第36話「最終作戦開始」
午後10時ちょうど。
「作戦『ファイナル・ジャッジメント』開始」
東京都心の地下500メートル、マスター・キメラの地下都市への最終突入が始まった。
俺は『白銀の審判者』として完全武装し、アイン、ツヴァイ、ドライと共に侵入ポイントに到達していた。
「司令官、地下都市の入り口を確認しました」
ツヴァイが隠蔽状態で偵察を完了した。
「警備は?」
「予想以上に軽微です。まるで我々を歓迎しているかのような状況です」
「罠の可能性が高いですね」
アインが慎重に分析した。
「マスター・キメラが司令官との直接対決を望んでいる証拠でしょう」
地下都市の入り口は、巨大な魔法陣に守られていた。
しかし、その魔法陣は俺たちの接近と共に自動的に開放された。
「完全に招待されていますね」
ドライが皮肉っぽく言った。
「どうしますか、司令官?」
「予定通り進行します」
俺は決断した。
「罠だと分かっていても、他に選択肢はありません」
「了解しました」
地下都市に足を踏み入れた瞬間、俺たちは息を呑んだ。
そこは想像を絶する規模の地下空間だった。
天井は高さ100メートル、広さは東京ドーム20個分はあろうかという巨大空間。
そして、そこには完全に近代化された都市が広がっていた。
「これは……」
「まさに地下の巨大都市ですね」
アインが驚愕の声を上げた。
「建設にどれほどの年月をかけたのでしょうか」
都市の中央には、ひときわ高い塔がそびえ立っていた。
「あれがマスター・キメラの本拠地でしょうね」
ツヴァイが分析した。
「高さは約300メートル。頂上部分に強い魔力反応があります」
「被害者たちの反応は?」
「都市各所から確認できます」
ドライが報告した。
「推定500名、予想通りの人数です」
その時、地下都市全体に放送が響いた。
『ようこそ、我が都市へ』
マスター・キメラの歪んだ声が空間を満たした。
『特に、白銀の審判者よ。君を心待ちにしていた』
『この都市は、私の20年にわたる研究の集大成だ』
『人間と魔物、科学と魔法、すべてを融合させた究極の空間』
『君にはゆっくりと見学してもらいたい』
俺は無視して前進を続けた。
しかし、マスター・キメラの声は続いた。
『急ぐ必要はない。君の大切な人たちは安全だ』
その言葉に、俺は足を止めた。
「大切な人たち?」
『そう。例えば……美咲という少女』
俺の血が凍った。
『現在、私の客人として丁重にもてなしている』
「嘘だ……美咲は安全な場所にいるはず」
『本当かな?確認してみるといい』
俺は急いで美咲に連絡を取ろうとしたが、通信が遮断されていた。
「司令官……」
アインが心配そうに俺を見つめた。
「落ち着いてください。マスター・キメラの罠です」
「でも、もし本当に美咲が……」
俺の心が動揺していた。
『君の動揺が手に取るように分かる』
マスター・キメラが嘲笑した。
『愛する者を人質に取られた時の、その絶望的な表情』
『研究材料として実に興味深い』
俺は怒りに震えた。
「美咲を利用するな!」
『おや、反応した。やはり重要な存在なのだね』
『安心したまえ。彼女には指一本触れていない』
『ただし、君が私の元に来るまでの話だが』
「司令官」
ツヴァイが冷静に言った。
「今は美咲さんよりも、ここにいる500名の被害者を優先すべきです」
「そうです」
ドライが同意した。
「マスター・キメラの挑発に乗ってはいけません」
アインも頷いた。
「まず確実に救える人たちを救いましょう」
俺は深呼吸して冷静さを取り戻した。
確かに、感情的になってはいけない。
「分かりました。予定通り作戦を続行します」
「第一段階、開始」
ツヴァイ率いる情報部隊が都市内の偵察を開始した。
「被害者の正確な位置を特定します」
「防御システムの弱点も調査中です」
30分後、詳細な都市構造が判明した。
「被害者は5つの区画に分散して収容されています」
「各区画に100名ずつ、合計500名」
「警備は各区画に20名程度の戦闘員」
「第二段階、開始」
ドライ率いる戦闘部隊が各区画への同時攻撃を開始した。
「区画A、制圧開始」
「区画B、制圧開始」
「区画C、制圧開始」
「区画D、制圧開始」
「区画E、制圧開始」
5つの部隊が同時に行動を起こした。
戦闘は予想以上に順調だった。
「区画A、制圧完了」
「区画B、制圧完了」
「区画C、制圧完了」
「区画D、制圧完了」
「区画E、制圧完了」
わずか1時間で全区画の制圧が完了した。
「第三段階、開始」
アイン率いる救出部隊が被害者の救出を開始した。
「医療チーム、各区画に展開」
「搬送チーム、避難ルートを確保」
「500名全員の安全を確認しました」
「重篤者50名、要治療者150名、軽症者300名」
「治療開始。全員の安定化に約2時間が必要です」
『なかなかやるじゃないか』
マスター・キメラの声が再び響いた。
『だが、本当の試練はこれからだ』
『さあ、私の元に来たまえ』
『美咲という少女の安全のためにも』
俺は中央の塔を見上げた。
あそこにマスター・キメラが待っている。
そして、もしかすると美咲も。
「第四段階、開始」
俺は最終決戦に向かって歩き出した。
「司令官、私たちも同行します」
アインが申し出た。
「いえ、被害者の安全確保を優先してください」
「でも……」
「マスター・キメラは私が一人で対処します」
俺は三人を見つめた。
「皆さんには、被害者たちを安全な場所まで避難させてもらいたいのです」
「分かりました」
三人が渋々同意した。
「ただし、危険を感じたらすぐに連絡してください」
「もちろんです」
俺は一人で中央の塔に向かった。
塔の入り口には、巨大な扉があった。
しかし、俺の接近と共に扉は自動的に開いた。
「やはり、完全に招待されているな」
塔の内部は螺旋状の階段になっていた。
300メートルの高さを一段ずつ上っていく。
途中、無数の研究室や実験室を通り過ぎた。
どの部屋も、おぞましい実験の痕跡が残されていた。
「これほどの規模で人体実験を……」
俺の怒りがさらに高まった。
ついに最上階に到達した。
そこは巨大な円形の部屋になっていた。
部屋の中央に、マスター・キメラが立っていた。
実際に見ると、写真以上に異形の存在だった。
人間と機械と魔物が混在した、まさに「キメラ」そのものの姿。
『よく来たね、白銀の審判者』
マスター・キメラが俺を見つめた。
『君こそが、私の研究の最終目標だ』
「最終目標?」
『そう。人間を超越した完全なる存在』
『君は自然にそれを達成している』
『私は科学の力でそれを再現しようとしている』
部屋の隅に、小さな檻があった。
その中に、美咲が囚われていた。
「美咲!」
俺は駆け寄ろうとしたが、透明な障壁に阻まれた。
『心配はいらない。彼女は無傷だ』
『ただし、君が私に協力するまでの話だが』
美咲は意識を失っているようだった。
でも、確かに無傷のようだ。
「美咲に何をした?」
『何もしていない。少し眠ってもらっているだけだ』
『君との戦いの邪魔をされては困るからね』
俺は怒りで体が震えた。
美咲を巻き込むなんて、絶対に許せない。
「覚悟しろ、マスター・キメラ」
俺は戦闘態勢を取った。
『そう来なくては面白くない』
マスター・キメラも戦闘準備を始めた。
『では、始めようか』
『人類の未来をかけた、最後の実験を』
ついに、運命の最終決戦が始まった。
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