西暦3265年の秋②
翌日の昼、ついに完成した新兵器。
長年研究を重ねて作った最新技術、液体形状記憶ナノ合金『ステュクス』の発表だ。
「…と言うわけで、この液体形状記憶ナノ合金『ステュクス』は、瞬時に使用者の身を包み、武装する事が可能となるのです。 サポートAIとタッグを組み、その時に必要な武装のデータを転送する事で、最適な戦闘補助を実現します。 下級戦闘員の戦闘力を向上させ、また上級戦闘員のサポートもこれまで以上となるでしょう。 これで私の発表は終わります、ご清聴ありがとうございました」
皆が立ち上がり、拍手が喝采し、部隊長が涙を流して微笑んでいる。
手応えアリだ。
「素晴らしいぞ089号! 君の研究は我々の未来を照らすだろう! すぐに量産を進めよう!」
モニターに映るボスが歓喜している。
これほどとは思わなかったが、父さんも喜んでくれるだろうか。 いや、きっと喜んでくれる。
その時だ、基地の電気が消え、赤いライトが点灯した。 地鳴りのような音と共に部屋が小刻みに揺れ出した。
アラームが連続で鳴り響き、緊張感が基地全体を包み込む。
私はステュクスの入ったケースを両手で抱え、辺りをキョロキョロと見渡した。
《敵襲です!第一戦闘配備発令!各ブロックを閉鎖します!繰り返します…》
基地内のアナウンスが流れた。
戦闘配備? どういうことだ…? なんで基地内で戦闘なんかが起きるんだ。
天井にヒビが入り、揺れがどんどん大きくなる、爆発でも起きているのか?
《敵を確認しました!『アブソリュートマン』と奇襲部隊です!各部隊が応戦しています! 他の戦闘員、予備戦闘員は直ちに武装し!応戦してください! 医療班は…》
「発表会は中止だ!直ちに武装して戦闘に入れ! これは演習ではない!」
部長が大きな声で叫ぶ。
私は急いで部屋を出て武器庫へと走った。
「ダメだ! 開かない! 動力源がやられた!」
武器庫の前で同僚が叫ぶ、皆の顔から恐怖の色が見える。
その恐怖は伝線し、そこに集まった数十人が頭を抱え縮こまる。
このままではマズい、なんとかしなくては。
その時、武器庫が爆破され何人かがふっ飛ばされた。
ホコリで視界が塞がれる。 爆破された部屋からガラガラと瓦礫をどかしながら人が出て来た。
よく見えないが、誰かが出て来たのはわかる。
暗視ゴーグルだろうか…目が赤く光り、ソイツはこちらを見ている。
ソイツは私の目の前で同僚達を次々と攻撃し始めた。 同僚達を殴り飛ばし、壁へ叩きつけている。
どうやら仲間ではないらしい。
スプリンクラーが作動し、ホコリが消えてソイツの姿が見えた。
頭から爪先まで真っ赤なプロテクトスーツに身を包んでいる。
「う、うわあああ!!」
残された同僚達が雄叫びを挙げて一斉にソイツに殴りかかった。 しかしソイツは微動だにしない。
仲間達の攻撃に『やれやれ』といったふうに両手を挙げた。
ソイツが回転して仲間達の攻撃を弾くと、そのまま回し蹴りを放ち、同僚達の頭を破壊した。
同僚の返り血が私の白衣を赤く染める。
「お前は戦わないのか? 良い判断だな」
ソイツは私にそう言うと、まるで私の存在など気にする事無く歩き、私を横切った。
私は恐怖で手足が震え、動けづに居たが。 『いつの日かお前は、誰よりも強い戦闘員になれる。 俺はそう信じている』という父の言葉を思い出す。
私は自分が抱えているケースを思い出す。 ケースを開け、中に入っているベルトを装着した。
私は、そのスタスタと歩くソイツの背中を、殺意を込めて睨んだ。
「サポートAI起動。 試作データ転送。『武装』」
私がそう言うと、ベルトが反応して答える。
《声帯認証確認。 089号の『武装』開始。 試作データを転送します》
ベルトのバックルが『ガチャリ』と回転して開き、そこから液体金属が素早く流れ出た。
その液体金属は、私の首から下をプロテクトスーツとなって包み込む。
そして、強固な外骨格と疑似筋肉が、その性能を発揮する。
私は地面を思いっきり蹴って移動し、ソイツ目掛けて拳を突き出した。
読んで頂き感謝です( *・ω・)
そんなあなたの今日の運勢は吉です( *・ω・)




