氷の巨人襲来①
会議室へ入ると、王の他に大勢の大人が難しい顔をして座っている。
なんとも言えない場違い感が胸を締めつける、私はこんな所に居て大丈夫なのか。
私達も席に案内され、そこへ座り、話し合いが始まった。
色んな質問を投げかけられ、その全てにゼイールが簡潔に答えた、私はただただ気まずい。
隣にいるガイザックおじさんが、たまに話しかけてくれたが、もしかするとこの人は相当優しい人なのかも知れない。
議論は防衛の話へと変わり、さらに白熱し始めた。
「エルフが絡んでいるとみて間違いないなかろう。 あのミノタウロスが上空から飛来したと仮定すれば、この場所に来られた事にも説明がつく」
「しかし、だとすると目的は何だ。ミノタウロスを単身で送り込んだ目的が不明だ」
「いや、それよりどうやって乗り込んだかの方が問題だろう。 入って来たという事は、内側から正面ゲートを開けたという事たぞ」
「それでは我が国にスパイが居ると言いたいのか!」
「言うしかあるまいよ、楽観して何が守れる」
「防衛の見直しはするとして、やはり今のままではな…。 地上要塞の稼働を視野に入れねばなるまい。 とりあえずアールヴヘイムに使者を送り、あちら側の言い分を聞いてみなければな」
「待て待て!事を荒立てるな!エルフと戦って勝てるものか!」
「ではどうしろと言うのだ! 貴公が言っているのは『何もせずに殺されろ』と同義ぞ! 巻き込まれる国民の身にもなったらどうだ!」
揉めている場合でもないだろうに、それだけエルフの力が脅威だという事か。
たしかに、あのエーテルフォーマとかいう魔術は厄介だ、呪文の意味もわからないから対処が難しい上に、ただの呪文にしては魔法が複雑過ぎる、一気に3発もの火球を放ったりしていた、明らかに魔法陣の術式を反映している。
「このままではニダヴェーリルが崩壊してしまうのだぞ! 防衛の強化を今すぐにでも進めるべきだ!」
「それにはワシも賛成じゃ、反対する者の考えがわからん」
「いや私はべつに…反対などしておらんぞ…。ただ軽々に軍備を増やすのはどうかと思っておるだけでだな…」
「話にならん!貴公の考えこそが反乱を呼ぶのだ!」
話し合いは進む気配が無く、時間だけが過ぎていく。
一方その頃、ニダヴェーリル正面ゲートでは。
職人達によるゲート制御室の修復が終わろうとしていた。
真っ黒に汚れた職人が制御室から出て来て、道具箱を地面にドサッと置いた。
「よ〜し終わったぁ。 何とか復旧出来たぞ」
「おい!こっち来てくれ!」
「どうした? あぁ…これは可哀想に…」
そこを見てみると、杭のような物で身体を貫かれた憲兵の無惨な姿があった。
その遺体は、身体中の水分が抜かれたかのように干からびていて、その誰もが目を背けたくなる見た目に、職人達は眉をしかめる。
「コイツが抜けねぇんだ、手を貸してくれ」
「よしきた任せろ!」
2人で杭を持って引き抜こうと頑張ったが、地面に突き刺さった杭を抜くことが出来ない。
《生成完了。 散布を開始します》
その杭から声が聞こえると、杭が花のように開き、そこから緑色の霧が出始めた。
「な!なんだこれは!」
「あ、足が動かない!どうなってる!? うわああ!」
その霧に包まれると、そこに居合わせた職人達の身体が徐々に石化し始め、その霧はどんどん勢いを増し、渦を巻くように緑色の霧が都市全体に広がっていく。
その状況は会議室に居たガイランド王他、私達の耳にも入った。 憲兵がいきなりドアを開け、そこに居た者全員に緊張が走る。
「伝令! ニダヴェーリルの都市全体に緑色の霧が発生! それを浴びた者全てが石に変えられました!」
それを聞き、その場の全員が驚愕の表情を見せる中、ゼイールだけが勢いよく立ち上がり、外へと飛び出した。
私達もゼイールの後を追い、城のバルコニーから外の様子を見渡す。
するとそこには、高さ20mほどの青白い巨人が、口から冷気を出しながら家屋をガラガラと踏みしめ、こちらに向かって来ていた。
顔は獣のようで、2本のツノがうねって前を向いている。
「あり得ねぇ…! アレは…魔神!? どうなってやがる!」
「魔神…?」
ゼイールの言葉に驚きながら、その巨人を、ただただ見つめる事しか出来ず、私の思考が停止する。
いつしか巨人は私達の目と鼻の先の所まで来ていた。
巨人の口が大きく開き、口元に冷気が集中し始める。 後ろに仰け反ったかと思えば、大きく息を吸って口から凝縮した冷気を吐き出した。
その放たれた冷気が天井から地面に移動し、私達の居る城を破壊していく。
ガラガラと崩れる天井に押しつぶされ、意識が遠のく感覚。 壊れた城に、地下の天井が降り注ぐ。
都市内に充満した緑色の霧が、壊れた城の中にまで入り込む。
20分ほど前…
杭から発生した緑色の霧が街を包んだ後の事。
復旧した正面ゲートが開き、人の群れがなだれ込んできた。
その先頭に立つ派手な姿の男が、大きな杖を高く振りかざし、口を開いた。
「出て来なさ〜い、氷の魔神『ベルゲルミル』」
すると、その大きな杖の先にジャラリとぶら下がる首飾りに付いた宝石が輝く、そして地面に大きな3重の魔法陣が青く輝いた。
その魔法陣から這い上がるように、地面から青白い巨人が現れた。
「さぁベルちゃ〜ん、あの城を破壊してちょ〜だいな。 残業は無しで頼むよ〜。 はい、急いで急いで〜」
その男の言葉に従うように、巨人は唸り声を上げながら城を目指して歩き出す。
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そんなあなたの今日の運勢は大吉です( *・ω・)




