聖火祭と、白いミノタウロス⑦
私達は城の1階にあるトイレに集まっていた。
なんでこんな所に来たのか、まだ説明はされていない。
「抜け出して大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ、食事会は長い。 奴らはコネ作りに没頭するからな。 ゴマスリに夢中で何人消えても気付かねぇよ」
なるほど、たしかに。
「それで兄様、いったいどうやって外に出るつもりですか?」
「ふふん。 デゴイル見せてやれ!」
「了解であります!」
デゴイルはトイレの掃除用具入れから何かを取り出した。
雪ダルマのようなハリボテに、ローブを被せて愉快なお面が付いている。
「えっと…兄様。まさかですけど」
「これを着ろ!」
「あ、やっぱり」
この人は天才なのかアホなのか、たまに分からなくなる。
「兄様…。 この奇抜なお面は?」
「火の神ブリギッドの面だ、俺が幼少期に作ったかつての自信作だ」
「新作でお願いしたかった」
私は言われるがままそのハリボテローブを着た。
「おおっ! 似合ってるぞ! さすが俺の弟だ!」
「うむ!これなら目立たないでありますな!」
「くぅ〜ッ!トレイス殿下最高っす!」
「それな」
「正気ですか?」
ん~。 でもまぁ…誰も私だとは思わないか。
デゴイルが掃除用具入れから全員分の着替えを取り出した。 いつも私が着ているような庶民服である。
そして、何故か皆がお面を被った。
そういうお祭りなのかな?
だったら私の姿も目立たないのかも知れないな。
「よっしゃあ! じゃあ行くぞ!俺に付いて来い!」
「「「おう!」」」
あ。 そうか、皆酔っ払ってんだコレ。
私達はトイレを出て中庭を通り、正門を抜けて城の外に出た。
何で簡単に出られたかと言うと、門番が寝ていたからである。
「アレ…寝てて良いんですか? セキュリティに問題がありますが…」
「まぁ祭りだからな。 上司が食事会に出てて、部下の気が緩んでんだよ。 あと、聖火祭の時はウイスキーの差し入れがある。 全員リーサ状態だ」
「国の危機ですね」
しかし、始めて外に出れた。
そこから目に映る景色は、全てが輝いて見えた。
初めて見る街並み、列車が線路を走る姿。
車のような乗り物と、馬車が道路を走る。
色んな場所から聴こえてくる蒸気の排出音。
人々が笑顔で同じ場所を目指して歩いているのがわかる。
「兄様!あの乗り物は何ですか!?」
「あれは魔導モービルだ。あれもルクスリムで走ってる。 乗りたいか?」
ゼイールがお面越しに笑顔を見せたのがわかる。
「乗れるんですか?」
「もちろんだ。 グラウ、1台拾ってきてくれ」
「了〜解っす!」
グラウが車道の近くで手を上げると、1台の黄色い魔導モービルが停まった。
3輪のバイクのような見た目に、リアカーのような荷台が付いている。
これも蒸気機関だ、皆で荷台に乗り込んで出発する。
「運転手、ブリギッド広場まで行ってくれ」
「あいよ!しっかり掴まってな!」
レンガの敷き詰められた道路、アンティーク調の街灯。
民家は中世フランスのような見た目だ。
色んな家の屋根から見え隠れする蒸気機関のピストンと蒸気が見える。
「わぁ〜! 凄い!」
この地下洞窟の壁側にも民家が段々に建てられている。あまり日当たりが良く無いのか、民家の小さな灯りが沢山見える。
「凄い! あんな所にも家が建ってますよ!」
交差点の真ん中には噴水があり、信号機の代わりに交通整理をする人がいる。 まだ信号機が普及していないらしい。
遠くの方からガタンゴトンと音がする。
「あっ!鉄道がある! 蒸気機関車だ! 煙が出てない! キラキラした蒸気が綺麗ですね! 列車があんなにも長い!」
色んな形や大きさの魔導モービルが近くを通り過ぎる。 魔導蒸気機関が剥き出しの物もある。
荷馬車にゴムのタイヤとディスクブレーキ、サスペンションが付いているのが見えた。
「あの材質はなんでしょうか?! とても軽くて丈夫な物に違いない! あっ!荷馬車にウィンカーが付いてます!」
お面を被り、ピョンピョンと跳ねながら走る子供たち。 それを微笑ましく眺める大人達。大人はお面を着けていないようだ。
祭りの屋台だろうか、美味しそうな香りが風に乗って鼻をかすめる。
街のスピーカーから、レトロなロック調のミュージックが聴こえる。
「なんて素晴らしいんだ! この街並みの美しさ、文明の不均等!興味深い!」
今まさに、この目に映る流れる景色は、私の記憶から一生消える事はないだろう。
ゼイールが、はしゃぐ私の肩を抱いて、色んな場所を指差しては、笑いながら説明してくれた。
その全てが、私の好奇心を掻き立てた。
読んで頂き感謝です( *・ω・)
そんなあなたの今日の運勢は小吉です( *・ω・)




