第35話「美咲の成長」
運命の土曜日、午後2時。
「琴音ちゃん!」
約束のカフェで、美咲が手を振って俺を迎えてくれた。その笑顔は相変わらず眩しく、俺の心を和ませてくれる。
「お疲れ様。特別講習はどうだった?」
「すごく勉強になったよ!」
美咲が興奮気味に話し始めた。
「『危機管理と冒険者の心構え』っていう授業だったんだけど、本当に深い内容だった」
俺は内心で苦笑いした。それもアインたちが準備したカリキュラムに違いない。
「どんな内容だったの?」
「『力を持つ者の責任』について詳しく学んだの」
美咲の瞳が真剣になった。
「冒険者は強い力を持つからこそ、その力をどう使うかが大切だって」
「なるほど」
「それに、『誰かを守りたい気持ちが一番の強さになる』って教わったの」
俺は胸が熱くなった。その通りだ。俺も美咲を守りたい気持ちが、一番の力の源になっている。
「すごくいい授業だね」
「うん!それで思ったの」
美咲が俺を真っ直ぐ見つめた。
「私も琴音ちゃんみたいに、誰かを守れる人になりたいって」
「私みたいに?」
「そう。琴音ちゃんっていつも、周りの人を大切にしてるでしょ?」
美咲が嬉しそうに続けた。
「困ってる人がいたら放っておけないし、友達のことを本当に大切にしてくれる」
「私、琴音ちゃんと友達になれて本当に良かった」
俺は美咲の言葉に感動していた。
「それで、今日の大切な話って?」
美咲が好奇心いっぱいの表情で尋ねた。
俺は少し迷った。正体は明かせないが、彼女への想いは伝えたい。
「美咲にとって、私はどんな存在?」
「え?」
「友達として、どんな風に思ってくれてる?」
美咲が少し考えてから答えた。
「琴音ちゃんは……私の一番大切な親友」
「それから、私の憧れでもあるかな」
「憧れ?」
「うん。琴音ちゃんって、なんか特別なオーラがあるの」
「困ってる人を助けたり、みんなを笑顔にしたり」
「私もそんな風になりたいって、いつも思ってる」
俺は美咲の言葉に、深い感動と同時に複雑な気持ちを感じていた。
彼女は知らないうちに、俺の活動に憧れを抱いている。
「私にとって、美咲はかけがえのない存在だよ」
俺は心から言った。
「美咲がいてくれるから、私も頑張れる」
「私も!琴音ちゃんがいるから、新しいことに挑戦できる」
美咲が嬉しそうに答えた。
「これからも、ずっと親友でいてね」
「もちろん」
俺は微笑んだ。
「何があっても、その関係は変わらない」
「そういえば」
美咲が思い出したように言った。
「最近、学校が『特別教育機関』に指定されたの知ってる?」
「特別教育機関?」
「うん。魔力能力者が増えてるから、一般の学校でも魔力教育を行うことになったの」
俺は驚いた。そんな変化が起きているとは知らなかった。
「琴音ちゃんも、魔力適性検査受けてみない?」
「え?私が?」
「うん。なんとなくだけど、琴音ちゃんにはすごい力が隠れてる気がするの」
美咲の直感の鋭さに、俺は冷や汗をかいた。
「そんな、私には無理だよ」
「そうかなぁ」
美咲が首をかしげた。
「でも、もし琴音ちゃんに魔力があったら、一緒に冒険者になれるかも」
「一緒に?」
「うん!二人で困ってる人を助けるの。素敵じゃない?」
俺は複雑な気持ちになった。
実際は、俺は既に世界最大規模で「困ってる人を助けて」いる。
でも、美咲とそんな活動ができたら、確かに素敵だろう。
「いつか、そんな日が来るといいね」
「うん!」
美咲が嬉しそうに答えた。
カフェで2時間ほど談笑した後、俺たちは街を歩いた。
「琴音ちゃん、最近また大人っぽくなったよね」
「そうかな?」
「うん。なんていうか、責任感が強くなったっていうか」
美咲の観察力は本当に鋭い。
「でも」
美咲が俺の腕に軽くもたれかかった。
「私の大切な親友っていうのは変わらないよね」
「もちろん」
俺は心から答えた。
「美咲との関係は、私にとって一番大切なものだから」
夕方になって、俺たちは分かれることになった。
「今日は楽しかった!」
美咲が満面の笑みで言った。
「私も。また来週会おう」
「うん!約束だよ」
美咲が手を振って去っていく。
俺はその後ろ姿を見送りながら、決意を新たにしていた。
この笑顔を、絶対に守る。
午後6時、俺は地下空間に戻った。
「司令官、お疲れ様でした」
アインが出迎えてくれた。
「美咲さんとの時間はいかがでしたか?」
「とても有意義でした」
俺は美咲との会話を簡潔に報告した。
「美咲は確実に成長していますね」
「はい。でも、相変わらず純粋で優しい子です」
「それを守るのが、私たちの使命ですね」
アインが真剣に言った。
「最終作戦の準備状況はいかがですか?」
「完璧です」
ツヴァイが報告した。
「各部隊の配置も完了し、作戦開始を待つのみです」
「マスター・キメラの地下都市への侵入ルートも確保しました」
ドライが追加報告をした。
「今夜、必ず決着をつけましょう」
「それと」
アインが重要な情報を伝えた。
「マスター・キメラから最後の通信が入りました」
「最後の通信?」
「はい。『今夜10時、地下都市で待っている』とのことです」
「完全に挑発ですね」
「そうです。でも、これで敵の居場所は確実です」
俺は時計を確認した。現在午後6時15分。
あと4時間弱で、運命の戦いが始まる。
「皆さん、最後の確認をお願いします」
「了解しました」
作戦会議室で、最終ブリーフィングが行われた。
「作戦『ファイナル・ジャッジメント』、午後10時開始」
アインが最終確認を行った。
「目標:マスター・キメラの完全撃破とProject Chimeraの壊滅」
「推定被害者数:地下都市に500名が囚われています」
ツヴァイが救出対象を報告した。
「全員を無事に救出するのが最優先です」
「了解」
各部隊長が力強く答えた。
「司令官」
ドライが最後に言った。
「今回の作戦で、私たちの長い戦いが終わります」
「そうですね」
「美咲さんのような人たちが、安全に夢を追える世界」
「それがもうすぐ実現します」
アインとツヴァイも同意した。
俺は改めて、この戦いの意味を確認した。
Project Chimeraを倒すことで、世界はより安全になる。
美咲のような純粋な人たちが、安心して夢を追える。
「絶対に成功させましょう」
俺は立ち上がった。
「今夜、すべてに決着をつけます」
午後9時30分、作戦開始30分前。
俺は『白銀の審判者』モードに変身した。
白銀の髪、琥珀色の瞳、神聖な外套。
これまでで最も強い決意を込めて、最終戦闘形態を完成させた。
「司令官」
アイン、ツヴァイ、ドライが最終装備を完了して現れた。
三人とも、これまでにない気迫に満ちている。
「準備完了です」
「では、出発しましょう」
俺は仲間たちと共に、マスター・キメラの待つ地下都市に向かった。
美咲との約束を胸に、世界の平和をかけた最後の戦いが始まろうとしていた。
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