表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/38

第6話「ダンジョン攻略の自重」

 17歳になった俺は、一つの重大な問題に直面していた。

「俺が強すぎる」

 地下空間の作戦会議室で、一人テーブルに向かいながら真剣に考え込んでいた。手元には最近のダンジョン攻略データが並んでいる。政府発表の統計によると、この1年間で俺が攻略したダンジョンは実に127件。全世界のダンジョン攻略数の約15パーセントを一人で処理していることになる。

「これはまずいな……」

 問題は俺の圧倒的な実力が、他の冒険者たちの成長を阻害している可能性があることだった。ダンジョンは冒険者にとって経験値を積む場所でもある。俺が片っ端から攻略してしまうと、他の人たちが強くなる機会を奪ってしまう。

 テーブルの上に広げられた新聞記事を見返す。

「新人冒険者の育成が急務」

「ダンジョン不足で訓練場所に困る魔力能力者たち」

「政府、新たな育成システムの構築を検討」

 どの記事も、冒険者たちの経験不足を問題視している。確かに、俺が『白銀の審判者』として活動を始めてから、新人冒険者が実戦経験を積む機会は激減していた。

「本末転倒だ……」

 俺の目的は世界を守ることであって、冒険者の成長を阻害することではない。むしろ、より多くの人が強くなれば、世界はもっと安全になるはずだ。

 立ち上がって地下空間の窓から外を見上げる。地上では今日も多くの人々が平穏な日常を送っている。その平和を守るために、俺はもう少し戦略的に行動すべきかもしれない。

「よし、方針転換だ」

 今後は全てのダンジョンを攻略するのではなく、本当に危険な案件だけに絞ろう。低難易度から中難易度のダンジョンは他の冒険者に任せ、俺は影から見守る程度に留める。


 高校での日常は相変わらず平穏だった。

「おはよう、琴音ちゃん」

「おはよう、美咲ちゃん」

 美咲は今日も元気いっぱいだった。彼女との何気ない会話が、俺にとって大切な癒しの時間になっている。

「昨日のニュース見た?また新しい冒険者チームがA級ダンジョンをクリアしたって」

「へー、すごいね」

 実際、最近は新人冒険者チームの活躍が目立つようになっていた。俺が高難易度ダンジョンのみに専念するようになってから、中級クラスのダンジョンで経験を積んだ冒険者たちが急速に成長している。

「『サンダーストーム』っていうチーム、すごくカッコいいのよ。リーダーの雷魔法使いの男の子が素敵で……」

 美咲が興奮して話している。俺も内心では嬉しかった。新人冒険者たちが活躍できているということは、俺の方針転換が正しかったということだ。

「でも琴音ちゃんは冒険者とかに興味ないの?魔力能力者の適性検査、受けてみない?」

「う、うーん……」

 実は先月、学校で魔力適性検査があった。当然、俺の魔力量は測定器の上限を軽く超えていたのだが、魔力で数値を偽装して「平均的な魔力量」という結果にしておいた。

「私、魔力とかよく分からないよ」

「そうなの?でも琴音ちゃんって、なんか特別なオーラがあるよね。きっと隠れた才能があるよ」

 隠れた才能……まあ、確かに隠れてはいるな。

「それより、今度の文化祭の準備はどうする?」

 話題を変えて、普通の高校生らしい会話を続ける。この平穏な日常こそが、俺が守りたいものだった。

 授業中、俺は自重後の活動方針について考えていた。完全に手を引くわけではなく、本当に危険な案件には今まで通り対応する。ただし、他の冒険者でも対処可能なレベルの案件は、あえて見守るだけに留める。


 放課後、俺は地下空間で新しい監視システムの構築に取り組んでいた。

 魔力蜘蛛のネットワークをさらに拡張し、全国のダンジョン情報をリアルタイムで収集できるようにする。これにより、本当に介入が必要な案件だけを選別できるはずだ。

「よし、これで完璧だ」

 巨大なモニターには、日本全国のダンジョン状況が表示されている。緑色は安全、黄色は注意、赤色は危険を示している。現在、赤色に分類されているダンジョンは3箇所だけだった。

「これなら他の冒険者に任せても大丈夫そうだな」

 黄色のダンジョンも、政府の魔力対策部隊や民間の攻略会社が対応している。俺が出る必要はなさそうだ。

 その時、モニターの一角が突然赤色に変わった。

「ん?新宿のダンジョンで異常事態?」

 詳細情報を確認すると、B級ダンジョンで突然S級レベルの魔力反応が観測されているとのことだった。これは明らかに政府や民間会社では手に負えないレベルの脅威だ。

「これは俺が出るべき案件だな」

 自重方針とはいえ、このレベルの脅威を放置するわけにはいかない。一般市民に被害が及ぶ前に対処する必要がある。

『白銀の審判者』モードに変身し、現場に向かう準備を始めた。白銀の髪、琥珀色の瞳、神聖な外套。完璧な戦闘形態だった。


 新宿のダンジョン周辺は既に政府の魔力対策部隊によって封鎖されていた。

「状況はどうですか?」

 透明化を解除して部隊長に声をかけると、相手は安堵の表情を浮かべた。

「白い守護天使様!来ていただけて助かります」

「何が起きているのでしょう?」

「約30分前から、ダンジョン内部でS級の魔力反応が観測されています。我々の装備では対応できません」

「分かりました。すぐに調査します」

 俺はダンジョン内部に侵入した。通常のB級ダンジョンとは明らかに雰囲気が違う。空気が重く、禍々しい魔力が漂っている。

 最深部に到達すると、異常の原因が明らかになった。

 古代の封印が破られ、上位悪魔クラスの魔物が復活していた。体長10メートルはある巨大な悪魔が、ダンジョンの壁を破壊しながら地上への道を作ろうとしている。

「これは確かに危険だ」

 放置すれば間違いなく街に被害が及ぶ。俺は即座に戦闘を開始した。

『白銀の刃』千本展開。魔物の動きを封じ込めながら、『次元断裂』で一撃必殺を狙う。

「グルルル……何者だ、その神聖な力は……」

 悪魔が俺を見据えて唸る。しかし、格の違いは歴然だった。

「私は白銀の審判者。貴方のような存在が街に出ることは許しません」

 戦闘時間はわずか5分。悪魔は完全に消滅し、ダンジョンも安定した状態に戻った。


 地上に戻ると、部隊長が深々と頭を下げた。

「ありがとうございました。我々では絶対に対処できませんでした」

「いえ、これが私の役目ですから」

「もしよろしければ、正式に政府の特別顧問として……」

「お気持ちは嬉しいですが、自由に動きたいのです」

 この申し出は何度も受けているが、俺の答えは決まっている。組織に属してしまえば、本当に必要な時に動けなくなる可能性がある。

 家に帰る途中、俺は今夜の出来事を振り返っていた。

「やはり、完全に手を引くわけにはいかないな」

面白いと感じていただけましたらブクマ、評価よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