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聖火祭と、白いミノタウロス⑨


  地下都市ニダヴェーリル正面ゲート。


 正常に作動すれば、厚さ5m・直径200mの円形自動ドアが、真ん中から左右にスライドして開く。


 厳重な管理体制、通常その門は、内側から操作しないと開かないシステムである。


 しかし奇妙な事に、その門が開いた。


 開いたと呼べるほど開いてはいない、人が1人通れるほどの隙間だ。


 遠目からは開いたとすら感じないだろう、しかし門から流れる風音が、その異変を憲兵達に知らせた。


 正面ゲート内側に設けられた制御室から、4人の憲兵が慌てて出て来た。


「何で開いてるんだ? 不具合か?」

「わからん、とりあえず閉めよう」

「配線を見てくる」

「おい待て!誰か居るぞ!」


 その開いたゲートから、異様な人影が侵入して来た。 


「そこ!止まれ!」

「貴様何者だ! どうやって入った!」

「バカな…何だアレは…」

「白い…ミノタウロス?」


 通常ミノタウロスの頭部は黒であるが、憲兵の見つめる先には、頭部が白い牛の姿をした男が立っていた…。


 その白いミノタウロスが、憲兵達を睨みつけた。


 片方の手には斧、もう片方の手には杭のような物を持っている。 その杭は、先が尖った太くて長い六角棒、何かの機械のようにも見える。


 侵入して来た白いミノタウロスは、耳にいくつもの尖ったピアスを付けていた。


 憲兵の1人が剣を構えてミノタウロスに近づくと、ミノタウロスは左手に持った杭のような物で憲兵を殴りつけ、転がった憲兵もろとも杭を地面に突き刺した。


《起動を確認 抽出を開始する》


 その突き刺した杭から声が聴こえる。


「フォルティ・ガ・フラマ・スフェラ…」


 そして左手を前にかざし、呪文のような言葉を発した。 その左手から赤い魔法陣が発生し、そこから火球が射出された。


 その火の玉は真っ直ぐ制御室へ飛んで行き、大きな爆発音を発しながら制御室が破壊され、炎が上がり瓦礫を飛ばす。


 炎の渦が制御室を包み、瓦礫の爆散を抑え、パッと炎が消えた。


「あ、あり得ない…! 魔法陣を空中に描くなど…!」

「そんなバカな!『エルフ』じゃあるまいし!」

「大変だ!至急城へ連絡を!」

 

「ヴォオオオオ!!」


 ミノタウロスは目を赤く輝かせ雄叫びをあげた。


「トリ・フラマ・スフェラ・イ…」


 さらに呪文を唱え、左手を右にスライドさせると、またしても赤い魔法陣が現れ、先ほどとは少し小さな火球を3つ飛ばし、憲兵達を吹き飛ばした…。





 …ミノタウロスは正面ゲートから真っ直ぐ城へと進み、ブリギッド広場の近くまで来ていた。


 ミノタウロスを見た住民達の表情が恐怖の色を隠せぬまま走り出す。 ある者は乗り物を乗り捨て、またある者は子供を抱えて逃げ回る。


 ミノタウロスは逃げる住民を追う事なく悠々と歩き、目の前の魔導モービルを斧で払って破壊した。


 特設ステージに集まった人々が、遠目でミノタウロスを見つけて叫ぶが、この祭りの騒音が、その声を掻き消していた。


 私がソレを発見したのは、たまたま子供が手放した風船を目で追っていた時だった。


 何だアレ、ミノタウロスか?

 この世界にはそういう種族がいるのか。


「どうしたトレイス。なんか見つけたのか?」


「兄様、あの種族は?」


 そう私が指差すと、ゼイールがソレを見て固まった。


「何だ… アレは…」


 ゼイールの顔からは、ただならぬ危機感が伝わって来る。 そこに居合わせた者たち全員が同じ表情をしていた。


「え…? 兄様?」


 ただ呆然と立ち尽くすだけの者たちの中で、いの一番に声を上げたのはゼイールだった。


「デゴイル!グラウ!サラ! 周辺住民の誘導を頼む!城へ逃がせ!」


「了解であります!」

「な、なんすかアレ!」

「バカ!しっかりしな!言う通り動くんだよ!」


 3人は走り出し、住民に避難するように指示を出す。恐怖で動けぬ住民には頬を叩いて言葉をかけた。


 ゼイールは続けて、近くに居た魔導モービルの運転手に指示を出す。


「おい運転手!悪いが今すぐ城へ行ってこの事を報告して来てくれ!」


「へ、へい!」


 魔導モービルが運転速度を気にする事なく猛スピードで城へ向かった。


 ゼイールはそのミノタウロスを見つめながら、震える足を押さえつけて覚悟を決める。


「トレイス…何とかここから住民を逃がして、兵隊が来るまで奴の気を引くぞ」


「え…。な、え? 何が何やら…」


 ゼイールは私の両肩に手を置いて、私の目を真っ直ぐ見て答えた。


「いいかトレイス。 外からこの地下都市に入るには、こちら側から迎え入れる以外の手段は無いんだ。 今日は外からの来客は来ない。 …くそっ! どうやって入った…。 とにかく言える事は、アレは外敵と見て間違いないってことだ!」


「外…敵…?」



 斧を振り回し、家屋を破壊しながらこちらへ歩いて来る。


「ヴォオオオオ!!」


 天を仰いで叫ぶ。


「俺達たも急ごう、住民を避難させるんだ」


「は、はい!」


 特設ステージ周辺の住民達はパニックを起こし逃げ惑う。


 私はゼイールの指示通り声をかけ続けた。


「皆さん!城へ逃げてください! ここは危険です!」


 ダメだ…皆私の言う事を聞かない…。 どうすれば…。


 私は住人達に声を掛けて回った。 しかし誰も聞こうともせず、四方八方に散らばり、逃げ惑う。


 すると、広場の特設ステージの上で、ゼイールがお面を外し、マイクを持って声を上げた。


「聞け! 我名はゼイール・ドヴェルグである! 国民よ! ここは今を持って戦地となる! 城を目指して進め! 憲兵は今すぐ国民を城へ避難させろ! 女子供を優先して逃がせ! 共に戦う者は我に続け!」


 その声を聞いた住民達は驚きと希望の表情をみせた。


「殿下!?」「ゼイール殿下だ!」「おい!言う通りにしよう!」「こっちだ!怪我人に手を貸してくれ!」「よしきた!」「逃げろ!」「殿下の指示に従え!」「急務だ急げ!」


 良かった。 これで被害は少なくて済みそうだ。

 あとは、アレをどうしたものか…。


「トリ・フラマ・スフェラ・イ…」


 ミノタウロスが赤い魔法陣から3つの火球を放ち、特設ステージを破壊する。


 ゼイールが火球を避けながらこちらへ駆け寄って来た。


 何だアレは!? 空中に魔法陣!?

 どうやって出しているんだ?


「兄様!アレは!?」


「そんな…バカな! あり得ないっ!」



「アレを知ってるんですか?」


「アレは…。 『エーテル』っていう『光を伝える媒質』を利用して、より複雑な魔法を作り出す…。『エルフ』の固有魔術…『エーテル・フォーマ』だ」



「エルフの……魔術…?」


 ミノタウロスが不気味に唸り声を上げながらゆっくりとこちらへ向かってくる。



読んで頂き感謝です( *・ω・)

そんなあなたの今日の運勢は末吉です( *・ω・)


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