聖火祭と、白いミノタウロス①
明後日の朝、寝不足そうなメイドのリーサが聖火祭用の服を仕立てて持って来た。
ブラウン色のパンツとベスト、腕の辺りがゆったりとした白いYシャツに、長革靴。
ジャケットとネクタイとベルトが無いのだが…?
メイドが申し訳なさそうにしている。
「あ、あのぉ…。 これで…なんとかなったりしませんかね?」
「はぁ〜…」
私は深いため息を吐いてメイドに目をやった。
「で、ですよねぇ…すみません…」
反省しているのか判断が難しいんだよなこのタイプは。
多分またやるだろう。
「はぁ…。 ネクタイは革のループタイでも良いだろう。 たしか、前にミスリルで作ったトップが引き出しにあるはずだ」
私は作業台の引き出しを開けて手頃な物を選んだ。
「これでいいか。
あとはジャケットとベルトだよな…仕方ない、いつも使ってるベルトを着けよう。
ジャケットは… 大目に見て貰うほかないな…」
私はそれらに着替え、メイドに髪を三つ編みにしてもらって胸に垂らした。
うん。 そこそこ様にはなってる…よな?
《ピコンッ!》
急に鳴る機械音、なんとこの世界…パソコンがあるのだ。
この部屋に初めて来た時、変なタイプライターがあるなぁと思っていたのだが。 それがパソコンのキーボードだったらしい。
起動すると、天井から投影機が出てきて、壁にモニターを映し出したのだ。
なんて文明バランスの悪い世界なんだ、面白くて仕方がない。
授業でこのパソコンの使い方を習ったお陰で、ゼイールとメールのやり取りをしたりしている。
私が使っているのは『マギ・クオンタム・オラクル』通称MQOと呼ばれる旧式のパソコンだ。
作業台の裏にデスクトップとルクスボンベが隠されていた、なぜ本体を隠す…。
しかも、こう見えてコイツは量子コンピュータらしい。
パソコンとは何かを考えさせられる。
イカれた世界に興奮してならない。
これで一気に出来る事が増えた。
「えっと? 兄様からのメール。 『俺の部屋に集合な!皆もう来てるぞ!』って早っ!
まだ2時間も前なのに… じゃあ私もそろそろ行くか。 時計くらいは着けていこう」
試作品の腕時計を左腕に巻き、小屋を出た。
城の中に入るのは授業の時だけで、図書室以外の場所にはあまり出向かない。
来てしまったな、ゼイールの部屋など久々だ。
気がかりなのは、部屋に王妃が居るか居ないかなのだが…。
居たら嫌だなぁ…。気不味い…。
大丈夫だろうか…とりあえずノックしてから考えよう。
コンコンコンッ
「えっと、兄様? 失礼します」
すぐにゼイールが扉を開けてくれた。
「おっ! 来たか!入れよ!」
その豪華で広い部屋の奥にはデゴイル、グラウ、サラの3人が笑顔で手を振ってくれている。
皆ブラウンのスーツを着ているな。 良かった、色はお揃いらしい。
「皆早くないですか? もっとゆっくしたらいいのに」
「皆お前を心配してたんだよ。 服は大丈夫そうだな」
心配してくれたのか、良い兄を持ったな私は。
「あれ? トレイス殿下の時計、なんか変わってるっすねぇ。 ミスリルのベルトに、黒いガラスがはまっててカッコいいっす。 でも短針と長針が付いて無いっすよ?」
「これですか? 私が作ったんです。 このボタンを押すと、液晶に時間が表示されます。 これが量産出来れば時間のズレも無くなりますよ」
腕時計のボタンを押すと黒いガラスに白く『8:05』と時間が表示された。
「うわっ!なんすかこれ! ちょっと皆これ見て!」
「ほう! これは洒落ておりますな!」
「凄いじゃないか、どんな仕組みだい?」
「この前作ってた時計はこれかぁ。 流石トレイスだな」
「ふふっ ありがとうございます。 これはですね…」
自室のMQOに接続した送信機から時間情報の電波を出して、腕時計内にあるアンテナがそれを受信する。
このアンテナを搭載した時計であれば、全て同じ時間が表示されて狂う事が無い。
簡単に言うと電波時計、動力源はルクスリムだ。
ルクスリムを充填してから3日ほど経ったがまだ動いている。
なかなか良く出来たなと自画自賛してみる。
「なるほどなぁ。 これは…今日トレイスは引っ張りだこになるだろうな」
「え? と言うと?」
「早速特許を取る必要が出てきたって事っすね。 なんてったって時間が狂わない時計っすからねぇ」
「今日は色んな人が招待されておりますからな。 これは争奪戦になりますぞ」
「こいつは職人連中の目を引くだろうからね。 ジジイ共の悔しがる顔が目に浮かんで、すでに気持ちいいよ」
そうか、特許か…そりゃあるよな。
でもまぁ…被ってても商品にしなきゃ問題無いだろう。
読んで頂き感謝です( *・ω・)
そんなあなたの今日の運勢は吉です( *・ω・)




