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ツギハギの男③


 ツギハギの男が剣で足を刺され、ゴブリンの群れに襲われている最中、男はその恐怖の中で思考を巡らせていた。


 怖い… 痛い…


 いや…手足の感覚が無くなってモヤモヤする…


 どうしたのかな… 自分の身体を感じない…


 何で… 俺が… こんな…


 仲間に刺されて… あんなに…必死に… お願いして…


 やっと見習いになれたのに…


 始めての討伐で… こんなことって…


 身体中が…熱い…


 ビリビリと肉を裂かれるような音がする…


 引きずられてるのか… 力が抜ける…


 息が出来ない… 生臭い鉄の匂いと…変な味がする…


 耳が…聞こえない… 口の中が…ジャリジャリする…


 俺… ごめん… ごめんね… お爺ちゃん… 



 ゴブリン達に身体を弄ばれ、薄れゆく意識の中で、過去の記憶が蘇る。


 大陸の北の外れにある大森林、ここにヴァンパイア達の国がある。


 その『ヴォルダーク帝国』に、一人の美しい少年が居た。


 彼の名はヴィクター・アルダナリア 15歳。


 幼い頃に両親を亡くし、今は母方の祖父に育てられている。


 透き通るような白い肌、サラリとした黒髪、燃えるような赤い瞳。 容姿端麗でスポーツ万能、さらには聡明であり、他のヴァンパイア達からも人気があった。


 ある日、ヴィクターが街の公園でバイオリンの練習をしていると、1人の少女が話しかけてきた。


 少女はモジモジとして、顔を赤らめていたが、意を決したような表情を見せると、ヴィクターに向かって言葉を発した。


「あのっ…その…! 好きです!付き合ってください!」


 頭を深々と下げ、右手を突き出す少女の、その気合いの入りように、鳩達が驚いて一斉に羽ばたく。


「…?? お、俺と!?」


「はい! どっ!どうでしょう!」


 少女は姿勢を崩す事なく、サッと顔を上げて真っ直ぐヴィクターの目を見て鼻息荒く問う。


「どうと言われても…君の名前も知らないし…。 えっと…。友達じゃ…ダメかな?」


「ダメです!」



「即答ッ!?」


 こんな事は日常茶飯事で、ある界隈ではヴィクターの事を初恋泥棒と呼ぶほどであった。


 女性からの告白を丁重にお断りする毎日、その習慣のせいか、いつしかヴィクターは恋という物に興味を示さなくなっていた。


 日課であるバイオリンの練習が終わり、ヴィクターはバイオリンケースを担いで帰路につく。


 街の皆が、ヴィクターを見かけると手を振ったり、お辞儀をしたり、握手を求めたり、手紙を渡したりしている。


 貴族ならいざ知らず、ヴィクターは一般庶民。

 階級を重んじるヴァンパイアには珍しい光景である。


 そうこうしていると、丘の上にポツンと建ったトンガリ屋根の家が見えてきた。

 それはヴィクターと祖父が2人で暮らしている家である。


 その自宅から、黒服の男が2人出てきて、祖父が見送りをしているのが見えた。


「アルダナリア技師、では後ほど」

「ん、わかっとる」


 黒服の男達は魔導モービルに乗り、どこかへと消えて行った。


「お爺ちゃんただいま。 今の誰? 人間に見えたけど」


「おおヴィクター、おかえり。 アレは『アウレオラ組合』の連中じゃ。 またレア個体が見つかったらしくてな、今ソレを送り付けて来よった所じゃ。 これでまた2〜3日眠れんくなったわい」


 祖父の名はジョセフ・アルダナリア


 魔導科学の権威でもあり、アウレオラ組合からオートマタのサンプルを引き取っては、自宅の研究室で技術研究を行っていた。


 オートマタを分解し、その性能や能力、機能停止方法などを探り『魔導科学研究機関・アウレオラ』に報告する仕事だ。


「ふ~ん、アレが『アウレオラ組合』か。 初めて見たよ。 最近多いね。 ついこの前『レッドオーガ』が送られて来たばっかりじゃない。 レア個体ってそんな何度も発見される物なの?」


「いいや異常じゃよ。 この先レアで無くなるかも知れんと危惧されとる所じゃ。 悪いが…また手伝ってくれんか?」



「うん、いいよ。 ちゃんと寝てもらわないと困るしね。 でもオートマタの研究をすればするほど謎が増えていくね。 形状も合理的とは思えないし、生息地を限定しているのも変だ」


