これが魔法か
次の日の昼、ゼイールが私の部屋へやって来た。
2人で居る所を見られると、また怒られるかも知れないので、私達は小屋の外に出て、小屋の裏側に隠れた。
少し伸びた芝生に腰掛けて、2人で挟むように魔導書を広げた。
魔導書に記された『呪文』とその効果を調べる。
未知に触れる感覚は実に楽しい。
しかし、ゼイールの様子が少し変だ。
「兄様、どうかしました? 具合が悪いなら無理しなくても」
「ん? …別になんでもねぇさ。 それより呪文を試すんだろ? 教えてやるよ」
「兄様は呪文も扱えるんですか!?」
「まあな、必須で覚えないといけない呪文が…。
いやそれより、どんな呪文を使うつもりなんだ?」
「ん~…。まずは電気を発生させる呪文を使いたいですね。 汎用性が高いかと。 手に纏わせる程度で良いと思うんですけど」
「電気かぁ。 なら電気の性質を知る必要があるな。
魔粒子を変換するってのは、簡単に言うとイメージだ。
その『イメージの具現化』をサポートするために『呪文』がある。
歌を聞いたり、口ずさんだりすると、情景が浮かんでくるのと同じ理屈だな。そこに魔粒子操作が加わる事で『魔法』となる」
「おぉ〜! さすが兄様です! わかりやすい!」
「でも電気は難しいぞ?
火と違って、触ると最悪の場合に死んだりするからイメージが難しいんだ。 だから魔法で電気を生み出す人間は少ない。手本となる人間も近くに居ないしな。 大丈夫そうか?」
「まかせてください!感電なら何度か経験があります!」
「経験してんじゃねぇよ!危ねえだろ!」
「おっしゃる通りで…」
前世での経験だったのだが…。
父さんに叱られた時もこんな感じだったな。 愛のある忠告だ。
「まったく…危なっかしいな。
じゃあまず基本の魔粒子操作をしながら電気をイメージしよう。
魔粒子を放出するイメージを維持しつつ、それを電気に変換する。 そのための『初級呪文』が魔導書に書いてあるだろ?」
「えっと…放電はこれか。
たしかに読んで字のごとくだ。
行きます!『放電』!」
私は両手の人差し指を近づけ、魔粒子操作で指先に魔粒子を放出しながら呪文を唱えた。
『パチッ!…』
音はすれども…少し電気が出たかと思ったら、弾けるようにすぐ消えてしまった。
「あれ? 失敗だ…。上手く魔粒子の変換が出来ない」
「いや、魔粒子を電気に変換して放出する事は出来てる。あとは電気が流れるイメージをもっと強くしよう」
「イメージか…。もっとリアルに…」
私は坐禅を組み、両手を足の上に置いて向かい合わせ、左右の人差し指の先を近づける。
瞑想をして感覚を研ぎ澄ませながらイメージする。
右手がプラス…左手がマイナス…
電気が流れるリアルなイメージ…
パ……パ……タタタタタ…チチチチチ…ヂヂヂヂ…
行き過ぎた… チチチチチ…
ここだ。
「放電…」
『チチチチチチチチチチ…』
「おお。 出来てるぞトレイス、目ぇ開けろ」
「おおっ! やりましたよ兄様! 魔法が使えました! 兄様の指示のお陰です!」
電気が放出されて、両手の人差し指の隙間に電気が通っているのが目に見える。
とても弱い電気だが、今はそれでいい。
これが魔法か、素晴らしい。 感動してしまったぞ。
「やったな。
あとはどれだけの時間これを維持出来るかだ。
ここまで出来れば練習あるのみだな。頑張れよ。
俺はちょっと…戦闘訓練があるからもう行くわ」
「はい!ありがとうございました!」
『パチッ!……』
「「あっ…」」
気を抜くと弾けて消えてしまった。
ゼイールは私に少し微笑むと、片手を軽く挙げながら戦闘訓練へ行ってしまった。
今日のゼイールは、どこか少し…元気が無いように思えた。
読んで頂き感謝です( *・ω・)
そんなあなたの今日の運勢は末吉です( *・ω・)




