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第37話「次元を超えた戦い」

 マスター・キメラとの最終決戦が始まった瞬間、俺は戦慄した。

『では、まず君の実力を測らせてもらおう』

 マスター・キメラが右腕を振り上げた瞬間、現実そのものが歪んだ。

 空間が裂け、時間が停止し、重力が逆転する。

「これは……次元操作?」

 俺が理解する暇もなく、足元の床が消失した。俺は無重力空間に放り出される。

『驚いたかね?これが私の力だ』

『次元そのものを操る能力』

『物理法則など、私の前では無意味だ』


 俺は空中で体勢を立て直そうとしたが、上下左右の概念が消失していた。

 ここは三次元空間ではない。四次元、五次元……もしかすると、それ以上の高次元空間かもしれない。

『君の『白銀の刃』も『領域展開』も、三次元空間での技術に過ぎない』

『ここでは無力だ』

 マスター・キメラの声が、あらゆる方向から響いてくる。


 俺は必死に状況を理解しようとした。

 確かに、通常の魔法は三次元空間を前提としている。

 だが、俺にはまだ使ったことのない力があった。

「『次元断裂』」

 俺の最大の必殺技を発動した。

 空間そのものを切り裂く究極の斬撃。これなら次元の壁も破れるはずだ。


 白銀に輝く巨大な刃が、歪んだ空間を切り裂いた。

 一瞬、元の三次元空間が見えた。

 俺は即座にその隙間に飛び込み、元の部屋に戻った。

『ほほう、次元断裂を使えるのか』

『なかなかやるじゃないか』

 マスター・キメラが感心したような声を出した。

『だが、それでも私には及ばない』


 再び空間が歪み始めた。

 今度は部屋全体が巨大な立方体になり、壁と天井と床の区別がなくなった。

 重力が六方向から同時にかかり、俺の体が引き裂かれそうになる。

「くそ……これでは戦いようがない」

『そうだ。君が理解すべきは、次元の差という絶対的な格差だ』

『三次元の存在である君には、四次元の私を理解することすらできない』


 しかし、その時だった。

 俺の心に、美咲の声が響いた。

『琴音ちゃん……困ってる人を助けるのが、私の夢なの』

『琴音ちゃんみたいに、誰かを守れる人になりたい』

 美咲の純粋な想い。俺が一番大切にしている人の願い。

「そうだ……俺は美咲を守るために戦っているんだ」

 俺の内部で、何かが変化し始めた。


「美咲を……絶対に守る」

 俺の魔力が爆発的に増大した。

 白銀の光が俺の全身を包み、その光は次元の壁すら突き破った。

『何だ……この魔力は』

 マスター・キメラの声に初めて動揺が混じった。

『まさか……君も次元上昇を?』


 俺は理解した。

 これまでの俺は、確かに三次元の存在だった。

 だが、美咲を守りたいという想いが、俺を新たな次元に押し上げている。

『白銀の帝王』モード。

 俺の新たな最終形態が覚醒した。


 神域レベルの魔力が俺の体を駆け巡る。

 髪は白銀を通り越して純白に輝き、瞳は琥珀色から黄金に変化した。

 そして、俺の周囲に十二枚の光の翼が展開された。

『これは……天使?いや、それ以上の存在』

『まさか人間が、この領域まで到達するとは』


 俺は今、マスター・キメラと同じ次元に立っていた。

 歪んだ空間が、俺の意志で元に戻る。

「これで対等だ」

 俺の声は、神々しい響きを持っていた。

『対等?君はまだ理解していない』

『私は20年かけてこの力を手に入れた』

『君のような付け焼き刃では……』


 マスター・キメラが本格的な攻撃を仕掛けてきた。

 次元の壁を操り、無数の空間の裂け目を作り出す。

 その裂け目から、異次元の魔物たちが湧き出してきた。

 竜、悪魔、死神……あらゆる次元から召喚された最強の存在たち。

