の事なら詳しいからね。 それに、ヴィクターの祖父は凄いぞ!なんたって博士号を持つ魔導技師だからな!」
ダイゼルは身を乗り出し、ヴィクターの素性を隠す必要が無いので大々的に個人情報を流出させた。
「たしかに、お爺ちゃんならなんとか出来そうではあるな。 今度うちに持って来ると良い。 俺がお爺ちゃんに頼んでみるよ」
「本当かい!? ぜひお願いするよ!」
初めての合コンで、ヴィクターは貴族の息子達を気にかけるのをすっかり忘れてしまっていた。
それほどスカーレットとの出会いは、ヴィクターにとって楽しいものであった。
度重なる偶然の引合せ、こうしてただ話をする関係、しかも機械に詳しい女性に、ヴィクターは初めて出会ったのだ。
運命という言葉が安っぽく聴こえるほど、形容しがたい出会いと心情。 ヴィクターはこれが初恋であると、家に帰ってから気が付いた。
そして、後日。
ヴィクターの家に甲高い蒸気音を奏でながらスカーレットが魔導モービルに乗ってやって来た。
それを窓から見ていたヴィクターは、パアっと笑顔を見せて陽気に家から飛び出した。
「やあ!久しぶり! 今お茶を出そう、上がってくれ」
しかしスカーレットの表情が険しい、何やら怒っている様子である。
「ん? どうした? 具合でも悪いのか?」
「アンタら…やっぱりアタシ達を騙してたね… やってくれるじゃないか。 覚悟は出来てるんだろうね?」
「え? それはどういう…。 まさか!」
ヴィクターはハッとした。 ダイゼル達の素性がバレたに違いないからだ。 庶民からすれば、貴族が面白がって近づいて来たと思われても仕方がない事だ。
「アタシ達はね、貴族様のお遊びの道具じゃないんだよ。 ナメてんじゃないよ!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! これには深い事情があるんだ! 話だけでも聞いてくれ!」
スカーレットは魔導モービルから降りてヴィクターに近づき、大きく拳を振りかぶってヴィクターの顔面を殴りつけた。 ヴィクターは後ろに倒れ、スカーレットを見つめた。
「ふんっ! 二度とアタシ達に近づくんじゃないよ! 今度近づいたら!その綺麗な顔面をグチャグチャにしてやるからね!」
ヴィクターはその場に倒れ込んだまま、ただただ魔導モービルのテールランプを見つめる事しか出来なかった。
あまりにも早すぎる失恋、その失意に耐えられそうもなく、ヴィクターは殴られた顔を抑えながら、この世の終わりかと思うほどの表情で、フラフラと家の中へと帰って行った。
読んで頂き感謝です( *・ω・)
そんなあなたの今日の運勢は末吉です( *・ω・)




