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第8話「裏からの見守り活動」

 民間攻略会社の成長を見守り始めてから2ヶ月が経った。

「今日も順調だな」

 地下空間のモニタールームで、俺は全国のダンジョン攻略状況を確認していた。緑色が大部分を占めており、危険度の高い赤色表示は皆無だった。

 各民間会社の技術レベルは着実に向上しており、以前なら俺が出動していたレベルの案件も、彼らだけで解決できるようになっている。

「『サンダーストーム』は今日もA級ダンジョンを攻略予定か」

 美咲が注目しているチームの動向をチェックする。彼らは最近、連続してA級ダンジョンの攻略に成功しており、業界でも注目株だった。

 モニターには、彼らが池袋の『雷鳴の洞窟』に挑戦する様子がリアルタイムで表示されている。魔力蜘蛛のネットワークにより、俺は全国どこでも状況把握が可能だった。

「今回の相手は雷属性のドラゴンか」

 リーダーの雷魔法使いにとっては、属性的に不利な相手だ。しかし、彼らならきっと戦術で補うだろう。

 実際、彼らは見事な連携で難しい状況を乗り切っていた。土属性の魔法使いが主力となり、雷魔法使いはサポートに回る。柔軟な戦術変更ができている。

「成長したな……」

 俺は感慨深く彼らの戦いぶりを見つめていた。


 高校では、今日も冒険者の話題が中心だった。

「琴音ちゃん、聞いて!『サンダーストーム』が今度テレビ出演するって!」

 美咲が興奮してスマートフォンを見せてくる。

「へー、そんなに有名になったんだ」

「うん!今度『冒険者特集』っていう番組に出るの。楽しみ!」

 確かに、最近は冒険者を取り上げるメディアが急増している。一般社会における冒険者の地位向上も、俺の方針転換の副次効果の一つだった。

「琴音ちゃんは相変わらず冒険者に興味ないの?」

「うーん、私は普通の生活が好きかな」

「でも最近、琴音ちゃんってなんか落ち着いてるよね。大人っぽいっていうか……」

 確かに、最近の俺は以前より精神的に安定している。民間会社の成長を見守ることで、世界の平和に対する不安が軽減されたからかもしれない。

「そうかな?」

「うん。前はもっと……なんていうか、どこかソワソワしてた気がする」

 ソワソワ、か。確かに以前は常に緊張状態だった。いつダンジョンブレイクが起きるか、いつ出動要請が来るか、常に気を張っていた。

 今は違う。他の冒険者たちが頼りになることが分かったので、心に余裕ができている。

 授業中、俺は今夜の見守り活動について考えていた。最近は直接介入することは月に1、2回程度。ほとんどの時間を、他の冒険者たちの活動観察に費やしている。


 放課後、俺は実際に現場に足を運んでみることにした。

 新宿の『フェニックス・コーポレーション』が挑戦している『炎の神殿』は、A級ダンジョンの中でも特に難易度が高い。彼らにとって大きな挑戦だった。

 ダンジョン入り口で、俺は透明化して彼らの準備を観察した。

「今日のターゲットは炎の精霊王。弱点は水と氷属性」

「私の氷魔法がメインになりそうね」

「回復魔法の準備も万全です」

「よし、行くぞ」

 彼らの事前準備は完璧だった。情報収集、装備チェック、作戦確認。全てが抜かりない。

 俺も透明化したまま、彼らに同行した。万が一の時は即座に介入できるよう、常に準備を整えている。

 ダンジョン内部は予想以上に過酷だった。温度は50度を超え、炎の罠が至る所に仕掛けられている。通常の人間なら長時間の活動は困難だろう。

 しかし、『フェニックス・コーポレーション』のメンバーたちは的確に対処していた。氷魔法で温度を下げ、風魔法で空気を循環させる。環境への適応力も向上している。

「この調子なら問題ないな」

 俺は安心して彼らの進行を見守った。

 最深部で炎の精霊王と遭遇した時、俺は彼らの真の実力を目の当たりにした。

「氷の壁展開!炎の攻撃を防いで!」

「了解!『アイスバリア』!」

 精霊王の炎球攻撃を氷の壁が完璧に防ぐ。タイミングも判断も申し分ない。

「今だ!『フリーズランス』!」

 氷魔法使いの女性が放った氷の槍が、精霊王の核心部に命中した。

「ぐおおお……なぜ我が炎が通じぬ……」

「チームワークの力よ!」

 彼らは見事に炎の精霊王を撃破した。俺の介入は一切必要なかった。

「素晴らしい……完全に独力で達成した」

 俺は心から感動していた。半年前なら絶対に不可能だった強敵を、彼らは自分たちだけで倒したのだ。


 その夜、地下空間で俺は観察記録を整理していた。

「『フェニックス・コーポレーション』、A級高難易度ダンジョン攻略成功」

「『サンダーストーム』、連続攻略記録更新中」

