剣を取れ、もう一度だ
ゼイールは他の生徒達に連れられて医務室へと向かった。
私の言葉に怒りを露わにする指導員。
「本物の戦闘訓練だとお?!
ハッ! 覚悟しろ混血児! 喝っ!!」
剣を振りかぶって向かってくる。
動きは単調、相手の懐に入って剣を振るだけか。
私は指導員の間合いギリギリの所で何度か避け、剣を振り下ろすタイミングを見計らって指導員に近づき、指導員の両腕を小脇に挟んで身体を回転させる。
指導員の木剣が振り解かれ、地面にカランと落ちた。
その場に居る者全てが、何が起きたか分からない様子だった。
「剣を取れ、もう一度だ」
「な、なにをぉ!? 少し手が滑っただけだ! 調子にぃ!乗るなああ!!」
指導員は剣を縦横無尽に振っている。
何をしているんだコイツは。
「ハッ! これなら近づけまい!!」
「近づかなきゃいいだけだろ、バカなのか。
無駄に疲労してどうする」
「ぐぬっ…! うらあああ!!」
指導員は振るのを止め、剣を抱えたまま突進して来た。
私は右足を斜め外側に進ませ、指導員が近づいて来ると左足を引いて正中線をずらし、攻撃を躱した。
指導員は転びそうになりながら、剣を横に振って回転しだした。
私は身体を真下に沈ませて両手を地面に置き、右足を素早く回して足払いをする。
指導員が派手に転んで地面を滑った。
「剣を取れ、もう一度だ」
そう言って指導員を見下ろす私にを見て、周りの生徒達がザワザワとしている。
「くっ! クソがああ! 混血児ぃいい!!
後悔させてくれるわあああ!!」
私は、指導員が木剣を振りかぶるタイミングで一気に近づき、その振り上げた両腕の隙間から指導員の顔が見えたと同時に、その顔面に拳を連打する。
指導員が堪らず目を瞑る、私はその隙に姿勢を低くしながら指導員の後方に回り込む。
「ぬっ!? ど、どこ行った!?」
私は少し屈んで指導員の腰に両腕を周してロックする。
「な!? なんだあ!?」
そのまま指導員を持ち上げてジャーマンスープレックスを決めた。
私は指導員を離して立ち上がる。
地面に頭を打って動けない指導員の、握っている木剣を蹴り飛ばす。
「剣を取れ、もう一度だ。
どうした、後悔させてみろ」
その光景を、生徒達が驚きを隠せず啞然として見つめていた。
指導員は無言で立ち上がり、その顔には恐怖の色が見え始めた。
震えながら木剣を構える指導員の間合いに悠然と入り込み、みぞおちに力いっぱい拳を叩き込む。
指導員は木剣を落とし、腹を押さえて崩れ落ちた。
その指導員に手を貸して立ち上がらせ、襟と腕を取って背負投を決めた。
「剣取れ、もう一度だ」
「ゴホッゴホッ…! せん…」
指導員が泥だらけで地面にうずくまりながら小さな声で何か呟いている。
「何か言ったか」
「す、すみませんでした…! ハァハァ…ゴホッゴホッ…ガ…ハァハァ… お、お許しください…」
指導員の顔が、涙目と汗とヨダレでグチャグチャになっている。
無様に息を切らし、這いつくばり、許しを乞うている。
残念だが、許すわけにはいない。
お前は私の大切な人を傷つけ過ぎた。
「ダメだ、剣を取れ。 もう一度だ」
「ヒィッ!!」
「なっ!何をしているのです!やめなさい!」
レイシル王妃の声が聞こえてきた。
「これはレイシル王妃、ごきげんよう」
「どういう事か説明なさい!」
仕方ない…どんな反応するのか見てやろう。
「実はこの指導員が…」
「言い訳なんかするんじゃないのっ!!」
どうしろってんだ…!
まったくコイツは好きになれない。
「わかりました、では私はこれで失礼します」
「ちょっと待ちなさい!!」
待ってたまるか。
私は自分の家に戻らせてもらう。
ここで良くしてくれるのはゼイールとネルデ先生だけだ。
父親であるはずの王は一度も会いに来ない。王妃は嫌味ったらしいし、メイドもそうだ、これで愛が芽生えるわけがない。
私はこのまま…。 いや、考えるのは止めよう。
さて、帰ったら研究でも進めるか。
気をしっかり持とう。
読んで頂き感謝です( *・ω・)
そんなあなたの今日の運勢は中吉です( *・ω・)




