西暦3265年の秋③
私は目にも止まらぬ速さで移動し、異変に気付いて振り向いたソイツの顔面に拳をブチ当てた。
ソイツが吹っ飛んで壁に激突し、瓦礫とホコリを撒き散らす。
ステュクスに頭部が無いのは研究不足だった、急激なGに意識が飛びそうだ。 しかし、威力は申し分ない。
「おいおい、やっぱ戦うのかよ。 間違ってるぜぇ、その判断」
軽口を叩きながらソイツが壊れた壁の瓦礫から出て来た。
ノーダメージ? まったく効いていないかのような口ぶりだ。
ソイツはスーツに着いたホコリを叩くと、ものすごいスピードで向かって来た。
素人に毛が生えた程度のパンチや蹴りが、こんなにも素早く重い。
私はそれらを叩き落とし、反撃をするが、ソイツは動きを止めない。
速さもパワーも互角か? 動きが読める分、私に勝機があるはずだ。
「そのスーツは危険だな。初めて見るタイプだが…お前だけか?」
そんな質問に答えるわけがないだろ。
何度かソイツを吹っ飛ばして壁に叩きつけたが、少しは効いててほしい所だ。
私は頭部が守られていない分、振動でのダメージが蓄積されている。
何か決定打となるようなダメージを与える術を見つけなくては。
《警告。 エネルギー残量5%》
ベルトからAIの音声が流れる。
嘘だろ? マズい…。 エネルギー消費が早過ぎる、これだけ動いたんだ…そらそうか…。
しかしなんでコイツはエネルギーが尽きないんだ…? どんな構造で動いて…。
「089号おお!!」
父さんの声!?
「父さん!来ちゃダメだ!」
父さんは戦闘員用の武器『射突型起爆斧』を持って、ソイツの後方から走って来る。
父さんは走りながら斧を振りかぶり、間合いに入ると足を力いっぱい地面に踏ん張った。
渾身の力で斧を振り下ろし、ソイツの頭部に斧が当たる瞬間、斧の柄についた引き金を引く。
大きな爆破音と共に、その衝撃が辺りに轟く。
斧から薬莢が勢いよく飛び出し、地面に軽い金属音がこだまする。
「いってぇなぁ…」
しかし、その攻撃はあまり効いておらず、ソイツは不満を漏らすだけだった。
嘘だろ…戦車の装甲をも叩き切る斧だぞ? 『痛い』で済まされてたまるか。 どんな外骨格してんだ。
父さんが近接戦闘の構えを取った瞬間、ソイツの回し蹴りが、父さんの身体を上下真っ二つにしながらグシャリと壁に叩きつけた。
まるで走馬灯を見るかのように、ゆっくりと切断される父を見て、ここが地獄であるかのように錯覚を覚えた。
「父さァァんッ!!」
私はソイツの懐に飛び込んで腕を掴み、背負投げで遠くに飛ばした。
「ああ……。そんな…。 父さん…」
父さんの元に駆け寄ると、父さんはすでに息絶えていた。
最後の言葉さえ聞けず…何も伝える事も出来ず…
私は膝から崩れ落ち、軽くなった父さんの身体を抱き、泣き叫んだ。
「はい、お疲れい」
ッ!?
後ろから聞こえたソイツの声が、私が生涯で最後に耳にした人間の声となった。
蹴られて頭部を失った私は、軽くなった父さんを抱えたまま、その一生を終えた。
《機能停止。 『武装解除』》
読んで頂き感謝です( *・ω・)
そんなあなたの今日の運勢は末吉です( *・ω・)