『これが私の軍団だ』

『異次元から召喚した、最強の戦士たち』


 しかし、俺にとってそれらはもはや脅威ではなかった。

『白銀の軍勢』

 俺の周囲に、白銀に輝く騎士たちが現れた。

 一体、十体、百体、千体……

 瞬く間に、俺の軍勢が部屋を埋め尽くした。

「行け」

 俺の一言で、白銀の騎士たちが異次元の魔物たちと激突した。


 光と闇の軍勢が衝突する。

 部屋中に爆発と閃光が走り、現実と幻想の境界が曖昧になった。

 だが、白銀の軍勢は圧倒的だった。

 俺の意志を受けた騎士たちは、どんな強敵も一刀のもとに切り伏せていく。

『馬鹿な……私の軍団が』

『あり得ない……これは悪夢だ』


 俺は戦場の中央で、マスター・キメラと向き合った。

「お前の相手は私だ」

『くそ……ならば直接戦うまでだ』

 マスター・キメラの体が変化し始めた。

 機械部分と生物部分が融合し、巨大な怪物の姿になる。

 体長50メートル、全身が武器と化した究極の戦闘形態。

『これが私の真の姿だ』

『20年間、数万人の犠牲の上に作り上げた完璧な肉体』


 マスター・キメラが巨大な腕を振り下ろしてきた。

 その一撃は空間そのものを破壊する威力を持っていた。

 俺は『白銀の盾』で防御したが、その衝撃で部屋の半分が吹き飛んだ。

『どうだ!これが神の力だ』

『君のような半端者に理解できる領域ではない』


 しかし、俺は微笑んでいた。

「確かに、お前は強い」

「だが、根本的に間違っている」

「力とは、誰かを守るために使うものだ」

 俺は十二枚の翼を大きく広げた。

「お前のように、他者を犠牲にして得た力など……」

「真の力ではない」


『真の力だと?』

『綺麗事を言うな』

『力こそが正義だ』

『強者が弱者を支配するのが自然の摂理だ』

 マスター・キメラが連続攻撃を仕掛けてきた。

 空間を切り裂く爪、次元を貫く光線、現実を歪める咆哮。

 すべてが一瞬で俺に向かってくる。


 だが、俺にはもう迷いがなかった。

『絶対防御領域』

 俺の周囲に完璧な防御圏が展開される。

 マスター・キメラのあらゆる攻撃が、俺に触れることなく無効化された。

『そんな……私の攻撃が全く通らない』

『これが真の神域というのか』


「お前の攻撃には、守りたいものがない」

 俺は静かに歩いてマスター・キメラに近づいた。

「だから弱い」

「私には守りたい人がいる」

 俺の脳裏に美咲の笑顔が浮かんだ。

「その想いが、私を最強にしてくれる」


『白銀の帝王剣』

 俺の右手に、純白に輝く巨大な剣が現れた。

 この剣は、俺のすべての想いを込めた最終兵器。

 美咲を守りたい気持ち、アイン、ツヴァイ、ドライへの信頼、救出したすべての被害者への責任感。

 それらが結晶化した、究極の武器。


『待て……その剣は』

 マスター・キメラが初めて恐怖を示した。

『まさか……概念すら切断する』

『やめろ……私はまだ死ぬわけには』


 俺は剣を振り上げた。

「これで終わりだ」

「安らかに眠れ」

『絶対切断』

 俺の剣が、マスター・キメラを両断した。


 ただし、これは物理的な切断ではない。

 マスター・キメラの「存在」そのものを切断したのだ。

 現実から、記録から、可能性から……すべての次元において、マスター・キメラという存在を消去した。


『そんな……私の研究が……私の野望が……』

『20年間の努力が……』

 マスター・キメラの声が次第に小さくなっていく。

『君は……一体何者だ……』

『人間がここまでの力を……』


「私は白銀の審判者」

 俺は静かに答えた。

「大切な人を守るために戦う、ただの人間だ」

『人間……そうか……』

『私が忘れていたものは……』

『それか……』