「うむ。 ヴィクターお前、オートマタの歴史は知っとるな?」



「え? うん、アレでしょ? 『魔王』ってヤツが地上に送り込んでるっていう」


「そうじゃ『オルビスティア聖団』の教典曰(いわ)く、遥か昔の話…」



 約1万年も前の事、この世界には魔族と人間が暮らしていた。


 魔族は優れた魔導技術を有していたが、人間が扱える魔導は、小さな火を出したり、水を浄化したりと、私生活に役立つ程度のもの。


 長寿であり圧倒的なまでの魔粒子を持つ魔族に、人間は怯えながら暮らしていた。 


 そんな中、各地で魔族が人間を襲い始めた。


 人々は恐怖し『女神オルビスティア』に救いを求めた。


 しかし期待も虚しく、事態は悪化する。


 突如として、魔族の王『魔王イドラ』がオートマタを引き連れて現れた。


 オートマタは、人間を次々と襲い出した。


 そんな中、女神を信仰する宗教『オルビスティア聖団』が『攻撃魔法』と『防御魔法』を独自開発し、それを記した『魔導書』を各国に提供したのだ。


 その魔導書のお陰で、バラバラだった国同士が魔族に対抗すべく結束し、『オルビスティア連邦』が樹立、人間は魔導科学を発展させながらオートマタと戦い、人間と魔族とのパワーバランスは拮抗していった。


 それから数十年が経ち、女神の加護を持つ『勇者』が現れ、魔王に立ち向かった。


 そして、その加護の力によって勇者は魔王に勝利したのだ。


 これにより、全てのオートマタは停止、魔族達は『魔界』と呼ばれる未開の地へ逃げ込み、人々に平和が訪れた。


 その後、魔導科学が発展して、人々の暮らしは豊かになっていった。


 しかし、今から約1250年前、隕石の飛来と共に、再び魔王イドラが復活し、停止していたオートマタが再起動して人間を襲いだした。


 オルビスティア連邦は『魔導科学研究機関・アウレオラ』を設立し、いつか現れるであろう『女神の加護を持った勇者』のサポートをするために、オートマタの研究を始めた。


 オートマタには懸賞金がかけられ、アウレオラは賞金目当ての人々に『ライセンス』を発行して、オートマタの捕獲と討伐を任せた。


 そしてハンターと呼ばれる賞金稼ぎが増え、オートマタとの戦いは激化していった。


「とまぁ…こういう筋書きじゃ。 何か思う所はないか?」


「え? 何かって…なんだろう?」



「オートマタの数じゃ。 今まで何体のオートマタが討伐されたと思う? 数十万かそれ以上じゃ。 年々その数が増え、新種まで現れる始末。 魔王はどこからオートマタの材料を得とるんじゃ?」


「そりゃわかんないよ。 だって…そういうものでしょ? わからないから研究してるんだし。 それに、それを言い出したら『魔族の王』とか『魔界』って何?って話だし、情報も無くただ漠然と考えるのは無駄な事だよ」



「んん…それもそうじゃな… 研究を進めて、一刻も早く出どころを突き止め、この負の連鎖を終わらせたい所じゃ。 被害も多くなって来とるようじゃしな。 しかし…これまた厄介な物を持って来おったぞ…」


「厄介な物って?」



「見せてやろう、ついて来い。 腰を抜かすでないぞ?」


 家の奥にある研究室に、オートマタのレア個体『四足変形オーク』が横たわっていた。


「これって…四足オーク! ってことはオリハルコン!? 凄い!本物だよ! 始めて見た! って…何が厄介なの?」


「厄介なのは、この材質の加工方法じゃ。 どんなに高温の熱を浴びせても溶けず、傷すら付かん素材じゃぞ? ハンター共のオリハルコン対策も中々なものじゃがな。 御伽噺の魔王がこんな高度な加工技術を持っとる方が脅威とは思わんか? だからワシは、生態調査や技術研究よりも、まずは加工方法を探るべきじゃと提案したんじゃ。 しかし…アウレオラ組合はそれを拒否しおった…」



「まぁ、お爺ちゃんの仕事は技術研究だし。 加工方法はまた別の誰かがやるんじゃない? 鍛冶屋さんとかさ」


「ん〜…だと良いんじゃがのぉ…。 まぁ、言ってても仕方ない、考えるのは止めじゃ! バラすから手伝え! どうせ傷も付かん材質じゃからな! ドカ〜ンと1発!起爆ハンマーでブッ叩こうかのお!」



「アハハハ それちょっとやってみたいけど、ダメだよお爺ちゃん、手順通りやらないと」


「カハハハ! な〜にを言うとる! 面白くなきゃやってられんわい! 起爆ハンマー持って来〜い!」



「アハハハ まったくしょうがないな〜 1回だけね。 アハハハ」



読んで頂き感謝です( *・ω・)

そんなあなたの今日の運勢は中吉です( *・ω・)


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