「『ドラゴンハンターズ』、新戦術開発により効率30パーセント向上」

 どの会社も着実に成長している。データを見る限り、あと3ヶ月もすれば現在のS級ダンジョンにも挑戦可能なレベルに達するだろう。

「このペースなら、俺の役割も変化させる必要があるな」

 単純な戦力としての『白銀の審判者』から、より戦略的な存在への転換。真の危機に対する最後の砦として機能する。

 その時、モニターの一角が黄色に変わった。

「ん?大阪で異常事態?」

 詳細を確認すると、『関西ハンターズ』というチームがB級ダンジョンで予想外の強敵と遭遇しているようだった。

「これは……少し危険かもしれない」

 俺は状況を注視した。彼らの実力なら通常のB級ダンジョンは問題ないはずだが、今回は何か違う。

 モニター越しに戦闘を観察すると、ダンジョン内に通常とは異なる魔力反応があった。人工的に強化された魔物が存在している。

「これは自然発生じゃない……誰かが意図的に魔物を強化している」

『関西ハンターズ』のメンバーたちは苦戦していた。想定を超える敵の強さに、戦術が通用していない。

 俺は介入を検討したが、もう少し様子を見ることにした。彼らなら何とか対処できるかもしれない。

 実際、彼らは見事に状況を打開した。強化された魔物の弱点を見つけ出し、臨機応変な戦術で勝利を収めている。

「やはり人間の適応力は素晴らしい」

 しかし、俺は気になることがあった。魔物の人工的な強化。これは単なる偶然ではなく、何者かが意図的に行っているのではないか。


 翌日、俺は全国のダンジョンで類似事例がないか調査した。

 魔力蜘蛛のネットワークを通じて過去1ヶ月のデータを分析すると、確かに不自然な魔物強化事例が散発的に発生していた。

「東京で3件、大阪で2件、名古屋で1件……」

 パターンを分析すると、いずれも民間攻略会社が挑戦するタイミングで発生している。まるで彼らの実力を試すかのような状況だった。

「これは偶然ではない。誰かが意図的に……」

 しかし、これ以上の情報は得られなかった。相手は非常に巧妙に隠蔽工作を行っている。

「当面は注意深く観察を続けよう」

 俺は警戒レベルを一段階上げることにした。民間会社の成長は順調だが、それを阻害しようとする勢力が存在する可能性がある。

 その夜、俺は初めて積極的な見回りを行った。

 全国の主要ダンジョンを瞬間移動で巡回し、異常がないか直接確認する。大部分は正常だったが、いくつかのダンジョンで微妙な魔力の違和感を感じた。

「やはり何者かが暗躍している」

 相手の正体は不明だが、民間攻略会社の成長を快く思わない勢力がいることは確かだった。

「民間会社を守るのも、俺の新しい役割の一つかもしれない」

 俺は決意を新たにした。直接的な戦闘支援ではなく、彼らが安全に活動できる環境を整備する。それも『白銀の審判者』の重要な使命だ。


 1週間後、俺の懸念は現実のものとなった。

「これは……明らかに人為的だ」

 横浜の『オーシャンブレイカーズ』が挑戦したA級ダンジョンで、通常の3倍の強さを持つボスモンスターが出現した。

 彼らは善戦したものの、想定外の強さに苦戦を強いられている。このままでは全滅の危険性もあった。

「これは介入すべき案件だ」

 俺は即座に現場に向かった。

『白銀の審判者』として姿を現すと、強化されたボスモンスターは明らかに動揺した。

「グルル……この魔力は……」

「私が相手をします。皆さんは安全な場所に」

『オーシャンブレイカーズ』のメンバーたちは安堵の表情を浮かべた。

「白い守護天使様……助かりました」

 俺は強化されたボスモンスターと対峙した。確かに通常の3倍程度の強化が施されている。しかし、俺にとっては大した脅威ではない。

『白銀の刃』十本展開で、一瞬で勝負を決めた。

「これで終わりです」

 ボスモンスターが倒れた後、俺はその体を詳しく調査した。やはり人工的な魔力強化の痕跡があった。

「何者かが民間会社を標的にしている……」

 俺は『オーシャンブレイカーズ』のメンバーたちに声をかけた。

「皆さん、しばらくは注意深く活動してください。最近、ダンジョンの危険度が不自然に上昇している事例が報告されています」

「分かりました。ありがとうございます」

 俺は透明化してその場を去ったが、この件について本格的な調査が必要だと感じていた。

 民間攻略会社の成長を見守るつもりが、彼らを脅かす新たな敵の存在を発見してしまった。

「面倒なことになりそうだな……」

 でも、これも『白銀の審判者』の役目だ。表からは見えない脅威から、人々を守らなければならない。

 俺の見守り活動は、新たな段階に入ろうとしていた。

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