 マスター・キメラの最後の言葉と共に、その存在は完全に消滅した。

 20年間の悪夢が、ついに終わった。


 部屋が元の姿に戻り、美咲を囚えていた檻も消えた。

 俺は急いで美咲のもとに駆け寄った。

「美咲!」

「ん……琴音ちゃん?」

 美咲がゆっくりと目を覚ました。

「ここは……どこ?」

「もう大丈夫。悪い夢を見ていただけ」

 俺は美咲を優しく抱きしめた。

「琴音ちゃん……怖い夢だった」

「もう安全よ。私がずっと側にいるから」


 俺は『白銀の帝王』モードを解除し、普通の高校生の姿に戻った。

 美咲に正体がバレてはいけない。

「琴音ちゃんが来てくれて安心した」

「当然よ。美咲を守るのは私の役目だから」

 俺は心から微笑んだ。


 通信機器から、アインの声が聞こえてきた。

『司令官、マスター・キメラの反応が完全に消失しました』

『地下都市も崩壊を始めています』

『急いで脱出を』


 俺は美咲を背負って、崩壊する地下都市から脱出した。

 地上に出た時、朝日が昇り始めていた。

 新しい日の始まり。

 Project Chimeraという悪夢から解放された、平和な世界の始まりだった。


「琴音ちゃん」

 美咲が俺の背中で呟いた。

「何?」

「夢の中で、白い天使が私を守ってくれた」

「天使?」

「うん。すごく綺麗で、すごく強くて」

「でも、なんか琴音ちゃんに似てた」

 俺は苦笑いした。

「きっと、私が美咲を守りたいって強く思ってたから、そんな夢を見たのよ」

「そうかも。琴音ちゃんって、いつも私の天使だもんね」

「天使……かあ」

 俺は照れながら答えた。

「それもいいかもね」


 地下空間では、アイン、ツヴァイ、ドライが俺たちの帰還を待っていた。

「司令官、お疲れ様でした」

「マスター・キメラは?」

「完全に消滅しました」

 俺は簡潔に報告した。

「500名の被害者の状況は?」

「全員の救出と治療が完了しています」

「Project Chimeraの関連施設も、世界各地で一斉摘発が行われました」

「ついに……すべてが終わったのですね」


 三人の表情に、深い安堵と達成感が浮かんでいた。

 長い戦いが、ついに終わった。

「皆さん、本当にお疲れ様でした」

 俺は心から感謝を込めて言った。

「最高のチームでした」


 美咲は地下空間の医療室で眠っていた。

 記憶調整により、誘拐された事実は忘れ、「疲れて眠ってしまった」という記憶に置き換えられている。

 目を覚ました時、美咲は普通の休日を過ごしたと思うだろう。

 それでいい。

 美咲には、平和な日常だけを経験してほしい。


 俺は窓から朝日を見つめながら考えていた。

『白銀の帝王』という新たな力を得たが、それを使う必要はもうないだろう。

 平和な世界で、美咲と普通の高校生活を送る。

 それが俺の新しい目標だった。


「司令官」

 アインが俺のもとに来た。

「これからのゼフィラス・エテルナはどうしますか?」

「そうですね……」

 俺は少し考えてから答えた。

「平和維持活動に専念しましょう」

「もう大きな敵はいません」

「でも、小さな悪や困っている人は常にいる」

「そういう人たちを、静かに助けていければいいと思います」

「素晴らしい方針です」

 三人が同意した。


 ゼフィラス・エテルナは新たな段階に入る。

 戦闘組織から、真の平和維持組織へ。

 俺も『白銀の審判者』から、美咲の親友である普通の高校生へ。

 でも、本当に大切な時には、いつでも戦える準備はある。


 美咲の寝顔を見つめながら、俺は静かに誓った。

面白いと感じていただけましたらブクマ、評価よろしくお願いします。

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