ゴブリンの群れ①
2時間前。
グリムザール領地の森林内で、4人の若者が森の奥へと進んでいた。
その中で1人、やけに大きな荷物を4つ背負い、汗だくになりながら3人の後ろを遅れて歩く者が居た。
丸く赤黒いサングラスをかけ、口元を白い三角巾で隠し、身体中ツギハギだらけの太った男。
「おら!早くついて来いや!ツギハギデブ!」
「ホント使えねぇなぁコイツ。 なぁ、やっぱクビにしようぜ」
「マジ最悪〜」
「ハァ…ハァ…すみません」
他の男2人と女1人は剣や杖を持って先を歩き、たまに後ろを振り向いては嫌味を吐く。
森を進むと、1つの洞窟を発見して歩みを止めた。
「なぁ、ここらじゃなかったか?」
「ん〜、貰ったゴブリンの情報からするとここなんだけどな」
「ホント〜? ガセだったんじゃないの〜?」
「ハァハァ… ちょ…待って…」
「この奥かも知んねぇ、行ってみるか?」
「洞窟に入るのか…?たしかにそれっぽいが…。 おいデブ!もっと早く歩けよ!」
「え〜あたし洞窟入りたくな〜い う〜わ…汗だくキモっ」
「だって…ハァハァ… 荷物が…重くて…ハァハァ…」
「ああ? てめぇが仲間に入れてくれって言うから連れて来てやってんだろうが! 感謝だけしてろや!」
「口の利き方に気をつけろ!文句言ってっとブチ殺すぞデブ!」
「てか死んでくんな〜い?」
「くっ…! す、すみません…!」
「あ!そうだ。 お前さ、荷物置いてって良いから洞窟ん中入って見てこいよ」
「お〜!それいいな! ナイス判断」
「それ賛成〜 お茶にしよ〜」
「そ、そんな…! 俺…ライセンス持って無いんだけど…」
「うるせぇな!いいから入れってんだよ!」
「こっそり行って見つけたら帰ってこい。 いいか?余計な事すんなよ?」
「いってら〜」
ツギハギの男は言われるがまま、洞窟へと入って行った。
洞窟の中は涼しく、土と湿気が混ざったような匂いがする、目の前は真っ暗で、進むにつれて足元が泥濘んでいく。
道が分かれて入り組んでいたが、来た道を忘れまいと小型のビーコンを置きながら進む。
「怖い…ライセンスのためとはいえ、なんで俺がこんな…」
しばらく進むと、奥の方から金属の擦れる音が聞こえてくる。
男は壁に張り付いてそっと奥を覗いた、すると子供ほどの大きさのロボットを発見した。
『ゴブリン』
危険度D
1.3m 人型
素材:ミスリル
素早い機動力、暗視機能を内蔵、演算能力が低い
通常は数十匹の群れで行動するが、あまり賢くないので連携をとらない
機能停止:首を切り落とす、または頸動脈辺りにある配線を切断する
「…ッッ!! (オートマタだ…! ホントに居た…!)」
男は片手で自分の口を塞ぎ、出したい悲鳴を堪え、来た道を震えながら戻ろうと振り返った。
(お、落ち着け…。 大丈夫、ゆっくり戻ってゴブリンが居た事を報告するんだ…。余計な事は考えるな…。 ゆっくり、音を出さないように…)
すると、洞窟の壁に飛び出していた岩に、靴紐が引っかかり、盛大に転んでしまった。
「わあっ! イッテテテ… ハッ! まずい!」
洞窟の奥に居たゴブリン達が一斉に振り向き、音のした方へと走り出した。
男はパニックになって形振り構わず悲鳴を上げながら走り出した。
入り組んだ道を目印頼りに戻る、涙を浮かべ、何度も転び、手足をバタバタと動かし出口を目指す。
そんな男の背後にゴブリン達の赤い眼光が鈍く輝き、男に襲いかかる。
鋭い爪で衣服を引っ掻き、足にしがみついては振りほどかれ、ガシャガシャと追いかけ回す。
「うわァァァアアア!!」
という男の声が洞窟の外にいた3人にも伝わった。
「おいおい!あのツギハギデブ!!何しやがった!」
