聖火祭と、白いミノタウロス③
開会式が終わり、ガイランド王が謁見の間から出て、皆が肩を撫で下ろす。
しばらくして皆が謁見の間を出た。
ゼイールが背伸びをしながらこちらへやって来た。
「トレイス、俺達も行こうか。 会場で何か食べてから外へ出よう」
「外? 外って…街に行けるの?」
「おう。なんてったって祭りだからなぁ。 お忍びと洒落込もうぜ」
「いいんですか!? 私街なんて行ったことないので楽しみです!」
おお! 街に行けるのか、どんな感じなんだろうか。
色々見てみたい、一般人の生活水準がどんなものか、興味深い。
ゼイールに連れられて舞踏会場へ。 そこには沢山の大きなテーブルに色んな食べ物が並べられていて、客人達が談笑しながら酒を飲んだり肉を食べたりしている。
「ここでありますぞ〜」
デゴイルが両手に肉を持ちニコニコしながら私達を呼んでいる。 グラウとサラも一緒だ。
サラが私とゼイールに飲み物を渡す、グラスに入った黄金色の液体、細かい泡を出しているが、これは酒ではなかろうな?
「ありがとうございます。 この飲み物は何です?」
「ラガーだよ。 もしかしてトレイス坊っちゃんはラガーを知らないのかい?」
「ラガー!? お酒じゃないですか…」
「何言ってんのさ、ラガーはお酒に入らないよ。 ほらグイッといきな」
そうなのか…? この世界は不思議な事ばかりだな。
ビールなんて何年ぶりだ? 前世の忘年会で飲んだっきりか。
私はラガーをゴクッと一口飲んだ。
うへぇ…。 これは子供の舌にはまだ早いな…。
「おい。 こっちを飲め」
うわっビックリした…。 なんだガイザック叔父さんか。
「あ、ありがとうございます」
「んっ」
えぇ…。 飲み物を渡してどっか行ってしまったぞ。 何て自由な人なんだ。
これはブドウ…酒? ジュース? どっちだ?
綺麗な赤紫色だなぁ、甘い香りがする。 試しに飲んでみた。
「あまぁ〜! 何これ美味しい!」
今まで水とか紅茶しか飲めなかったもんな、糖分を摂取して全身が喜んでいるのを感じる。これは素晴らしい飲み物だ。
グラウが私の肩をチョンチョンと叩き、ニコニコしながら来客に向けて指を差した。
その方向を見てみると、そこには丸々と太ったドワーフがビール片手にキョロキョロとしている。
その男が「ハッ!」とこちらに気付いてドテドテと小走りで向かって来た。
「な、なんでしょうか?」
私が不審がっていると、グラウが耳元で教えてくれた。
「ニダヴェーリル特許庁の長官っすよ。今の内に知り合いになっといたほうが良いっす」
そんな偉い人が私に何の用なのだろうか。
「いやぁ〜坊っちゃん、やっと会えましたなぁ」
少し走ったくらいで汗を拭くな。 やっと会えたってどういう事だ、状況が飲み込めん。
「はい? えっと…はじめまして、私はトレイス・ドヴェルグと申します。 私に何かご用でしょうか?」
「あ! これは申し遅れました! わたくしニダヴェーリル特許庁のグレオールと申します! 今日は坊っちゃんに特許のお話をさせて頂ければと思いまして。 ぜひ、坊っちゃんの開発した蒸気タービンと、電波時計の特許登録を進めたく…」
「え…? な、何の話ですか? 特許登録?」
聞く所によると、なんでもネルデ先生とグラウ達が私の話をしたらしく、グレオール長官がそれを偉く気に入ったのだという。
「いやぁ〜。 あの蒸気タービンの機構は素晴らしい。 おっ!も、もしやそれが電波時計ですかな!? 少々見せていただいても!?」
「あ、はい。 どうぞ…」
この人テンション高いな…。 特許って言われてもな、他人の発明で特許なんか取りたくないぞ。
私にも研究者としてのプライドというものがある。
「この時計! これは素晴らしい! 早速明日にでも申請いたしましょう!」
「えぇ…?」
私が気乗りしない様子を見て、ゼイールが私の肩を叩いた。
「トレイス、何を気に病んでるか知らないが。 特許は取っておいた方が将来のためになるぞ。 いざって時の切り札にもなるからな」
なるほど…ゼイールの言う通りだ、私はこの先の事も考えないといけない…。
いざって時か…。 その発想は無かったな。
「…わかりました。 申請します」
「おおっ! では明日またお会いしましょう! 書類を持ってまいります!」
「はい、よろしくお願いします」
グレオール長官と握手をして別れた。
そうだな、前世の人間に気を使っている場合でもないし、私はこの世界で生きて行かなければならないんだ。
作れる物はドンドン作って行こう。
読んで頂き感謝です( *・ω・)
そんなあなたの今日の運勢は吉です( *・ω・)