「まずいぞ!群れだったらシャレにならない!」
「わかってんだったら逃げようよ!早く!」
時すでに遅し、3人が逃げの体勢になった直後、洞窟の中から男とゴブリンの群れが飛び出して来た。
全員で荷物を捨てて全力で走る。
「てめぇ!やってくれたな!マジふざけんなよ!」
「クソっ! 後でぶっ飛ばす!」
「いやァァァ!!」
「ご、ごめんなさい!!」
息を切らしながら必死で森を抜けると、後ろにゴブリン達が居ない事に気付く。
「お、おい! ハァハァ…ゴブリンいねぇぞ…!」
「ハァハァ…ほ、本当だ!…良かったぁ〜」
「ヒィ〜…死ぬかと思った…」
「あ~クソっ! おい!ツギハギデブ! どうなるかわかってんだろうなぁ!?」
「死刑だよお前! ふざけんな! 荷物どうすんだよ!」
「ちょっと! そんなんいいから離れようよ! まだ追って来るかもだし!」
4人は森から離れる事を選択し、疲れた足を動かして歩く。
後ろを歩くツギハギの男に嫌味を言いながら、街道を目指してひたすら歩く。
森から200mほど離れると、先頭を歩いていた剣士の男の頭に石がぶつかった。
苦悶の表情を浮かべ、両手で頭を擦りながら振り向き、ツギハギの男の胸ぐらを掴んで睨みを利かす。
「痛ぇな! なにすんだデブ!」
「え? お、俺は何も…」
「お前じゃなかったら誰だってんだよ!ああ!?」
「おい見ろ! アレってまさか…!」
「嘘でしょ!ヤバいって! マジなんなの!?」
振り返るとそこには、石を両手いっぱいに抱えたゴブリン達と、石斧を持ったゴブリン達が整列していた。
そしてその中で、明らかにサイズの大きなゴブリンがいた。
『ゴブリンキング』
レア個体
危険度A
2m 人型
素材:ミスリル
ゴブリン達の演算を一手に引き受け指示を飛ばす司令塔、ゴブリンの群れに加わる事で群れが軍隊のように連携し、ゴブリンの危険度がBまで跳ね上がる
頭に被っている王冠から電波を送るので、王冠を破壊すれば連携は途切れる
機能停止:首を切り落とす、または頸動脈辺りにある配線を切断する
「嘘だろ…ゴブリンキング!?」
「レア個体!? ヤバいぞ! 逃げろ!走れェェエエ!!」
「いやァァァアアア!!」
4人は血相を変えて再び走り出す。
石斧を持ったゴブリン達が手足をついて走り出し、石を抱えたゴブリン達は4人に目掛けて石を放つ。
明らかに、洞窟に居た時とは動きが変わっている。
降り注ぐ石の雨、左右に膨らみながら追いかけてくるゴブリンの群れに、恐怖しながら疲労困憊で走る4人。
石の雨のせいでうまく走れず、痛みを堪えながらの敗走。
そんな中、剣士の男が何かを閃いた。
「そうだ! はっはは!良いこと思いついたぜ!」
剣士の男が立ち止まり、ツギハギの男の足を剣で突き刺した。
「ぐわァァァ! な!なんでッッ! 痛いッッ!わァァァアアア!!」
「はっはは! こうなったのもお前のせいだからな!」
「ナイス判断!それ最高!」
「囮ってわけね!? やるじゃん!」
ツギハギの男は剣が刺さった足を抱えて転げ回り、その隙に3人は笑顔で逃げる。
負傷したツギハギの男に、追ってきたゴブリン達が飛びかかり、男は切り裂かれ、悲痛な叫び声が辺りに響く。
3人は懸命に走って逃げ延びようとするが、いつの間にか石斧をもったゴブリン達に囲まれ、ついには逃げ場が無い状況になってしまった。
石の雨が逃げる速度を遅くし、それを別働隊が包むように回り込む、まるで計算されていたかのような連携である。
ゴブリンの群れの囲みが徐々に狭まり、後ろの方からゴブリンキングが悠々と近づいてきた。
読んで頂き感謝です( *・ω・)
そんなあなたの今日の運勢は末吉です( *・ω・)




